TAJIRI「プロレスラーは観客に何を見せているのか」極上のプロレス教科書に覚えた一筋の違和感 - 男マンの日記

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TAJIRI「プロレスラーは観客に何を見せているのか」極上のプロレス教科書に覚えた一筋の違和感

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色々あったってほど色々あったわけでもないんですがなんとなく一ヶ月ぶりの更新になってしまいました。一月開けるとブログの書き方も忘れてるというか。非常事態宣言も5月末まで延期され、プロレス界も少しずつ無観客試合を中心に動き始めている昨今。今月は今までのブランクを取り戻すペースで更新していこう、とそう思っている次第です。

というわけで、正直買って読んでだいぶ経ってるんですが、TAJIRIの「プロレスラーは観客に何を見せているのか」を読んだので感想など綴って行こうと思います。 

プロレスラーは観客に何を見せているのか

プロレスラーは観客に何を見せているのか

  • 作者:TAJIRI
  • 発売日: 2019/12/19
  • メディア: 単行本
 

プロレスラーTAJIRIについて

著者のTAJIRIについて改めて簡単に経歴を振り返ると、1994年にIWAジャパンでデビュー。海外を渡り歩いた後で大日本プロレス入団。1997年には新日本プロレス参戦を果たし、1997年のBEST OF THE SUPER.Jr出場。

その後海外に渡り、メキシコを経てCZW、ECWと渡り歩いた末に2001年にWWE入団。

この時代が世間的なTAJIRIのキャリアハイかと思いますが、スティーブン・リーガルの執事的ポジションで長い間活躍。2005年に退団するまでにタッグ王座、クルーザー王座、US王座など数々のベルトを巻き、日本人スーパースターとしては図抜けた実績を残しています。

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日本に帰ってハッスルに所属し、プレイヤーとしてもクリエイティブ側としてもハッスルで活躍。2009年には新日本プロレスにも乱入してG1クライマックス参戦。ハッスル崩壊後はSMASH、WNCを旗揚げ、2014年にWNCごとWrestle-1に移籍するまで団体経営を続けます。

 

現在ではプレイヤーに専念して全日本プロレスを主戦場にフリーとして世界を渡り歩く「ザ・ジャパニーズ・バズソー」の異名をひっさげ、グリーンミスト、バズソーキックを軸にズル賢いファイトで観客、相手レスラーを翻弄していくファイトスタイルで存在感を示し続けています。そんなTAJIRIが出した本がこの「プロレスラーは観客に何を見せているのか」というわけです。

 

また、TAJIRIといえばレスラーの育成手腕に定評があり、元新日本プロレス、現WWEのKUSHIDAをはじめ、元UFCファイターの朱里、黒潮”イケメン”二郎らスター選手を育て上げている。今のプロレス界を語るのには欠かせない、大きな功績を残している選手と言えるでしょう。

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KUSHIDA,涙の新日本移籍会見。みなさん若い! 

TAJIRI ザ ジャパニーズバズソー

TAJIRI ザ ジャパニーズバズソー

  • 作者:TAJIRI
  • 発売日: 2003/12/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 「プロレスラーは観客に何を魅せているのか」内容紹介

本書の目次は全7章・以下となっています。

構成としては、今までのTAJIRIのプロレスラー人生を辿っていく、という流れ。自伝的なつくりになっています。

第1章 プロレスラーの条件ー入門前・入門後

第2章 職業としてのプロレスーメジャーとインディー

第3章 プロレスの「技」とは何かー海外と日本

第4章 サイコロジーの帝国ーWWEの教え

第5章 オレたちは新しい何かを創り出しているーハッスル戦記

第6章 人間は何者かにならなければならないーSMASHの挑戦

第7章 巨大帝国WWEの変貌ーシステムと個人

終章  そして、いま僕は何をしているのか

ただ、この章立ての中に細かい項目が立っていて、そこがこの本の特徴となっているところ。これも章立てによって遷移していき、TAJIRIがプレイヤーとしてのし上がっていく時期には「プロレスラーとは何か」、「レスラーに必要な要素とは」というところを追求しているものになっています。例を挙げると

  • プロレスラーとしての「空気」を身にまとうための時間(第一章)
  • 僕はなぜ受け身の練習をしないのか(第二章)
  • 「稼ぐために必要な練習」を選択する(第二章)
  • プロレスラーの「センス」は教えることが出来ない(第三章)
  • 意味のないシーンが一瞬でも存在してはいけない(第四章)

そして、WWEを経て日本に帰国し、クリエイティブに寄った立場になっていくと、徐々に興行全体、選手のキャラクターを作り上げる、育成についての項目が増えていきます。こちらも例を上げていくと

  • 僕が教えたハッスル練習生たち(第五章)
  • 小池一夫の劇画村塾でキャラクター論を学ぶ(第五章)
  • 切ない余韻を残すためのエンディング映像(第六章)
  • お客さんはなぜチケットを買って観戦してくれるのか(第六章)

第七章、終章はこれまでの章と少し毛色が違い、TAJIRIのこれまでのレスラー生活に一旦楔を打つ。過去と決別し、明日に向かっていくような少しエモーショナルな章となっています。この2章は現在のプロレスについてのレポートの一つでもあるし、TAJIRIの生き方を改めて問うような章となっています。項目も

  • WWEへの未練を成仏させるための「神様からの贈り物」(第七章)
  • プロレスの未来のために僕ができること(終章)

など、人生を感じさせるものになっています。

と、この本は大きく分けると3部構成になっていて

  1. TAJIRIデビュー~WWE生活(プロレスラーとしてどう生きるか)
  2. TAJIRI帰国~ハッスル・SMASH・WNC(興行・レスラーのプロデュース論)
  3. 再度渡米~帰国、現在まで(現在のプロレス、そしてこれからについて)

と分けることが出来ます。というわけで、ここで各パートについて感想を綴っていこうと思います。 

プロレスラーは観客に何を見せているのか

プロレスラーは観客に何を見せているのか

  • 作者:TAJIRI
  • 発売日: 2020/01/14
  • メディア: Kindle版
 

 TAJIRIデビュー~WWE生活(プロレスラーとしてどう生きるか)

浜口ジムを経てIWAジャパンに入団したTAJIRI。第一章はプロレスラー道場論、格闘技経験がどう生きるかという基礎について。第二章はプロレスラーの職業論について語られています。ここでTAJIRIが独特なのは、根性、気合に基づいた昔からの道場論ではなく、日本のプロレスにおいての道場をレスラーとしての「空気」を纏うための時間と位置づけていたり、格闘技の「間」、「型」が備わっていることがプロレスにどのように役立つか、という理論をしっかりと提示出来ること。

そして、レスラーとしての細かい技術論。国ごとに違うロックアップの左組み、右組み、観客に見られることを練習からどう意識するか。「プロレスごっこ」の重要性(飯伏幸太の「正しさ」が証明された瞬間!)と、レスラー志望者だけではなく、読み進むにつれ、プロレスファンとしてもどこを見ると面白いか、というところもなんとなく感じていけるかと思います。

 

そして海外に行く第三章、第四章になり、プロレスの身体的テクニックというより、プロレスラーの自己プロデュース、キャラクターについての話がメインになっていきます。

TAJIRI自身が自分を表現する「3つの技」、そしてWWE帝国、ビンス・マクマホン帝国の選手育成システム、その中でキャラクターを見いだされていく選手たち。そして、この本のメインテーマとなっている「サイコロジー」について。

「心理学」を意味するサイコロジーですが、実際リングに落とし込まれた上での意味としては、「余計なことをしない」、「理にかなったことだけをする」というもの

  • ヒールとベビーフェイスそれぞれに似合う技を使う
  • 大きいレスラーは細かく動かず大きく魅せる
  • 相手の得意技があればそれを封じるために試合を組み立てる

など、心理学というより、プロレスの方程式、と言えばいいでしょうか。我々が見ていて没入出来る試合、引っかかる試合など、このサイコロジーを頭に入れて見るとまた一段深く見れそう。この一章から四章を読み込むことで新しい視点を得ることが出来るんじゃないでしょうか。ただサイコロジーについては、この通りにやっていって日本で大人気になるか、はまた違うような。どこか理論に落とし込み過ぎているような感覚を覚えたのもまた事実でした。 

WWE 35 Years of Wrestlemania

WWE 35 Years of Wrestlemania

 

 TAJIRI帰国~ハッスル・SMASH・WNC(興行・レスラーのプロデュース論)

ここまでためになるし、楽しく読んで来た私ですが、ここからの興行論については正直疑問が残る部分もありました。それは後で述べますが、ここではハッスルでどういうキャラクターを作ってきたか。また、芸能人のプロデュースについて。そしてハッスル終了後はSMASH、WNCでの興行の作り方について書かれています。

中心になっているのは「ハッスル」でのプロデュースについて。レスラー育成、ストーリー作成。本人が「大人になれない大人たちの青春の宴」と表現するように、TAJIRI自身も集大成として力を入れたプロジェクトだったことが伺えます。

ここに書かれている興行論はわりとオーソドックスというか。興行に溜め、引きをつくっていく、未知の外国人選手のキャラクター付け、そのために映像に力を入れていく、など。今見ると普通のことではありますが、コンセプトを作って世界観を作り上げていくのはエンタメ系団体の基本的なこと。ただ、文章の熱量、ディティールの細かさといい、前半のレスラー論からは少しあっさりしているように思います。それだけレスラーとしての経験が濃密だった、ということだと思います。

再度渡米~帰国、現在まで(現在のプロレス、そしてこれからについて)

そしてこのブロックは今のWWEのディティールがわかる章になっています。システム化された今のWWEにTAJIRIが次々と感じていく違和感。ドクターの理不尽さに辟易する場面、遅刻したときに徴収される罰金、昔のWWEを知るTAJIRIにとって今のWWEはどう写ったのか。世界一の団体WWEを中からレポートした貴重な資料となっています。そして今のTAJIRIが何を思ってリングに立っているか。世界を股にかけて闘うTAJIRI。あとがきまで「読ませる」一冊になっています。

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一筋の違和感「ハッスル」について

私が一つ、この本で違和感を覚えたのはTAJIRIの語る「ハッスル」の失敗理由についてです。TAJIRIはこの本の第五章、「ハッスルはなぜあれほどファンに憎まれたのだろうか」で理由を述べています。

芸能人をリングに上げたことと、冬の時代のプロレス業界で明らかな「成功者」だったことで嫉妬された

しかし、私も一応ハッスルは何度か会場で見ていて、当時の紙プロも追いかけていたので思うところはある、というか、「ハッスル」はどうしても好きになれない団体でした。

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アリタ総統とかは面白かったけど。

なぜ好きになれなかったのか。確かに「ハッスル」はイベントとしてアイディアに溢れ、面白い仕掛けを散りばめながら上手い選手が脇を固めていることでエンタメとして質が高いものだったかも知れません。

ただ、どうして好きになれなかったかを考えたときに、2つの理由があったように思っています。

  • 「ハッスル」に出ているレスラーに思い入れにくかった
  • 団体が「俺達のもの」になってくれなかった

「ハッスル」は、既存のレスラーにもキャラクターをつけ、「ハッスル」ならではのレスラーとして登場させていました。こんな感じで

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「ハッスル」印の強いキャラクターをつけられたレスラー達が多かったため、見ていてレスラー個人として思い入れ辛かった。キャラクターから個人が浮き出しにくくなってしまったように思います。

WWEもキャラクターはつけていましたが、それぞれのパーソナリティを表現したキャラクターがハネる、という話がこの本でも語られていました。ハッスルはそれを越えて、それぞれのレスラーに「ハッスル」印を押しすぎてしまった、もっというと考えてる人達の「プロレス分かってる感」が全面に出ていたために鼻についたところがあった。それにレスラー本人たちの個性が負けてしまった、というのが当時の自分の印象でした。

 

また、致命的だったのは「ハッスル」という団体が、団体への愛着を持つファンを多く作り出せなかった、ということ。団体そのものが「僕たちのハッスル」になってくれなかったように思います。

そもそもオオバコ中心だった「ハッスル」。それぞれのイベントに毎回それなりの話題性を持たせなければならず、そのために芸能人を呼ぶ。芸能人は頑張ってはいたけれど、やはり団体所属という形にはなれないためにどうしても「いつまでもついていく」、「彼らと一緒に団体が成長していく」という感情を持ちづらい。また団体のエース格として存在していた小川直也、坂田亘がファンの心をつかめなかったのも大きい。あくまで「イベント」であり、「団体」になりきれなかった。それがハッスルの失敗なんじゃないか。

プロレス団体は、団体所属の若手が潰されながらも成長してエースを目指し、団体を背負う存在になり、そこに観客が思い入れていく。その成長を見守ることで団体ごと「自分たちのもの」という感情が生まれてくる。新日本も全日本も、DDTも大日本もFREEDOMSもそのようにして支持を集めてきた。ハッスルはその構造を作ることが出来なかった。金銭面での破綻がハッスル消滅の原因ではありますが、団体としての支持を集められなかったハッスル、いつかは迎えた結末だったんじゃないでしょうか。

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感想まとめ

ハッスルについて長文書いちゃいましたが、この本自体はすごい本だと思います。

プロレスの構造、プロレスラーとしてのキャラクター、試合運びについて書いている前半部分は特に必読。自分はレスラーじゃないのでプロレスラーがこの本を読んで参考になるかはわかりませんが、プロレスファンの自分にも色々と腑に落ちるし、プロレスの新しい見方が生まれるようなことが沢山書いてあるように思います。特にサイコロジー部分は何回も読み返したい。

プロレスが「そこが丸見えの底なし沼」といいますが、この本自体も沼のような。ずっと読んでいられるような深みを感じます。いろんな試合見て「う~ん」ってなったらまた読み返そうと思います。黒潮”イケメン”二郎、KUSHIDA、ビンス・マクマホン、エディ・ゲレロ...。色んなレスラーとのエピソードも満載です。改めて必読!です! 

プロレスラーは観客に何を見せているのか

プロレスラーは観客に何を見せているのか

  • 作者:TAJIRI
  • 発売日: 2020/01/14
  • メディア: Kindle版
 
プロレスラーは観客に何を見せているのか

プロレスラーは観客に何を見せているのか

  • 作者:TAJIRI
  • 発売日: 2019/12/19
  • メディア: 単行本
 

おまけ: 副読本「CONTINUE」Vol.64

 そして、この本を読んだ人にはこのCONTINUEもおすすめ。吉田豪、掟ポルシェのインタビュー連載「電池以下」。この「プロレスラーは観客に何を見せているのか」が正装だとしたら、この「電池以下」は普段着のTAJIRI。IWAジャパン時代に的を絞って浅野社長話、中牧昭二話で盛り上がっていました。

CONTINUE Vol.64

CONTINUE Vol.64

 

そしてこの中で「プロレスはキ●ガイがやってるから面白い」という名言が飛び出したりもしています。TAJIRIの面白さがより際立つ「電池以下」まとめて読んでTAJIRIを堪能しました。 TAJIRI面白い!

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追記:鍋家黒潮忘年会にて。

追記になります。なぜサムネイルのイラストにTAJIRIと黒潮”イケメン”二郎を書いたのか。そんな大した話でもないんでお付き合いください。

 

この「プロレスラーは観客に何を見せているのか」、冒頭から例としてちょいちょいイケメン選手が登場します。そして、私がこの本を買ったのは去年の年末。そして買ってすぐにいつも共にプロレス観戦してる友人たちとの忘年会がありました。場所はもちろんこちら。

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鍋家黒潮!

そして鍋家黒潮と言えばこちらドン!

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二年連続で忘年会してる鍋家黒潮。今年もイケメンパパとイケメン話したり、鍋を食いまくったり酒飲みまくったり、店においてあるグッズで遊んだりして楽しく過ごしてたわけですが、そこに黒潮”イケメン”二郎選手本人がフラっと登場!

というわけで色々あってサイン頂きました。

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まさかの師弟サイン本!なぜTAJIRI選手のサインがすでに入っているかというと、書泉ブックマートで購入したサイン本だったため。イケメン選手も「いいのかなぁ・・」と恐縮されてましたが、お願いして入れていただきました。紳士!

 

というわけで、私の手元にはTAJIRI選手とイケメン選手のサインが入った「プロレスラーは観客に何を見せているのか」があることに。家宝にします!そして、コロナ禍が収まった後、黒潮”イケメン”二郎選手の活躍をお祈りしています!鍋家黒潮さん、年末はありがとうございました!