【上田】
長居したくなるカフェ&ビストロを繋いで、城下町を走る
「まさか自転車をもって、電車に乗るとは…… 」。Bromptonを手にした小島圭さん・剛さんが降り立ったのは、しなの鉄道の上田駅。上田駅で輪行バッグから取り出したのは、折りたたんだBromptonだ。さっそく開いた自転車にまたがって、目指すは上田城を中心とする上田市中心部。上田市はかつての信濃国の政治・文化の中心地であり、城下町・宿場町として栄えた歴史がある。通りごとに特色ある街並みが広がり、道幅も町のムードも、のんびりとサイクリングを楽しむのにぴったりのようだ。
街のガイド役を担う名物カフェをナビゲート
ナビゲートしてくれる小島圭さん・剛さんは、2011年に松本市の中心部に「amijok」というカフェをオープンした。それぞれまったく別の業界で働いていた長野県出身の2人が、東京で意気投合。「ゆるやかに人があつまり、つながりを生み出す場所を作りたい」という思いで始めたのが、「amijok」だった。毎日店を開けて1杯のコーヒーとおいしいマフィンを提供するうち、その風景はすっかり松本に溶け込み、いまではこの街を代表するカフェの一つに。松本は個人店同士のつながりがとりわけ深いというが、「こうした小さな店のつながりが街の風景を創り出す原動力のひとつとなっている」と圭さん。これまでも、街全体を巻き込むイベントや街歩きスタンプラリーイベントなどが個人店から生まれており、店主同士が支え合いながらそうした地域コミュニティを作り上げてきたそう。今回「カフェという枠を超えて、街の“ガイド”としての役割を担っている」という個人店や施設を、上田市、長野市、松本市で案内してもらう。
上田で初めに向かったのは、駅前から続く商店街の一角、ビルの1階にオープンしたばかりの「yard」。実店舗はオープンしたばかりだが、オーナーの栗田智佳さんは長く「goodyard」という屋号を使って長野県内のイベントに出店していたそうで、小島さんたちとはそのころからの付き合い。オープンのお祝いからおしゃべりに花が咲く。続く「本と茶 NABO」はバリューブックスが運営するブックカフェで、コーヒーではなくお茶を主軸にしたドリンクを提供している。「NABO」がオープンする前から「amijok」に遊びに来ていたという池上幸恵さんが、自慢のレモンティーソーダを振る舞ってくれた。
カフェではないけれど、上田らしい施設も紹介しておこう。「常田館製糸場」は、かつて盛んだった養蚕業の名残をとどめる近代遺産。明治・大正時代に建てられた繭倉庫などが一般公開されている。スケジュールに余裕があるなら前泊してでも立ち寄りたいのが、小島さんたち推薦のビストロ「Fika」。地元素材をふんだんにつかったフレンチベースの創作料理をいただける。おすすめのヴァンナチュールと自家製シャルキュトリでお腹と心を満たし、翌日からのサイクリングに備えよう。
【長野市】
善光寺のお膝元で、コーヒーを飲み、信仰に触れる
しなの鉄道と信越本線を乗り継いで長野駅までやってきた。善光寺とその門前町として栄えたこの街には個性的な店主たちによる小さなカフェやショップが点在し、昔ながらの街並みと不思議な調和を見せてくれる。まずは小島さんたちが営むカフェ「NorthSouthEastWest」へ。2020年、剛さんの故郷である長野市にも居場所を作りたいと、仲間に声をかけてオープンしたのがこちらだ。カフェの隣にはヴィンテージ家具の輸入販売とリペアを行う「Ph.D. stock hue」、同じビルの2階にはUL系や国内のガレージメーカーを中心としたアウトドアグッズを揃えるセレクトショップ、「NATURAL ANCHORS」がある。目指したのは、街歩きのきっかけになるような存在。駅前と善光寺をつなぎ、さらにその外、街と自然をつなぐ遊びの拠点となるような場所だ。
善光寺方面に向かう途中で立ち寄ったのは、2人とゆかりの深いイラストレーター、ナカムラルイさんのショップ「POOLSIDE STORE」。長野市では小島さんたちの次の世代がおもしろいことを始めているというが、まさにその勢いを感じさせるスポットだ。「SNSで作品を目にして以来、ユーモラスなイラストに注目していた」という2人が、グッズの製作を依頼したことが、ナカムラさんとの付き合いの始まり。以来、「NorthSouthEastWest」で最初に企画した展示など、ナカムラさんの作品は「amijok」「NorthSouthEastWest」にとってなくてはならないものになっている。午後は、「平野珈琲」へ。善光寺に程近い住宅街、コーヒーを焙煎する芳しい香りに誘われてたどり着いたのは、大正時代末期に建てられたという一軒家。1階で焙煎とコーヒー豆の販売を、2階を喫茶スペースとする「平野珈琲」では、店主の平野仁さんが直接、農園で買い付けることもあるという味わい深いコーヒーを味わおう。常時、十数種揃えるスペシャルティコーヒーに加え、店主の好みを感じられるオリジナルブレンドもおすすめ。
そのまま善光寺まで足を延ばす。644年飛鳥時代に創建された善光寺は、宗派を問わずあらゆる人々を救うという教えから広く信仰を集め、江戸時代には全国に善光寺参りが広まった。今回は善光寺の宿坊に宿泊し、早朝から行われるおつとめ、「お朝事」に参加する。
宿坊に泊まって、長野市の魅力を再発見
善光寺は“朝の寺”とも呼ばれており、365日行われている「お朝事」がことのほか大切にされている。宿坊の公認案内人の導きのもと、初めてお朝事へ参加したという2人、「よく知っているつもりで、知らないことや初めてのことだらけだった善光寺。地元の人にこそ、ここでゆっくり一泊してもらいたいです」(圭さん)。
お朝事に参加して心も体もさっぱりしたら、さっそく長野市街のサイクリングへ。市内を抜けるまでは交通量の多い県道・国道をつないでいくが、千曲川まで来ればこっちのもの。千曲川沿いの堤防を利用した「千曲川サイクリングロード」は自転車と歩行者の専用道路。キラキラ輝く千曲川の水面を横目に、平坦なサイクリングロードを進もう。
その昔、善光寺街道の宿場町として栄えた稲荷山は、国の「重要伝統的建造物保存地区」に選定されており、大壁造りの町家や白壁の蔵が立ち並ぶ。当時の面影を想像しながら稲荷山を抜けると、平安時代から「月の名所」と謳われた姨捨(おばすて)の棚田が広がる。1500あまりの小さな棚田が連なるノスタルジックな景観は、今回のルート上のハイライトの一つといえそうだ。
その先にある姨捨駅から松本駅までは電車でアクセスする。わずか3ステップで折りたため、コンパクトに持ち運べるBromptonは、今回のように輪行ありのサイクリングトリップにぴったり。さあ、JR篠ノ井線に乗って一路、松本へ!
【松本市】
カフェに、雑貨に……城下町が磨き上げた“粋”が楽しい
ぶらぶら散策が楽しい松本で立ち寄るのは、「amijok」によく通ってくれたという若い夫婦が、昨年始めたカフェ「aL coffee & bake」と、本のセレクトもステキな「栞日」。「栞日」の前にある銭湯「菊の湯」に寄って、汗を流すのもよさそうだ。
もう1箇所、小島さんたちのおすすめが、市街地にあるのに山小屋のような佇まいの「山山(さんさん)食堂」。あるときはカフェとして、あるときは朝食を提供する食堂として旅人のおなかを満たしてくれる。北アルプスの山小屋の厨房を切り盛りしていたという店主の高橋英紀さんが、湧水で炊いたごはんと味噌汁、自家製ベーコンを用意して待っていてくれるから、もうひとこぎもがんばれる。
ゴールは、小島さんたちのスタッフが待ち構えてくれている「amijok」。淹れたてのコーヒーと、剛さんのレシピによるさくふわのマフィンで到着をお祝いする。世界中のツーリストが憧れる自然と文化、個性豊かな仲間たちが作り上げてきたあたたかなカフェ・コミュニティに出会う長野の自転車旅も、これにておしまい。名残惜しいけれど、Bromptonさえあれば、またいつでも最高のトリップを始められそうだ。
ここからは番外編。体力・時間ともに余裕あり!という方に、ぜひ立ち寄って欲しいのが、松本市中心部から少し離れたところにある「Gallery sen」。北アルプスと松本平を一望するロケーションで、手仕事の生活道具を紹介する小さなギャラリーだ。松本駅から篠ノ井線に乗って村井駅までアクセス、そこから一気に標高850mまで上がる。「Gallery sen」からは、「生産者直売所 アルプス市場」に寄り道して松本市中心部へ。
自分たちで手を入れたという築150年の古民家に並ぶのは、県内を中心とする十数名の作家の作品たち。いずれも、ギャラリストの大久保修子さんが自分で使ってみて使い勝手や造形に惚れ込んだものだ。そうしたラインナップのなかでも目に留まるのが、滑らかで表情豊かな木の道具たち。大久保さんの夫で、「大久保ハウス木工舎」を営む木工作家、大久保公太郎さんの作品だ。公太郎さんはやすりやサンドペーパーを一切使用しない“かんな仕上げ”という独自の技法で、スプーンやヘラなど食のシーンにまつわる道具を製作している。
Nagano Travel Guide
【上田市】
【長野市】
NorthSouthEastWest
長野市鶴賀緑町1607-12 シンリョーセンタービル 1F
TEL:026-219-3319
Ph.D. stock hue
長野市鶴賀緑町1607-12 シンリョーセンタービル 1F
POOLSIDE STORE
長野市鶴賀権堂町2341
善光寺
長野市元善町491-イ
TEL:026-234-3591
【松本市】
aL coffee & bake
松本市大手3-4-13
栞日
松本市深志3-7-8
TEL:0263-50-5967
生産者直売所 アルプス市場
松本市寿白瀬渕7391-1
TEL:0263-86-6707
Cycling Route Map
Brompton
1975年、イギリス・ロンドンの街中にあるアパートメントの一室で生まれたBrompton。20秒以内に折りたためる、軽量・コンパクトな自転車は、創業者のアンドリュー・リッチーがロンドンの街中を快適に移動できる足を求めて開発したものだ。
https://jp.brompton.com