千葉バスジャック事件を通した「情報発信」について - Togetterまとめ
リンク先では、先日の千葉バスジャック事件のネット実況について、当事者を交えたディスカッションが行われている。これを読んで、現在のインターネットでは「何を書かないか」が重要だと改めて痛感した。
実際にバスジャックの現場に遭遇した arabian_m さんは、当時について以下のように述べている。
後述しますが、「ぼくが書きこんだことによって惨事を招く可能性」についてはある程度考慮していました。ただ、「SOS」について書いたことは犯人の運転手への逆上を招く危険性がゼロとは言えなかったと思います。
2011-11-16 23:30:07 via web
で、これをどこまで言っていいのか迷うのですが・・・。もう解決しているので詳細を省いて説明しますと、ぼくの位置からは警察が突入準備しているのが見えていました。
2011-11-16 23:34:36 via web
http://togetter.com/li/215179それについては言及しないようにしましたし、SOSを除けば「犯人の位置から見える情報」しかここでは言っていません。無配慮に見えるものをすべて公開した、というわけではないことはご理解いただければうれしいです。
2011-11-16 23:38:59 via web
上記のように、彼は見たもの全てを手当たり次第“実況”していたわけではなく、「書かないで伏せておく」情報を選んでカットしている。つまり、「何を書くか」だけでなく「何を書かないか」について判断を下し、事件への悪影響を避けようとしている。もし彼が、現場の熱に浮かされやすい「書くことばかり考えている人」だったら、警察の突入準備までツイートしてしまっていたかもしれない。
「あなたは、どれぐらいブレーキの効くネットユーザーですか?」
インターネットに何かを書き込む際、多くの人が「書く」ことに頭を使う。衆目を集めるため・大事なことを伝えるため等、書くための理由は様々だろうが、とにかくも「できるだけ上手く書こう」とする。それはそれで、大切なことには違いない。
けれども、それと同じか、ひょっとしたらそれ以上に「何を書かないようにするか」という判断も重要な筈だ。
自動車に例えるなら、「書く」はアクセルで「書かない」はブレーキのようなもの。ブレーキの駄目な自動車が危なっかしいのと同じく、「書かない」という判断の出来ない、何でも書いてしまうネットライフは危なっかしい。件のバスジャック事件のような、他人の命運を左右するような状況はもちろん、個人情報管理といったセキュリティ面でも、「何を書かないか」は個々人のネットライフを――特に生残率を――左右する重要因子となる。自動車教習所では「危ない場面ではブレーキを踏んで徐行しなさい」と習うけれど、あれは、ネットライフにもそのまま当てはまると思う。「ちょっと危ないかな?」と思ったら、まずは「書かない」というブレーキに限る。そして少しでも時間をかけて、書くべきか、書かないでおくべきか、考えてみるべきだ。
ブレーキの効く自動車が安全面で優れているのと同じように、「書かない」ことに熟達したネットライフも安全面で優れている、と私は思う。世の人は、書かれた文章だけで書き手のことを評価しがちだが、本当は、「何を書いているか」だけで書き手のスキルを判断するのは、スピード性能だけで自動車を評価するのと同じぐらい、偏った評価なのだろう。いや、他人のことはさておき、ネットユーザーが自分自身の書き込みを省みる際には、「書かない」というブレーキ性能について入念なチェックをしたほうがよさげ。
「ブレーキの壊れた自動車には、乗っちゃいけないよ」
twitterなどが最たるものだが、今時のネットメディアの多くは、リアルタイムで書き込みが進行し、しかも書き手の手許を離れて一気に拡散していく可能性がある。こうしたネットメディアのユーザーは、ダイアルアップ接続時代のホームページ管理者達とは比べものにならないくらい、「何を書くか」以上に「何を書かないようにするか」の判断力が問われるようになっている。それも、いわゆる“有名人”の類だけでなく、全てのネットユーザーの公開アカウントが、こうした「書かない」判断力を試されていると考えて差し支え無い*1。あなたが失恋して破れかぶれな気分の時も、ボジョレーヌーボーを呑んで酩酊している時も、こうした判断力は、容赦なく、問われ続けるのだ――その事を思うと、個々のネットユーザーに求められている「書かない」判断力の水準は、かなりのものと考えざるを得ない。
極端な事を言うなら、「書かない」という判断力の乏しい人は、リアルタイムなネットツールのアカウントなど持つべきではない、のだろう。難儀なことだが、全世界に開かれたコミュニケーションツールが、片手に収まるサイズで庶民に普及してしまった以上、その途方もない道具を使いこなすだけの能力が求められるのは、仕方ないことかもしれない。
[関連:]twitterのリアルタイム投稿は、素人はよしたほうがいい - シロクマの屑籠
[関連:]黒歴史がアーカイブになってしまう時代 - シロクマの屑籠
*1:補足:炎上して酷い目に遭っているのは、有名人ばかりではないのだから。