琴首の美学 - 晴れときどき二胡
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晴れときどき二胡

ケ・セラ・セラな 日常と、ときどき二胡のお話です ... の筈でした

 

琴首の美学

今日の神戸は寒の戻りなのか、肌寒く、時折雨模様のお天気でした。こんな日は家で引き籠もりです。(笑)
たまには、二胡のお話をします。今回は二胡の琴首の美しさについてお話ししたいと思います。

二胡の琴棹の上部、先っちょの部分は、琴首 または 琴頭 と呼ばれています。
二胡の三大名産地である、北京、上海、蘇州 では、長い歴史の中でそれぞれに見た目の特徴も
少しずつ異なる伝統の形が進化してきました。二胡の琴首にもその違いがよく見て取れます。

二胡の琴首の伝統的でかつ代表的なデザインである、月弯頭 (げつわんとう)
真上から見たら月のように見える牛骨細工の頭と、湾曲した首が特徴です。
現在、世界中で弾かれている二胡の殆どが、この琴首のデザインであると言っても過言ではありません。

左から、北京、上海、蘇州 の月弯頭です。微妙な違いがお判りになるでしょうか。
三首比較

北京は首が長く上海は月が扁平で蘇州は月が大きい
という伝統的な特徴の違いがあります。

次の3把の二胡は私が所蔵している、蘇州二胡2把と、蘇州二胡に近い琴首の形の江西省の二胡です。

無錫名人、萬其興(ばんきこう)製作の蘇州二胡。細工は牛骨ではなくすべて象牙を使用しています。
IMG_0112.jpg

同じく無錫名人の、陸林生(りくりんせい)製作の蘇州二胡。銀線細工を施しています。
IMG_1287_20130411195021.jpg

江西省の名人、辜存雄(こそんゆう)製作の二胡。琴首は蘇州に近いですが、シンプルに装飾を一切排しています。
IMG_1231.jpg


月弯頭の琴首に関しては、私自身はこれらの蘇州型のフォルムが一番気に入っています。

さて、このような代表的な月弯頭の琴首以外にも、長い歴史の中で様々な意匠の琴首が産み出されました。
私の所蔵している別の2把の二胡と二泉胡も独特の琴首デザインを採用しています。

上海の国宝級大師である王根興(おうこんこう)製作の二胡(右)と二泉胡(左)です。
IMG_1809.jpg

琴首のデザインは、1世紀前の中国の名文をモチーフにした荷塘月色(かとうげっしょく)
つまり、蓮の池と月明かり というテーマの彫刻です。
このデザインと彫刻は、王根興の直弟子で、伝統音楽研究家として著名な、沈正國(ちんしょうこく)師の
手によります。下の写真は、彫刻をする前の沈正國師自身のスケッチ画です。これは新しい意匠なのです。
ラフスケッチ


歴史が産み出した、デザイン琴首の代表的なもののひとつに、龍頭(りゅうとう)の琴首があります。

これは伝統的かつオーソドックスな龍頭のデザインです。非常に繊細で美しい彫刻です。
龍頭1

100年以上前の古楽器の龍頭。素朴なデザインですね。
龍頭古楽器1


他にも多くの琴首の形がありますので、少しご紹介したいと思います。

伝統的な模様である回紋頭(左)と、沈正國師が縁起の良い「吉祥図」を主題にデザインした祥雲海上(右)。
回頭紋

これも縁起物の鳳凰頭(左)と壽桃頭(右)。
壽桃1

これは武漢の名人、曾憲勇(そうけんゆう)の新デザインの優美な鳳凰頭です。
曾憲勇 意向鳳頭23

これらは2把ともに馬頭です。モンゴルの馬頭琴の影響があるかのも知れません。
馬頭1

巻書頭(左)と小提琴頭(右)。小提琴とは中国語でバイオリンのことです。
二胡はバイオリンより500年以上歴史が古いので、この巻書のデザインがシルクロードを経由して
ヨーロッパに伝わり、バイオリンのヘッドのデザインに影響を与えたかも知れませんね。
巻書1

如意頭(左)と蝙蝠(右)。仏具の如意棒やコウモリまでデザインされているのは驚きです。
如意頭1
【所蔵二胡以外の写真は、沈正國師と、台湾の名人、涂明順師のwebsiteよりお借りしました】


二胡は楽器であると同時に、このように伝統工芸品でもありますので、哀愁を帯びた音色以外にも
眼で楽しむという魅力があるのです。


IMG_1861.jpg


二胡はいいですねー。



Comments
 
綺麗な細工ですね~
モンゴルの馬頭琴はテレビで見たことありましたが
二胡って始めて知りました。


 
かっこいいし、美しいですね~♪
国宝級大師の方の作品、見入ってしまいます。

見てる途中でバイオリン、思い出しましたが、
影響してるんでしょうね、

音を聴いたことがないので、YouTubeでちょっと探して聴いてみます。
素敵なお写真と説明、読んでて楽しいです♪
 ムーン323 さま
民族楽器ですので日本ではまだご存じない方が多いかも
しれませんねー。しかしテレビのドラマやCMなどで中国風の
メロディが流れているとき、それはほとんどが二胡の音色です。
バイオリンに似ていますが、より哀愁を帯びた美しい音色ですよー。
 ママ犬 さま
こんばんはー。コメントありがとうございます。
日本では二胡の情報がまだまだ限られていますので
このブログ、もともとは少しでも二胡弾きの方々のために
参考になればと始めたものなのです。
ぜひYouTubeで楽しんでください。
 
綺麗ですね…(*´▽`*)
音を知らずとも、造形だけでうっとりしてしまいそうです。
楽器に限らず、美しい造形はそれだけで芸術なのですね。
機会があれば、ちゃんと演奏も聞いてみたいものです。
…そう言えば、最近コンサート関係から足が遠のいてるなぁ…(^^;
 八朔かーさん さま
いま夜中ですが、八朔、小夏軍団はどんちゃん騒ぎしてますかー。(笑)
現在のかの国は私はあまり好きになれないのですが、長い歴史の中で
先人が培ってきた文化には、尊敬すべきものがあります。
伝統的音楽、演劇、工芸などは素晴らしいものがあります。
特に二胡の音色は、日本人の琴線にも触れるのではないでしょうか。
 
楽器でありながら、もはや芸術品ですね!!
悠久の音色、素敵ですね。
地域によって表情も違うのが民族性を感じられて良いですね^^
 有り難うございます
おはようございます。
今日は職員さんが休みで1日仕事ですので、早朝お伺いさせて頂きました。
素晴らしいですね~、まさに芸術品・・!
お写真もとても良く撮れていらっしゃいます。うっとりです。
子供の小学校の時の教科書に「スーホの白い馬」という物語が載っていまして、
その馬頭琴がこちらと関係があるのですね?
朝からとても豊かな気持ちにさせていただきました。
有り難うございます
 はまぴー さま
おはようございます。
二胡はルーツがシルクロードの異民族の楽器なので
悠久の大地に響くエキゾチックな音色がベストマッチなのですが
中国の工芸の技によって楽器として洗練されてきました。
二胡曲の感じも地方によって全然異なっていますよー。
 ソレイユ さま
二胡の歴史は、西域の異民族に始まって中国の王朝では唐代(7世紀ごろ)に
もう二胡の原型が流行していたみたいです。二胡に似た楽器は
ベトナムにもインドネシアにもありますし、日本の越中地方で有名な
胡弓も同じ系列で枝分かれしてきたようです。アジアの色々なものが
長い時間をかけて混じり合ってできた音色なのです。ロマンがありますねー。
 
今年は色々忙しいので来年ぜひ二胡を習ってみたいと思ってます。
二胡をそのうち準備しようと思ってますが・・・
さてどんな物が良いのかさっぱりわかりません・・・
北京、上海、蘇州産地が違い形も違いがあるんですね。
きっと、音も違うんでしょうね。
 
色々な種類があるのですね。
ディテールにこだわった彫刻は芸術的です。
中でも龍頭は、迫力がありますね!
かっこいい☆
どんな音色なのか、生で聴いてみたいです♪
(`・▽・´)
 りんさん さま
初めまして。
コメントありがとうございます。
二胡ぜひチャレンジしてください。二胡仲間が増えるのは嬉しいです。
初めての方には最初は二胡の目利きはしにくいと思いますので
お師匠さんになる方のアドバイスで二胡を準備されたら良いと
思います。私からはひとつだけ。長く続けられるおつもりでしたら
最初から上級者向けと言われるよい楽器にされた方が良いと思います。
 フー さま
私も龍頭に惹かれて、わざわざ東京の神田の楽器店まで行って
1把買って新幹線で帰ってきたことがあります。(笑)
龍の顔も色々あって面白いですよー。口の中にカラカラと玉を
咥えているのもあります。(私のがそうでした)
人間の女性の声に一番近い音色と言われているのが二胡です。
 
こんにちは。

美しいですね。
彫刻を施されているものも素敵ですが、
シンプルな琴首の曲線の美しさ!これも素敵です。

二胡は、体験でもよいので弾いてみたい楽器の1つです。
難しいのでしょうね?
 nobi8n さま
こんばんはー。
最初は、彫刻に惹かれた人もオーソドックスなフォルムの
美しさに回帰していくことも多いと聞きます。やはり伝統美なのですねー。
一度体験されてみたらいかがでしょう。奥は深いですが、入り口はとても
易しい楽器だと思いますよ。

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