こんばんは、卵屋です。
シリーズ運動学習第4弾。
前回、運動制御の理論について解説した。
今回はいよいよ運動学習について解説し私見を述べていく。
これまでの記事はこちらからどうぞ
現役理学療法士が「運動学習」について語る1
現役理学療法士が「運動学習」について語る2
現役理学療法士が「運動学習」について語る3
また、これらの記事は以下の書籍にかなり強く影響を受けている。
ぜひ手に取って学習していただきたい。
さて、運動制御についての理論があったように運動学習についての理論も存在する。
まずは前回解説したそれぞれの運動制御理論から導き出されるアプローチについて外観する。
運動制御理論から導き出されるアプローチ方法
反射理論、階層理論から導き出されること
反射理論、階層理論とはそれぞれ、
と主張する理論だった。(現役理学療法士が「運動学習」について語る3)
反射理論から階層理論を経てそのように主張した訳だ。
となると、そこから導き出されるアプローチの原理は、
である。
いわゆる神経促通法という手技だ。
この代表的な方法がボバース法で、理学療法界では圧倒的な人気を誇っている。他にもあるルード法、ブルンストローム法、PNFなどを押しのけ未だに人気No1治療法に君臨している。
最近では認知運動療法といった方法も人気が出てきているが、これももとをたどれば階層理論をベースに理論が展開されているそうな。
”促通”と称したテクニックを駆使して上位運動ニューロン患者の代償を抑制し正常な運動を導こうとする方法である。
さて、前回も述べたが私はボバース法には否定的な立場である。というよりボバースに関しては一種のアレルギーになっているきらいすらある。
というのも新卒で入職した職場がボバース信者の多い職場だったこともありそんな先輩達から一通りの”指導”を受けた。研修会に参加したり本を買い自分で勉強もした。
それらの経験を経て思うことは、一言、うさんくさいである。
彼らには学校で学んできた解剖学、生理学、運動学といった知識が通用しない。ボバース語とでも言うべき「つくる」「つなげる」「まとめあげる」といったよく分からない言葉を使い信者同士で納得し合う。新参者にはそれらの言葉と怪しげなテクニックを見せ強引にまるめこもうとする。少しでもツッコミを入れると「勉強不足」「頭が固い」などとレッテルを貼り攻撃してくる。もはや宗教の領域…
いかんいかん、ついボバースの悪口になってしまった。本気で書き始めたら日が暮れてしまう。本気の悪口はまたの機会にしよう。
前回も述べたが私はボバース自体には否定的だが、階層理論には一定の理があると思っている。
すなわち上位のレベルが下位のレベルを制御しているという点は多くの部分でそうだと思っている。つまり上位運動ニューロン障害(脳卒中)患者に対しては上位の神経系の回復・改善・再獲得・再構築といったところに気を使わなければならないという方向性には賛成の立場である。
プログラム理論(スキーマ理論)から導き出されること
スキーマ理論の重要な概念は
である。(現役理学療法士が「運動学習」について語る3)
GMPとは一般化された抽象的な運動プログラム、スキーマとはGMPを用いて実際に運動をおこすためのパラメーターであると述べた。
これらの概念から導き出される臨床への応用としては「恒常練習」、「多様性練習」、「先取り学習」などが挙げられる。
恒常練習とは、同じフォームや課題を反復することである。バットの素振りやフリースローの練習というようなものをイメージすれば分かりやすいと思う。理学療法場面で言うと、長下肢装具での介助歩行練習、ステップ練習、起立・着座練習のように同じフォームで反復する練習のことである。歩行練習や起立・着座練習は何か一つだけを目的に行われる訳ではなくその目的とするところは多岐に渡る。が、スキーマ理論から導かれる「恒常練習」の目的は「GMPを獲得すること」にある。脳卒中患者さんは発症前から劇的に変化した機能レベルで一から運動を再獲得していかなければならない。人間が赤ちゃんから大人になっていく過程と同じように「ある意味」では新規の運動を学習していく必要がある。すなわち、新しい(低下した)機能下で「歩行」や「立ち上がり」といったGMPがまだ獲得されていないことを意味する。つまり運動のフォームや筋発揮のタイミングが掴めていない初期は、様々な環境や難しい練習を繰り返すより単純な練習を繰り返し練習することが推奨される。一般的にGMPを獲得するためには恒常練習が適していると言われている。
多様性練習とは、同じ課題について設定や難易度を変えて練習をすることである。毎回スピードの違うボールをバットで打つ練習、距離や角度を変えてフリースローの練習をするなどが挙げられる。理学療法場面で言うと、スピードを変えた歩行練習、座面の高さを変化させた起立・着座練習などが考えられる。
恒常練習である運動のGMPが獲得されると次はバリエーションを増やしていく必要がある。スキーマ理論でいうところの「再生スキーマ」を成熟させていく必要がある。再生スキーマとは「過去に行った運動の結果」と「そのときに用いた運動パラメーター」の関係である。これをスキーマ関数という。歩行を例にとるとこれくらいの力を出したら膝折れが起こらずに歩けた、起立の例ではこれくらいの力を発揮すればお尻が浮き上がった、といったイメージである。このスキーマ関数を形成するために適した練習形式が多様性練習と言われている。
先取り学習とは、補助や介助を受けながら経験をして学習する方法である。バットの素振りをコーチに補助されながら実施するイメージである。理学療法場面で言うと、長下肢装具での介助歩行練習、立位で介助下での左右ウエイトシフト練習、介助下での立ち座り練習などが挙げられる。
スキーマ理論では運動の制御に必要な3つの要素をGMP、再生スキーマ、再認スキーマとしている。再認スキーマとは運動の結果得た感覚と実際の結果との関係である。
本来は実際の運動の中で感覚を得ながら成功・失敗を繰り返すことで成熟されていくものだが、補助や介助のもと強引に先に感覚を得て学習してもらうというやり方である。多くの理学療法士が介助下で練習をする目的もこのように考えると辻褄が合うのではないだろうか。
このようにスキーマ理論を知った上で臨床に応用すると上記のようなやり方が導かれる。
個人的にはとても分かりやすく臨床経験ともマッチするためスキーマ理論は大変優れた運動制御理論かつ運動学習理論だと考えている。
システム理論から導き出されること
システム理論は、
と主張する理論であった。協調構造、自己組織化、非線形特性、アトラクターといったものを理論の主要な要素としている。
そしてシステム理論の背景にはベルンシュタインの自由度問題というものがあった。自由度問題を解決に導くために作られた理論といっても過言ではない。
さて、そんなシステム理論から導き出される臨床での応用、その理論を持って我々理学療法士はどういうアプローチを選択すればよいのか。
一般的に言われるものは課題指向型アプローチと呼ばれるものだ。
う~ん…、よく分からん。
前回も述べたが、そもそもシステム理論とは自己組織化の原理を強く主張しており、極論、人間はある環境である課題が与えられると各々が持った身体特性の中から必要な要素たちが集まって勝手に制御がなされると解釈される。もしそうだとしたらそれはすなわち「運動学習」という概念が入る余地がないことを意味するのではないか。個体の「機能」例えば筋力や関節可動域の向上を図ることは出来ても、歩行や起立といった複合的な課題に直面すると「勝手に」制御がなされる訳でそれを変化させることが出来るという立場にあるのかすら分からない…。
続きをみてみよう。
課題指向型アプローチは「代償」方法を改善することを目標とする(らしい)。脳卒中患者さんの示す運動パターンは、単に中枢神経系の損傷によって正常運動パターンの一部が削減された結果ではなく、「障害による機能の削減」と「削減された部分に対する残存システムによる代償」の両方が合わさった結果であると。そしてその代償方法が常に最適であると言うわけではないので、代償方法を改善することも目標になるのだと。
大橋ゆかり先生の著書には「戦略」といった概念を入れ、動作観察により戦略の評価することを課題指向型アプローチの評価方法としている。脳卒中患者さんの「代償運動」をただただ「悪」と捉えるのではなく代償の仕方、すなわち「戦略」を見極めて指導しようと試みるセラピーであると。
私はこのこと自体には賛成の立場である。例えば歩行を観察した結果、平行棒の引っ張りで前方への推進力を得ている場合は、引っ張りにくい平行棒(平行板)や杖への移行を促すといった具合に、その戦略を変えるように計らう。
一方、これはシステム理論から導かれたアプローチかと問われると首をかしげざるを得ない。
なぜなら、仮に「代償」を見極めて「戦略」を変化・改善させることがセラピーの目標だとしても、そもそも運動学習分野の理論で最も求められている理屈は「運動を変化させるにはどうすればよいか」、「運動を改善させる方法はどのような理屈から導き出されるのか」ではなかったのだろうか。ここでいう「代償」、「戦略」を改善させる理屈はどこにあるのだろうか。
課題指向型アプローチを概観すると、同じ運動課題であっても環境によって組織化されるシステムは変化するので、なるべく実場面に即した環境で練習をすることを推奨しているように捉えられる。それは「運動制御」の面においては理論の主張上そうなのかもしれないが、それが「運動学習」にどうつながるのかが分からない。反復すると学習されるという主張なのか?使用頻度の高い代償を選択するようになるのか?など肝心の学習するプロセスについては何も言及されていない。運動学習理論において一番肝心なところが課題指向型アプローチでは抜けている気がする。
やはり前回述べたようにシステム理論は運動制御に強く寄った理論だと改めて感じる次第である。
私の理解が追い付いていないだけかもしれないので是非みなさんも本書を手に取り自身で学習することをおススメする。(分かったら教えて下さい)
まとめ
今回は主要な運動制御理論から導き出されるアプローチについて解説した。
反射理論・階層理論からはボバース法などの神経促通法が、
スキーマ理論からは恒常練習・多様練習・先取り学習などが、
システム理論からは課題指向型アプローチが、
それぞれ導かれることを解説した。
記事内にもあるように、個人的には運動学習理論においてはスキーマ理論が最も優れた理論であると感じている。単純明快でとても分かりやすい。実に偉大な理論である。そんなスキーマ理論でも説明できない現象があるのだから運動学習領域は面白い(大橋ゆかり先生の著書を是非一読いただきたい)。
次回は運動学習シリーズの最後。現役理学療法士の私が思う運動学習を考える上で大事にしなければならない5つのポイントについて解説しようと思う。
是非お楽しみに。
続きの記事→現役理学療法士が「運動学習」について語る5
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