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高いルーターと安いルーターの速度差はどれくらい?8千円~4万円台の3機種を比較
2023年3月3日 06:22
Wi-Fiルーターには、性能や価格の違いによって、モデルが複数存在する。今回は上から下まで、そんなモデルごとの違いに注目してみた。“松・竹・梅”の3つの価格帯でどういった違いがあるのか、性能に差は出るのかを検証してみた。
(1) 数千円から数万円と価格差の大きいルーター
(2) 松竹梅の価格帯の3製品をピックアップ
(3) スペックを比べて分かる松竹梅の違い
(4) 実際の性能はどこまで違うか?
(5) 購入するなら「竹」以上がおすすめ
数千円から数万円と価格差の大きいルーター
同じWi-Fi 6対応ルーターなのに、これは8,000円で、あれは1万8,000円、そちらは4万円……。一体、この差はどこにあるのだろうか?そう疑問に思う人は多いかもしれない。
こうしたWi-Fiルーターの選び方の難しさへの対策は、各メーカーも苦心しており、「ハイエンド」や「エントリー」といったカテゴリ分けをしていたり、推奨利用環境として接続台数や接続人数、建物の構造、間取りなどをパッケージで示していたりと、さまざまな工夫をしている。
しかしながら、同じカテゴリの製品なのに価格差が数万円もあると、その理由を具体的に知りたいと思うものだ。そして、その差が自分にとって実際に価値のあるものなのかも気になるところだ。
そこで今回は、松竹梅の3つのランクの製品をピックアップし、それぞれ何が違うのか?そして、実際にどれくらい性能が違うのかをベンチマークテストで検証してみた。Wi-Fiルーターの購入や買い替えの時の参考になれば幸いだ。
松竹梅の価格帯の3製品をピックアップ
今回ピックアップしたのは、すべてバッファローの製品となる。
同社は、Wi-Fiルーターを「フラグシップ」「ハイパフォーマンス」「プレミアム」「スタンダード」「エントリー」の5つのカテゴリに分類しているが、今回は以下のように、より分かりやすく、松竹梅と3つのカテゴリで選んだ。
Wi-Fiルーターの購入傾向を考えると、1万円程度が1つの目安になるので、そこを挟んで、1万円で少しおつりが来るお買い得な「梅」、1万円以上だが2万円以下で性能に妥協せずに済む「竹」、そして予算に関係なく最高性能重視のユーザーのための「松」という基準で選んでいる。
なお、今回はWi-Fi 6Eは含まず、Wi-Fi 6対応製品のみに限定している。6GHz帯が利用可能なWi-Fi 6Eは、どちらかというとメッシュや中継など2台以上の親機を設置するケースでメリットがあるため、シンプルに1台のみを設置する環境をターゲットにWi-Fi 6対応製品のみに絞っている。
スペックを比べて分かる松竹梅の違い
まずは、スペックを比べてみよう。比較することで、どこにコストがかかっているのかが明確になる。
WXR-6000AX12P | WSR-5400AX6S | WSR-1800AX4S | |
---|---|---|---|
実売価格 | 4万3,000円前後 | 1万7,000円前後 | 8,000円前後 |
対応規格 | Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax) | Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax) | Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax) |
バンド数 | 2 | 2 | 2 |
160MHz対応 | 〇 | 〇 | × |
2.4GHz帯の速度 | 1,147Mbps | 573Mbps | 573Mbps |
5GHz帯の速度 | 4,803Mbps | 4,803Mbps | 1,201Mbps |
2.4GHz帯のチャネル | 1-13ch | 1-13ch | 1-13ch |
5GH帯のチャネル | W52/W53/W56 | W52/W53/W56 | W52/W53/W56 |
2.4GHz帯ストリーム数 | 4 | 2 | 2 |
5GHz帯のストリーム数 | 8 | 4 | 2 |
アンテナ | 4本(8本) | 内蔵(4+2本) | 内蔵(2+2本) |
WPA3 | 〇 | 〇 | 〇 |
メッシュ | EasyMesh | EasyMesh | EasyMesh |
IPv6 | 〇 | 〇 | 〇 |
IPv6 over IPv4(DS-Lite) | 〇 | 〇 | 〇 |
IPv6 over IPv4(MAP-E) | 〇 | 〇 | 〇 |
WAN | 10Gbps | 1Gbps | 1Gbps |
LAN | 10Gbps×1、1Gbps×3 | 1Gbps×4 | 1Gbps×4 |
USB | USB 3.0 | - | - |
セキュリティ | ネット脅威ブロッカー2プレミアム | ネット脅威ブロッカーベーシック | ネット脅威ブロッカーベーシック |
VPNサーバー | - | - | - |
ファームウェアの自動更新 | 〇 | 〇 | 〇 |
本体サイズ | 300×195×75mm | 59×177×175mm | 36.5×160×160mm |
【お詫びと訂正】初出時の表にて、WSR-1800AX4Sが誤って160MHz対応となっておりました。お詫びして訂正させていただきます。
ポイントとなるのは、無線性能、有線性能、そしてUSBやセキュリティなどの付加機能の3点だ。
無線性能の違い
無線については、内部の設計に大きく影響するため、コストへの影響も大きい。
まず、梅のWSR-1800AX4Sだが、この機種はWi-Fi 6(5GHz帯)の最大速度が1,201Mbpsとなる。一般的なスマホやPCも端末側がサポートするWi-Fi 6の最大速度は1,201Mbpsが一般的なので、ほとんどのWi-Fi 6対応端末の性能を損なうことなく接続できることになる。
Wi-Fi 6の場合、この1,201Mbpsがベースとなる最低ラインだ。
しかし、一部のスマホ(Pixel 6/7など)や、ゲーミングPCなどは、160MHz幅対応と無線で使う電波の帯域幅を従来の2倍にした方式に対応しており、最大速度が2,402Mbps対応となっているため、こうした機器を接続しても1,201Mbpsでしか通信できない。
梅とそれ以外の機種の最大の違いはここにある。
一方、松と竹は、どちらも4,803Mbpsに対応している。前述したように、スマホやPCは、高性能なモデルでも最大速度が2,402Mbpsなので、4,803Mbpsは無駄に思えるが、これはスマホやPCなども含めた複数デバイスの同時接続で生きてくる。
Wi-Fi 6では、MU-MIMOやOFDMAと呼ばれる仕組みによって、複数台の端末が同時にアクセスポイントと通信できる。この際、アクセスポイント側が2,402Mbps対応だと、2,402Mbps対応の端末を1系統しか接続できないが、4,803Mbps対応なら2系統分の帯域を確保できる。
つまり、たくさんの端末を接続した場合に、より快適に使えるのが、松や竹のモデルと言える。
さらに、松のWXR-6000AX12Pは、同じ4,803Mbps対応でも、対応ストリーム数が8になっている(竹のWSR-5400AX6Sは4)。
このストリーム数が、同時に接続できる台数に関係してくる。スマホやPCなどの端末は、80MHz幅×2ストリーム=1,201Mbpsか、160MHz幅×2ストリーム2,402Mbpsで通信する。いずれも2ストリームだ。
竹のWSR-5400AX6Sは、4ストリーム対応なので、2ストリーム対応の端末の同時接続は2系統が限界になる。一方、松のWXR-6000AX12Pは8ストリーム対応なので、同時接続は4系統まで対応できる(8ストリームは80MHz幅の1,201Mbpsのみ対応)。
ストリーム数が増えると、内部に電波を送受信するためのモジュールを多く搭載しなければならなくなるだけでなく、アンテナの数も増える。
もちろん、多くの情報を処理なければならないたいめ、よりパワフルなCPUや多くのメモリも搭載しなければならない。これが、同じ4,803Mbps対応でも、竹よりも松のコストが高くなる仕組みとなる。
有線性能の違い
有線については、松とそれ以外の対決となる。竹と梅は、WANもLANも1Gbps対応の有線LANとなっているが、松のみWANとLANにそれぞれ1ポートずつ10Gbps対応の有線ポートを搭載している。
現状のWi-Fiルーターは、一般的な機種で1Gbps対応、ゲーミングやメッシュ対応モデルで2.5Gbps対応、そしてハイエンドで10Gbp対応の有線を搭載する。松のWXR-6000AX12Pは、この10Gbpsポートを2つも搭載している。
これにより、最近増えてきた10Gbps対応のインターネット回線や10Gbps対応のNASなどの機器を速度を落とさず接続できる。
10Gbpsの有線は、そのモジュール自体も高価だが、大量のデータ処理が必要なことで発熱が大きくなる。このため、大型のヒートシンクを搭載していたり、内部の排熱設計を工夫したりと、通常の1Gbps対応モデルよりもコストがかかる。こうした細かなコストの積み上げが最終的に数万円の差になっているわけだ。
付加機能の違い
最後の付加機能は、主に松のWXR-6000AX12Pの特徴となる。この製品は、USBストレージを接続して簡易NASとして使えるUSB 3.0ポート(USB 3.2 Gen 1)を搭載している。これはハードウェアコストがかかるだけでなく、簡易NASとして利用するためのソフトウェアの設計も必要になる。
また、松のWXR-6000AX12Pには、高度なセキュリティ機能として「ネット脅威ブロッカー2 プレミアム(1年分)」が付加されている。プレミアムは、通信を監視して危険な通信の遮断、フィッシングサイトへのアクセス防止できるだけでなく、有害サイトブロック、リモートアクセス、利用時間統計などが可能なプランとなる。通常は有料(1年2,980円)の契約が必要だが、1年間無料で利用できる。
こうしたハードウェアの機能上の違いやセキュリティ機能によるコストも価格差につながっているわけだ。
実際の性能はどこまで違うか?
それでは松竹梅それぞれのルーターの実際の性能差を見てみよう。
と言っても、あらかじめお断りしておくが、前述したように松などの高性能モデルは、同時接続での性能が強化されたモデルとなっている。今回のテストは、端末を1台のみ接続して速度を計測したものなので、本来の価格差を考察するテストとはなっていない。
そのため、最大速度や距離による速度の違いなどを判断するための1つの目安と考えてほしい。
戸建て住宅で検証
まずは、木造3階建ての住宅でのテストとなる。1階にWi-Fiルーターを設置し、2階、3階(窓際のもっとも離れた地点)に対し、iPerf3を使って計測している。
戸建ての場合、比較的電波が通りやすい木造のため、全体的にWi-Fiルーターの性能が通信距離とリニア連動する印象だ。フルスピードの1階、少し速度が下がる2階、半減する3階というイメージになる。
モデルごとの差を見てみると、戸建てでは「松」モデルが圧倒的に強い。外付けアンテナなので、方向の調整によっても結果が変わる可能性があるが、1階は圧巻の1Gbpsオーバーで、3階端の最も遠い場所でも上りで600Mbpsオーバーと、何と「梅」モデルの2階よりも速い。
実質的な購入検討モデルになりやすい「竹」も健闘している。1階は1Gbpsの有線の壁で無線が頭打ちになってしまっているが、2階で400~500Mbps、3階で300Mbps前後とかなり速い。実質的には、この帯域を複数のPCやスマホでシェアすることになるので、2~3台の同時接続でも速度に不満を感じることはないはずだ。
最後の「梅」は値だけを見ると、上位モデルのとの差が大きく感じるが、実質的には最も遠い3階端で150~180Mbpsなので、実力としては十分だ。これくらいの速度があれば、ゲームやWeb会議などで困ることはない。
マンションで検証
続いて、マンションでのテストとなる。それぞれの図に描かれているように、回線が引き込まれている部屋にWi-Fiルーターを設置し、同じ部屋、廊下を挟んだ向かいの部屋、壁を挟んだリビングの3カ所でiPerf3の速度を計測している。
マンションの場合は、やはり鉄筋コンクリートという建物の構造が大きく影響する。ルーターのある部屋1でかなり高速でも、壁やドアを挟むと一気に速度が低下してしまう。このため、モデルごとの性能の違いが出やすいのは同一部屋で、離れた場所の場合、最上位の「松」と中堅の「竹」の差があまりなくなってしまう。
特に、今回のテストでは、ルーターともっとも近い部屋2の結果は、下りで「松」よりも「竹」の方がいい結果となった。10Gbps有線や高性能なCPUの恩恵は、無線のリンク速度が1Gbps以上ないと発揮されないので、マンションの離れた部屋のように、遮蔽物の影響が大きい環境では、こうしたハードウェアの優位性が生かしきれない印象だ。
下位モデルの「梅」は、リンク速度が1,201Mbpsなので、全体的に上位2モデルと比べると速度が落ちてしまうが、それでも最も離れた部屋3で150~200Mbpsを実現できており、こちらも実質的には十分な実力を備えている。
全体的に、「松」>「竹」>「梅」と、ランク通りに性能にも差が表れると言えるが、マンションの場合、壁を挟んでしまうと、上位モデルの性能差があまりなくなり、逆転する可能性もあると言えそうだ。
購入するなら「竹」以上がおすすめ
以上、バッファローのルーター3機種を松竹梅と分けて、その違いや価格差の理由、実際の性能などを比べてみた。
結果を見ると、「梅」のWSR-1800AX4Sでも十分に高速だが、個人的には複数台接続などを考慮して、「竹」のWSR-5400AX6Sと同等以上の製品を選ぶことをおすすめする。特に家族など、複数のユーザーが同時に通信する環境で性能が生きるはずだ。
さすがに「松」のWXR-6000AX12Pは、10Gbpsの恩恵でかなり高速だ。製品としての完成度や内部のコストのかけ方を考えると、実質的な価格は安いとも思えるが、現実は10Gbpsの回線環境など限られた用途での利用となるだろう。
戸建て住宅であれば2階でも1Gbps以上が期待できるので、無理をしてでも買う価値はあるが、マンションの場合は有線の10Gbpsを使うかどうかが購入の分かれ目となりそうだ。
以上、実際にWi-Fiルーターを購入する際の参考になれば幸いだ。