2015年03月 - Age of Pen

明治の桜

塚本邦雄
遠ざかりつつちかづける死ぞ春の霰くらひてたまゆらたのし  (黄金律)
春きざすとて戦ひと戦ひの谷間に覚むる幼な雲雀か  (水葬物語)

愛知県犬山市の明治村へ行きました。
1-LR5__3310203-4.jpg

2-LR5__3310250-4.jpg

3-LR5__3310805-4.jpg

4-LR5__3310836-3.jpg

ありし日の

塚本邦雄
歌ありし日の夕つかた望みける山櫻なりふるへやまずも  (詩歌變)
博徒曳かれゆきそののちの夕櫻  (斷絃のための七十句)

なおなお奈良。
1-LR5__EE65437-4.jpg

2-LR5__EE65590-3.jpg

3-LR5__EE65548-3.jpg

4-LR5__EE65793-4.jpg

5-LR5__EE65781-4.jpg

さくらとなる刻に

塚本邦雄
夕ざくら夜さくらとなる刻にしてはたとラシーヌ忌を思ひ出づ  (黄金律)
探梅のきのふの香りよこがほに別れけり奈良帯解(おびとけ)の驛  (花劇)

なおも。
1-LR5__EE65618-4.jpg

2-LR5__3260077-3.jpg

3-LR5__EE65511-3.jpg

4-LR5__3260516-3.jpg

1-LR5__3260049-3.jpg

咲くも咲かずも

塚本邦雄
はしきやし生駒郡(いこまごほり)は斑鳩町(いかるがちやう)三番地くらやみのやまざくら  (黄金律)
さくらなどこの世のほかの何ならむわれは心中(しんちゆう)に歌を弑(しい)せり  (波瀾)
山櫻咲くも咲かずも言葉こそ死を告ぐる時みづみづしけれ  (天變の書)

なおも奈良。
2-LR5__3260150-3.jpg

3-LR5__3260259-3.jpg

1-LR5__3260022-3.jpg

4-LR5__3260507-3.jpg

花見にゆけ

塚本邦雄
母に示す青岸渡寺の護符一ひらこれ持ちて他界の花見にゆけ  (波瀾)
さくらばなもつとも近き屋上に舐めて釘打つ若き棟梁  (黄金律)
雲雀燒いてくらはむものをうらがなし母方の祖母(おほはは)の名やよひ  ( 〃 )

ひきつづき奈良氷室神社、二月堂、三月堂です。
きょうは閲覧注意、鹿のフンあります。
1-LR5__3260068-3.jpg

1-LR5__3260358-4.jpg

3-LR5__3260215-3.jpg

4-LR5__3260222-3.jpg

桜を見たうれしさに写真をしくじる

塚本邦雄
大佛殿晝のたそがれ黑絹(こくけん)の傘半開きにして戀の人  (閑雅空間)
五重の塔のうちら仄かに光さしゐたる記憶とエスカルゴの食(け)  ( 〃 )
佛の座咲けり心にしろ何にしろまづしきものはふしあはせなり  (黄金律)

今年はじめての桜を撮りに、奈良氷室神社から二月堂、三月堂。
桜を見たうれしさに心おどって、ついピントを外した写真ばかり撮ってしまいました。後悔しきりです。
1-LR5__3260144-3.jpg

2-LR5__EE65799-3.jpg

3-LR5__3260281-3.jpg

春はやく

塚本邦雄
突然にわが寝室をよこぎりてまぼろしの沈丁花前線  (黄金律)
春はやく肉體のきず靑沁むとルオーの昏き繪を展くなり  (水葬物語)

1-LR5__RD22971-8.jpg

2-LR5__EE51132-8.jpg

1-LR5__RD22953-8.jpg

花の無い昨日明日

塚本邦雄
人さらひ去るや木賊(とくさ)の浅綠人に渇かずばいまかへり來よ  (睡唱群島)
有限のことばと知れど花の木のくれなゐの闇ここにおよぶ  (閑雅空間)
花の無い昨日(きぞ)より明日へ日時計の日に背き指す刻の翳りを  (水葬物語)

さくらの開花が噂にあがっているというのにまだ今年は一枝も撮れていません。口惜しまぎれに一年前撮った写真で。
1-LR5__EE99818-8.jpg

2-LR5__EE99845-8.jpg

花と鹽と蠍の春とは

塚本邦雄
春季大掃除二階のラジカセのイゾルデのアリア停(と)めろ、いますぐ  (風雅黙示録)
おもふことさしてそれとは菜の花と鹽と蠍の春のゆふぐれ  (されど遊星)

1-LR5__3190287-8.jpg

2-LR5__3190141-8.jpg


あなたは

塚本邦雄
父よあなたは弱かつたから生きのびて昭和二十年春の侘助  (魔王)
ことばよりこゑにきずつくきぬぎぬの空や野梅(やばい)の蘂の銀泥  (されど遊星)

1-JPEG25.jpg

2-JPEG25-001.jpg

兩のてのひらが溺死寸前

塚本邦雄
洗面器に漬けたる兩のてのひらが溺死寸前春のあけぼの  (黄金律)

1-LR5__RD26648-7.jpg

2-LR5__RD26572-7.jpg

3-LR5__RD26491-7.jpg

4-LR5__RD26479-7.jpg

5-LR5__3190221-7.jpg

恥うつくしき日日は過ぎ

塚本邦雄
イエスは父に先立ちたるかおくれしか鋸屑(おがくず)にしろがねの忘れ霜  (黄金律)
すみれ咲く或る日の展墓死はわれを未だ花婿のごとく拒まむ  (星餐図)
水の上に死の鶯の眸(まみ)とぢて恥うつくしき日日は過ぎたり  (靑き菊の主題)

なお梅園。
2-LR5__RD26554-7.jpg

1-LR5__3190268-7.jpg

3-LR5__3190279-7.jpg

4-LR5__RD26457-7.jpg

5-LR5__RD26523-7.jpg

早春の

塚本邦雄
父は悲愴なりとや春の夜の薄荷倉庫が薄(うす)き光をはなつ  (歌人)
拝啓時下煉獄の候 わかくさの苦艾(チエルノブイリ)も炎えあがるべく  (魔王)
早春の夜夜に逢ひつつ舌荒れし二人が糧(かて)のラクリマ・クリスチ  (水銀傳説)

ご近所の神社の梅園で。
1-LR5__3190194-7.jpg

2-LR5__3190197-7.jpg

3-LR5__3190236-7.jpg

4-LR5__RD26602-7.jpg

1-LR5__3190122-7.jpg

はしきやし世界

塚本邦雄
自動車廢棄場に春雨 はしきやし世界とめどなくくづるる世界  (黄金律)
寒旱つづくある日に口衝いて「新幹線瞬間接着劑」  ( 〃 )
慄然たるものを愛(を)しみて春の夜にCDの「君が代」を買ひ來つ  ( 〃 )

先月行った石徹白の写真に、2年前の写真をくわえて作成しました。
はしきやしは、いとおしい、なつかしい、いたわしいといった意味だそうです。


みち往くさ

塚本邦雄
まひるまの渇き猩猩緋(しやうじやうひ)とおもへ石動(いするぎ)のみち往くさかへるさ  (花にめざめよ)
秋風の曾曾木(そそぎ)の海に背を向けてわれは靑天よりの落武者  (天變の書)
都鳥やつるるころの花見月ちりぢりの愛よみがへるな  (新歌枕東西百景 石川県鹿島郡鳥屋まち六日市抜月)

1-LR5__ADB6725-7.jpg

2-LR5__ADB6578-7.jpg

ジェルミ

塚本邦雄
沈丁花 消し忘れたるテレヴィジョンには短刀(どす)のみてジェルミが歩む  (豹變)
早春のあかとき昏し除酵(ぢよかう)麪麭(パン)イエスの咽喉(のど)踰(こ)ゆるころほひか  (歌人)

1-LR5__ADB6499-7.jpg

2-LR5__ADB6443-7.jpg

3-LR5__ADB6449-7.jpg

4-LR5__ADB6465-7.jpg

5-LR5__ADB6492-7.jpg

パンクす

塚本邦雄
自轉車パンクす大和高市郡桃花鳥野(つきの)  (燦爛)
夕鶴の虛空つかめる寒さかな  ( 〃 )

1-LR5__ADB6243-7.jpg

あからひく加賀・・

塚本邦雄
賄賂(まひなひ)とせむには淡しあからひく加賀屋伊織の銘菓「きぬぎぬ」  (風雅)
安息日。花屋のずるいマダム、掌に鋏ふり唄ふ音癡のキリエ  (水葬物語)

北陸新幹線の金沢~東京間開通というニュースが朝からかしましいけれど、かつて金沢に住んだ私は、ちょっとうれしい。
ニュー・アイテムを手に入れて、今日初撮りです。
1-LR5__EE44990-7.jpg

2-LR5__EE44991-7.jpg

一抹のあわれみを

塚本邦雄
水貝のにがみたまゆら あやふきにあそぶたましひ 櫂の音する  (歌人)
黒谷の晝の紅梅一抹のあはれみを死者よりぞたまはる  (閑雅空間)
雪は足跡より解けはじめわが赴かぬ詩集『煉獄』出版記念會  (風雅)

きのうと同じく二月末に撮ったままお蔵入りになっていた写真。きょうは郡上で。
1-LR5__ADB6174-7.jpg

2-LR5__ADB6165-7.jpg

3-LR5__EE04300-5.jpg

うしろむきに走る

塚本邦雄
あたたかき風をはらめる帆船の水夫が予知しゐる島の花季  (歌集未収録)
出埃及記とや 群靑の海さして乳母車うしろむきに走る  (綠色研究)
兩岸にレクイエムの響(な)る河をゆく船、たそがれて薊色の帆  (水葬物語)

最近写真を撮ってないので二月末に撮ったままお蔵入りしていた美濃白鳥でお茶をにごし。
1-LR5__EE04229-5.jpg

2-LR5__EE04238-5.jpg

平和への祈り ~鎮魂の思いをこめて

塚本邦雄
暗い沖にひびける唄はハレルヤのかへりこぬ君によする禱りを  (歌誌『靑樫』四号 L氏のための二十行詩)
父とわれ稀になごみて頒(わか)ち讀む新聞のすみの海底地震  (水銀傳説)
虹見うしなふ道、泉涸るる道、みな海邊の墓地に終れる  (水葬物語)
眠る家族の脚入りみだれ峽灣(フイヨルド)のぎざぎざの死への遠さと近さ  (綠色研究)

照井 翠 (龍宮)
在るはずの町眼裏に雪が降る
唇を嚙み切りて咲く椿かな
繰りかへす過ちに春巡りきし
三月や遺影は眼逸らさざる

4年以上前の写真で短いレクイエムです。
東日本大震災。こころに弔旗をかかげ。


サウンドは、海から来て、オキシジェンデストロイヤーで海に帰って行ったあのレジェンドの映画から。
 やすらぎよ 光よ 疾く かえれかし


今さらの2月まとめ

塚本邦雄
高度千メートルの空より來て卵食ひをり鋼色(はがねいろ)の飛行士  (装飾樂句)
まどろめばこの紺の夜に兵の屍(し)を吊りて練絹のパラシュート泛(う)く  (水銀傳説)
殺虫剤そそぐ百合の木ざわざわと心にはアメリカを空襲せり  (魔王)

二月の撮影のまとめをしようとして結局、二月一日の写真の残り物で、まとめの代わりにレクイエム。
今日は東京大空襲の日です。


花のにおいする

塚本邦雄
春寒のいたむみぞおちややふとりぎみの寝釋迦を仰ぎて愛す  (黄金律)
斑雪(はだれ)ひととき花のにほひす海邊(かいへん)のそのかみ娼家たりし四、五軒  ( 〃 )

カトリック主税町教会。
1-LR5__2280179-5.jpg

2-LR5__2280173-5.jpg

3-LR5__2280184-5.jpg

われの姓

塚本邦雄
惨劇つづるべき原稿用紙八百字詰(づめ)まづわれの姓名をしるす  (魔王)
第三突堤正體もなき花束を拾ひてはにかめり風太郎  (獻身)

名古屋市制資料館。
1-LR5__EE84930-5.jpg

2-LR5__2280248-14.jpg

これっばかりのしあわせに

塚本邦雄
梅月夜一歩あやまつときめきのこのきりぎしに眠る蝮(まむし)ら  (睡唱群島)
これつぱかりのしあはせに飼ひころされて今朝も木苺(きいちご)ジャム琥珀色(こはくいろ)  (黄金律)
春疾風(はるはやて)吹き入る堂の薄闇に歡喜天(くわんぎてん)のみ歡喜(くわんぎ)したまふ  ( 〃 )

窓、窓、窓。
武田五一設計の旧春田鉄次郎邸、カトリック主税町教会、旧名古屋控訴院・地方裁判所留置場の。
昨日は啓蟄でしたが、マムシにはまだ出てこないで欲しい。
1-LR5__EE84726-14.jpg

2-LR5__EE84685-14.jpg

3-LR5__EE84890-14.jpg

啓蟄の

塚本邦雄
おそろしき地球の外へ啓蟄の蜥蜴くはへて飛び去る雉子(きぎす)  (風雅黙示録)
紅梅白梅暮れよ祖父(おほぢ)が若き日はこぶしもてぬぐひたりける涙(なんだ)  (詩歌變)
父は二、三遍死にかけて三月に花の博覧會のわびすけ  (黄金律)

名古屋「文化のみち 名古屋市制資料館」。
2-LR5__2280302-14.jpg

3-LR5__2280320-14.jpg

1-LR5__EE84764-14.jpg

明日の世界を

塚本邦雄
石に坐し明日の世界を彈きいだす冷酷なピアニストを戀ふも  (装飾樂句)
わざはひを待つばかりなるさきはひに涅槃会昏るる氷室陽炎(ひむろかげろふ)  (星餐図)
いもうとよ髪あらふとき火あぶりのまへのジャンヌの黑きかなしみ  (綠色研究)

名古屋「文化のみち」へもどって。
1-LR5__2280192-14.jpg

2-LR5__EE84699-14.jpg

3-LR5__EE84740-14.jpg

4-LR5__EE84639-14.jpg

四日のモモは、十日の菊のたぐい

塚本邦雄
靑春のいまありてなき忘れ霜サキとうちむらさきを愛して  (星餐図)
母見しごとく目をつむるなり夕風に多産の桃の枝撓みあふ  (日本人靈歌)
紺靑の天幕を打つ涅槃西風(ねはんにし)奇術師が少女を輪切りにす  (豹變)

一日おくれの桃の節句。
二月に撮った、伊勢二見と亀山関のひなまつりの写真の残り物で。


にくむ三月の

塚本邦雄
雨衣の膜へだててにくむ三月の市電の熱き鐡工の脚  (綠色研究)

名古屋「文化のみち」。
1-LR5__2280136-13.jpg

なべてまづしく

塚本邦雄
ものなべてまづしくうるみ天國のごとしも三月の麥粒腫(ものもらひ)  (されど遊星)
外郎(ういらう)つめたしかりにもおとうとと呼んで三月の夜の酔ひをわかちし  (歌人)
深更は瞼にゑがく「鮟鱇」の旁(つくり)のあはれ 春ちかきかな  (黄金律)

名古屋「文化のみち 双葉館」。
1-LR5__2280095-13.jpg

2-LR5__2280033-13.jpg

1-LR5__EE84442-13.jpg

1-LR5__EE84424-13.jpg

はや三月

塚本邦雄
連雀のはたと失せたる三月のあした虛空に斷崖あるか  (黄金律)

名古屋「文化のみち」で。
1-LR5__2280141-13.jpg

2-LR5__EE84645-13.jpg

3-LR5__2280116-13.jpg