弾幕とシューティング史----弾幕以前、弾幕以後 - シロクマの屑籠

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弾幕とシューティング史----弾幕以前、弾幕以後

 
 

シューティングゲーム=弾幕回避??

 
 最近は、インターネット上に『東方』や『怒首領蜂大復活』の弾幕動画がたくさん公開されていたりするので、シューティングゲームを遊んでいない人でも、弾幕シューティングのことを知っている人が増えていると思う。そういった人達の場合、「シューティング=弾幕避け」というイメージが強いのではないだろうか。
 
 では、一体いつからシューティングゲームは“弾幕を掻い潜る”遊びになったのか?いつから弾幕に特化してきたのか?もともとシューティングゲームは「撃って避ける」ゲームだったわけで、そういう意味では、『スペースインベーダー』『スターフォース』の頃から、「撃つ」だけでなく「避ける」ゲームではあった。しかし、膨大な敵弾を掻い潜ることを快感のメインに据えたゲームというのは、果たしてどれだけあったか。昔のシューティングゲームでも弾幕を掻い潜っていたのか?その辺りについて、ちょっとまとめてみた。
 
 

昔のシューティングは「狙い撃ち」のほうが死活問題だった

 
 80年代まで遡ると、シューティングゲームといえども、弾幕らしい弾幕はあまりみかけない。このため、弾幕をぬうような技法も殆ど発展しておらず、それより「狙い撃ち」の的確さや「攻撃に際しての位置取りや的確なアイテム選択」のほうがテクニックとして重要視されていた。
 
 例えば『ムーンクレスタ』『ギャラクシアン』のようなゲームで生死を分けたのは、撃ち込みの正確さと、撃ち込みに関連した自機の位置取りだった。これらのゲームでは、いかに正確に敵機に着弾させるのかが攻略上きわめて重要で、撃ち込みの不正確なプレイヤーは長生きすることは出来なかった。回避するテクニックも必要は必要だったが、この頃の自機は当たり判定が大きく鈍重な機体ばかりだったため、回避に専念しなければならない状況になること自体を極力避けることが攻略上のポイントだった
 
 この傾向は、『ゼビウス』『エグゼドエグゼス』『スターフォース』などといった、八方向移動が可能なゲームにも実は引き継がれている。確かにこれらのゲームでは、いわゆる八の字避け・三日月避けが必要とされ、つまり、敵弾を回避するテクニックがプレイヤーに求められている。しかし、自機の当たり判定が大きいこともあって、これらのゲームの場合も、敵の弾幕に囲まれるような状況は極力避けなければならなかった。この手のゲームでは、「弾幕をいかに掻い潜るか」よりも「いかにシビアな弾幕に囲まれないようにするのか?」を優先させた立ち回りのほうが長生きしやすく、敵機が本当にシビアな弾幕を撃ってくるよりも前に、的確な先制攻撃を仕掛ける必要性も高かった。このため、弾幕を掻い潜るというのは最後の最後の手段、死を前にしての絶望的な試みという場合も少なくなかったといえる*1
 
 

複雑な地形と戦っていた時代

 
 80年代後半になると、今度は「地形との戦い」という要素が流行するようになり、もともと地形の多かった横スクロールのゲームを中心に、地形の複雑なゲームがリリースされるようになった。『グラディウス』『R-TYPE』『ダライアス』『サンダーフォース』といったゲームでは、“複雑な地形というリスクファクターのなかで、いかに的確に敵を撃破していくのか”、というテーマがプレイヤーに課せられた。『沙羅曼蛇』の高速シャッター地帯のように、地形回避に特化した課題が盛り込まれた作品も、この時代には多い。
 
 この系列のシューティングゲームでは、もしも地形に隠れた敵を的確に撃破できなかった場合、隠れた敵から一方的に攻撃され続けることになり、死亡リスクが激増する。このため、この時代のシューター達は、複雑な地形に隠れた敵機をいかに上手に撃破するかで腕を競いあい、逆に地形を盾にして敵の攻撃を無効化する知恵をも磨いていた。地面に触れるリスクを侵してでも地面すれすれを飛んで、地表にへばりついた敵を掃討することが、この時代のシューティングでは基礎テクニックのひとつだった。『R-TYPE』の対地レーザーや『グラディウスシリーズ』の2wayミサイルなどのように、複雑な地形に対応したパワーアップが数多く登場したのも、この時代である。
 
 複雑な地形は、縦スクロールシューティングにも登場し、『イメージファイト』や『魔法大作戦』のように高い評価に至った作品もある。地形、という要素は衰退しつつも21世紀のシューティングゲームに受け継がれ、『グラディウス5』『斑鳩』『怒首領蜂大復活』などには地形が登場し、ゲームを形作る一要素となっている。
 
 

瞬きすると死ぬような高速弾と戦っていた時代

 
 また、この時代は、瞬きすると死ぬような高速弾が多かったことも忘れるわけにはいかない。『究極タイガー』『TATSUJIN』のような東亜プラン系のシューティングはまだマシなほうで、彩京の『戦国エース』『ストライカーズ1945』のように「瞬きしていたら本当に死ぬような」弾が、1990年代の半ば頃まで様々なシューティングゲームに登場していた。
 
 高速弾はその性質上、弾をみてから回避するのでは殆ど間に合わない。高速弾を撃たれる前に敵を撃破するか、どのような弾筋が飛んでくるのかを暗記しておいたうえで回避するか、どちらにしても、敵の挙動を暗記し、正解を知ったうえで回避しなければならない。このため、複雑な高速弾が高頻度になればなるほど、そのゲームは攻略=暗記となりやすい。このことは、ゲーム攻略に血道をあげるシューター達にとっては難度のひとつとして納得可能であっても、シューティングをこれからはじめようという初心者には敷居の高いハードルとなって立ちはだかることとなった。
 
 

シューティングは奇形化したアンモナイトのようになって、一度絶滅しかけた

 
 90年代前半までのシューティングは、ここまで挙げたような「撃ち込み」「地形」「高速弾」といった要素によってゲーム難度を調整し、ゲームの攻略性を確保していた傾向が強かったといえる。しかし、これらの要素はどれも、「高度な暗記」が優先され、初心者が爽快感やカタルシスを体験するには明らかに不向きだった。「覚えていない奴は、複雑すぎる地形や高速弾に瞬殺されるのが当然」という顔つきのゲームばかりでは、優越感に浸りたいマニアの自己満足には貢献しても、新しいプレイヤーの参入には繋がらない。暗記必須の、難度ばかりがうなぎのぼりに上がった当時のシューティングゲームが滅亡しかかったのは、今思えば当然の道理としか言いようがない*2
 
 確かに、『達人王』『グラディウス3』などは、マニアを満足させるだけの作りこみを施された、精度の高い作品に違いない。しかし、これらの作品は、初心者に爽快感やカタルシスを提供するべく工夫された作品ではなく、あくまでマニアに爽快感やカタルシスを提供することに特化しすぎていた。一見、派手な攻撃がウリのゲームや、メルヘンチックで敷居の低そうな見た目のゲームなのに、ビギナーにはパワーアップさえ許さず、複雑な地形や高速弾で容赦なく葬っていくという、残酷このうえない作品が、当時のゲーセンにはたくさん置かれていた。マニアのニーズだけを追いかけた結果、シューティングゲームというジャンル全体がマニア向けに奇形化しすぎてしまって、普通の人にはまったく楽しめない代物になってしまっていたのである。これがために、シューティングゲームは冬の時代を迎えることとなる。
 
 

東亜プランが残してくれたもの----弾幕シューティングの曙

 
 こうして冬の時代を迎えたシューティング界隈を待っていたのは、倒産や撤退という名の淘汰だった。名門や老舗といわれているメーカーのなかにも、厳しい淘汰を免れずに倒産したところが多い。そのなかには、縦スクロールのシューティングゲームで有名だった東亜プランも含まれていた。
 
 東亜プランは、『達人王』や『鮫!鮫!鮫!』のような、派手なシューティングゲームを数多くリリースした会社で、そのストイックなゲームづくりは沢山のマニアに愛されていた。良くも悪くも、80〜90年代の奇形化していくシューティングゲームを象徴した、マニアの欲求に精一杯応えてくれる類のメーカーだったといえる*3。その東亜プランが、倒産する寸前に出したのが、『BATSUGUN(1993)』というゲームである。
 
 『BATSUGUN』は、比較的にせよ難度が低く、初心者でも派手なパワーアップを楽しみやすいゲームだった*4。また、敵弾のスピードがそれほどでもないため、暗記していなくても「見て避ける」「見てから判断する」ことがある程度まで可能だった。それだけではない。激しい弾幕をプレイヤーが掻い潜りやすいように、自機の当たり判定が小さく設定されていたり、ボムボタンを押せば即座にボムが発動して自機が無敵になったりと、当時としてはかなりフレンドリーな設定にも仕上がっていた。少なくとも、同時代の殆どの縦スクロールシューティングに比べれば、派手な攻撃ときわどい回避の割には、初心者〜上級者まで楽しみやすい作りになっていたのが『BATSUGUN』だったと思う。そして、これらの変更点のおかげで、プレイヤーは撃って回避することに専念しやすく、弾幕を避けきった時には大きなカタルシスが得られ、よしんば避けきれないとしても、ある程度までは納得することが容易になった。
 
 奇をてらわない丁寧なつくりと、派手で使いやすいパワーアップ、そして誰でも楽しみやすい設定という、奇形化前の原点に返った『BATSUGUN』は、この時代のシューティングゲームとしてはヒットしたほうだったと思う。だが、東亜プランは気づくのが遅すぎた。『BATSUGUN』がゲームセンターに出回ってまもなく、東亜プランは力尽き、倒産してしまう。
 
 とはいえ、東亜プランの倒産は無駄死ではなく、現在のシューティングゲーム、特に弾幕系のゲームの多くは、『BATSUGUN』のスタイルを継承することになる。東亜プランの人材が流入したCAVEのゲーム*5は言うまでもないとして、それ以外の会社からも、このゲームの直系または傍系の子孫とも言うべき様々なゲームがリリースされるようになった。「性能差のある自機選択」「小さな当たり判定とゆっくりめの弾幕の組み合わせによる弾縫いのスリル」「即効性の高いボムアイテム」といった、昨今のシューティングゲームにありがちな組み合わせは、『BATSUGUN』のものに近い。東亜プランという会社は滅んだけれども、その最後の遺産は21世紀のシューティングゲームに確かに継承された。
 
 

そして『東方』『怒首領蜂大復活』の時代へ

 
 東亜プランの倒産から、十余年にわたる月日が流れた。この間、弾幕シューティングは少しずつ洗練され、シューティングゲーム全体に占める割合も少しずつ拡大していった。『バトルガレッガ』『怒首領蜂』などの作品は、弾幕バリエーションの多様な可能性や、弾幕を通してプレイヤーとクリエイターが知恵比べする境地を大きく切り開いた。かと思えば、『エスプレイド』『式神の城』のように、キャラクター性・物語性を前面に押し出し、難度を幾らか下げることで、幅広いプレイヤー層を狙った弾幕シューティングも登場するようになった。今ではもう、シューティングゲームはマニアだけの独占物ではない。初心者プレイヤーでも弾幕避けの緊張感や達成感を味わいやすく、それでいて上級プレイヤーをも飽きさせないような、そういうクオリティが21世紀のシューティングゲームには求められている。実際、発売タイトル数こそ少ないものの、昨今のアーケードシューティングゲームは、総じてクオリティが高い。 
 
 また、アーケードゲーム以外の分野でも、PC向け同人シューティングの『東方シリーズ』のブレイクによって、弾幕シューティングの楽しみはさらに広い層に届けられることとなった。『東方シリーズ』は、二次創作の素ネタとしての秀逸さや、出来の良い音楽が評価されがちだが、弾幕シューティングゲームそのものとしてのクオリティも高い。また、normal/hard/lunaticの難度設定や、ボム関連のバランス面でも優れている。『東方永夜抄』などは特に素晴らしく、ここまでの弾幕シューティングが家庭でも遊べるようになったということには驚くほかない。
 
 むろん、アーケードゲームの分野でも、『デススマイルズ』や『怒首領蜂大復活』に端的に示されるように、弾幕シューティングゲームは、間口の広いゲームとして、それでいて上級プレイヤーのニーズにも応えるゲームとして着実に進化している。例えば『怒首領蜂大復活』は、怒首領蜂シリーズの名に恥じない、最上級プレイヤーでもヒーヒー言いながら遊べる弾幕シューティングだが、一方で、オートボムシステム*6や敵弾が消せるパワーアップなどを盛り込むことで、少なくとも一周目に関しては、ビギナーでも非常に遊びやすい弾幕シューティングゲームとして仕上がっている。もう、マニアだけを満足させるシューティングゲームでは駄目なんだということを、メーカー側も骨身に染みて分かっているらしい。
 
 

まだ、戦いは終わっちゃいない。

 
 一度滅びかけたシューティングゲームは、こうして命脈を保った。弾幕シューティングに偏っているきらいは確かにあるが、バランスの良い、初心者から上級者まで幅広く遊べるようなシューティングゲームが増えたのは間違いなく、クソゲー率の低い、クオリティのアベレージが高いジャンルとして成長していると思う。厳しい淘汰を乗り越えた歴史と教訓を引き継いで、シューティングゲームという分野は古いながらも奥深い、それでいてビギナーにも入門しやすい、ひとつのジャンルを形作っている。
 
 弾幕シューティングゲームの一周目をなんとかクリアしてみたいという人や、もういちど上達してみたいという人には、『怒首領蜂大復活』『デススマイルズ』『東方永夜抄』などを文句無しにお勧めする。他のゲームジャンルには無い、新しいスリルを発見できるかもしれないし、小〜中学校の頃に好きだった『スターソルジャー』『ザナック』の感覚を思い出せるかもしれない。まだ、戦いは終わっちゃいない。本当の恐怖楽しみはこれからだ
 
 
 (※12/1注: id:TERRAZIさんの指摘を受けて、一部変更しました)

*1:とはいえ、『スターフォース』のフェラー発狂大編隊のように、どうしても避けるしかない攻撃もなくはなかった。

*2:しかもちょうどこの頃、敷居の低い参入先として、『ストリートファイター2』が発売されたため、これからゲームセンターに通おうという世代がわざわざシューティングを選ばなければならない理由は一層少なかったといえる。

*3:たまに、『テキパキ』や『ヴィマナ』のように、かなり敷居の低いゲームもリリースしてはいたが

*4:ちなみに、当時のシューティングゲームには、派手なパワーアップに到達できること自体が難しいゲームが非常に多かった。例えば雷電や雷電2で、最強パワーアップまで到達できたプレイヤーは、全プレイヤーの何割ぐらいだっただろうか?

*5:『怒首領蜂』『虫姫さま』『エスプガルーダ』など。

*6:弾に当たってもミスにならずボムが一つなくなるだけ