衛星データで地球を救う?「衛星データ活用アワード2024」審査員が語るGXと宇宙ビジネスの交差点|JOURNAL(先進事例や最新トレンド)|事業共創で未来を創るOPEN HUB for Smart World

Future Talk

2024.08.28(Wed)

衛星データで地球を救う?「衛星データ活用アワード2024」審査員が語るGXと宇宙ビジネスの交差点

#イノベーション
宇宙から地球を観測した「衛星データ」をより良い未来のために活用できたら――。そんな思いから始まったビジネスコンテストが「衛星データ活用アワード2024」です。

本コンテストは、宇宙サービスイノベーションラボ事業協同組合(以下、SSIL)とNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が、国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)および経済産業省主催の「NEDO Challenge, Satellite Data for Green Earth(以下、NEDO Challenge)」と共同で開催しているもの。

衛星データを活用したグリーン分野に関わる課題解決アイデアを募る本コンテストについて、審査員を務めるNTT Comソリューションサービス部の熊谷彰斉と上岡賢太郎に、開催の背景や狙い、アイデア発想のヒントとなる衛星データ活用事例などについて話を聞きました。

この記事の要約

「衛星データ活用アワード2024」は、SSILとNTTコミュニケーションズが共同開催するビジネスコンテストです。NEDO Challengeと連携し、衛星データを活用したグリーン分野の課題解決アイデアを募集しています。

審査員を務めるNTT Comの熊谷彰斉と上岡賢太郎によると、コンテストの目的は新たな技術やアイデアの発掘と、多様なプレイヤーとのコミュニティ形成だそうです。

募集テーマには、カーボンクレジットやエネルギーマネジメントなどのNEDO Challengeとの共通テーマに加え、NTT Com独自の「宇宙ネットワークを活用した豊かで住みやすい未来を創造するアイデア」があります。

衛星データの活用例として、自然環境エリアの把握や地中CO2濃度の測定などが挙げられています。NTT Comは、Starlink Businessなどの衛星通信サービスを提供し、災害対策にも活用しています。

コンテスト主催者は、参加者に対して大きな発想で革新的なアイデアを提案することを期待しており、未来につながるアイデアを共に育てる仲間づくりを目指しています。

※この要約は生成AIをもとに作成しました。

目次


    宇宙×GXの可能性を考える仲間づくりの場を

    ――SSILとNTT Comが共同で開催している「衛星データ活用アワード 2024」では、事業化を目指すベンチャー企業、個人、学生、異業種などから幅広くグリーン分野の課題解決につながるビジネスアイデアを募集しています。本コンテストを開催するに至った背景を教えていただけますか。

    熊谷彰斉(以下、熊谷):本コンテストは、NEDOが実施する懸賞金活用型プログラム「NEDO Challenge」と連携した衛星データ活用プログラムです。NEDO Challengeは技術シーズを発掘する“基礎研究寄り”のコンテストであるのに対して、当社が協賛する本コンテストは、より事業化を意識した“ビジネス寄り”のコンテストです。

    グリーン分野における衛星データの活用可能性は未知数であり、NTT Comだけでできることは限られています。本コンテストを通じて新たな技術やアイデアの持ち主と出会い、その成長と発展を支えながら事業化も見越しつつ、ともにアイデアを育てていきたいと考えます。

    上岡賢太郎(以下、上岡):グリーンと宇宙ビジネスはともに成長分野であり、本コンテストを機に、両分野に注力するNTT Comのメッセージを伝えていきたいという思いもあります。

    熊谷の話の通り、1社でやれることには限界があるからこそ、官民やスタートアップなど多様なプレイヤーと垣根を越えてコミュニティーを形成したいですね。本コンテストは当社にとってのパートナー選定が目的ではなく、一緒にチャレンジしていく仲間づくりの場と位置付けています。

    ――本コンテストには4種類の募集テーマがあります。うち3つはNEDO Challengeとの共通テーマである「カーボンクレジット」「エネルギーマネジメント」「気候変動・環境レジリエンス」。もう1つはNTT Comによる募集テーマ「宇宙ネットワークを活用した豊かで住みやすい未来を創造するアイデア」です。NTT Comが設定したテーマにはどのような思いが込められているのでしょうか。

    熊谷:何といっても脱炭素や環境問題を解決したいという大命題がベースにあります。これに地球規模で取り組む際にカギとなるのが、宇宙から地球を観測して得られる広範囲のデータと、地上で取れる局所的なデータをかけ合わせること。また、企業とのコラボレーションを通じてグリーン分野の課題解決を図りたいという思いが募集テーマに反映されています。

    熊谷彰斉|NTT Com ソリューションサービス部 イノベーションオフィサー
    NTT Comにて、業務アプリケーションのSE/PM業務、コンタクトセンター業界向けのSI業務およびクラウドサービスの企画、コミュニケーション支援AIサービス「COTOHA」の立ち上げ業務に従事。その後、LINEにて、AI事業「LINE CLOVA」「LINE AiCall」の立ち上げを実施。現在はNTT Comにて、GX事業の立ち上げに従事している

    上岡:NTTグループは以前より「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク構想」を掲げ、宇宙空間をICTインフラ基盤として活用することに取り組んできました。

    宇宙統合コンピューティング・ネットワークは、NTTのネットワーク・コンピューティングインフラと、スカパーJSATの宇宙アセット・事業を統合してSpace Compass(NTTとスカパーJSATの合弁会社)が構築を進めている新たなインフラです。地上から高高度に浮かぶHAPS(High Altitude Platform Station)、宇宙空間の低軌道・静止軌道まで複数の軌道を統合し、それらと地上を光無線通信ネットワークで結びコンステレーションを構成し、分散コンピューティングによってさまざまなデータ処理を高度化します。さらに、地上のモバイル端末へのアクセス手段を提供し、超カバレッジ拡張を実現します。

    宇宙統合コンピューティング・ネットワークのこうした構想は、今回の募集テーマにある「宇宙ネットワーク」をイメージする上で1つの参考になるのではないかと思います。それと同時に、宇宙ネットワークというものは明確な定義があるわけではないので、応募者の皆さんが自由に解釈していただき、思いがけないようなアイデアが出てきたら嬉しいですね。「豊かで住みやすい未来」というあえて抽象的な表現にしているのも、小さくまとまらずに大きく発想を広げてほしいという狙いがあります。

    上岡賢太郎|NTT Com ソリューションサービス部
    NTT入社後、大企業向け法人ソリューション分野のプロジェクトマネージャーとして多くの案件をリード。UX、アプリケーション、システム基盤、ネットワーク、運用など複合要素を有する大規模プロジェクトを中心に、BtoBtoCモデルによる数々の新規サービスを顧客とともにローンチさせた。現職はワークスタイル変革のソリューションモデルオーナーとしてStarlink Business事業を推進中

    熊谷:応募資格は個人か法人かを問わず、所属の有無や年齢制限もありません。多様なアイデアが集まること、そして私たちとの出会いによって思いがけないような化学反応が起こることをとても楽しみにしています。

    グリーン×宇宙ビジネスはどのような可能性を切り拓くのか?

    ――本コンテストのカギを握る「グリーン分野×宇宙ビジネス分野」にはどのような可能性があるのでしょうか。衛星データを活用したグリーン分野のソリューションやビジネスの事例など、本コンテストへの応募のヒントとなるような取り組みがあれば教えてください。

    熊谷:環境省は自然環境エリアを保全することを目指す「30by30」を掲げています。その保全エリアがどれくらい確保されているかを継続的に把握するために、衛星が観測したデータをエビデンスとして活用するなどの動きがあります。また、最近では地中にCO2を蓄積させる技術が注目されていますが、宇宙から地球を撮影したデータを解析し、地中のCO2濃度を測定するといった試みにも関心を寄せています。

    ――衛星が撮影したデータによって地球の「体調」が見えるようになってきているのですね。

    熊谷:地中のCO2濃度計測に関しては海外のスタートアップ企業などが取り組んでいますが、従来であれば掘った土を専門の研究所に送って調査してもらう必要がある作業なので、これが実用化されれば非常に大きな進歩だと思っています。ほかにも、ある特定のエリアの画像を撮影する際、現在の衛星の数では数日に1回が限度なのですが、毎日撮影して高精度に変化を追いたいといったニーズに応えるための技術開発を進めている企業もあれば、広範囲の画像を高解像度で撮影するための技術を研究している企業もあり、今後の動向に注目しています。

    上岡:衛星には「観測」と「通信」の2つの側面がありますが、熊谷が挙げた事例は主に前者に関することで、衛星に搭載したセンサーで対象物を遠隔から観測する「リモートセンシング」の技術が使われています。一方、通信については電波が届かない不感地帯といわれるような僻地でも、衛星を経由すればデータのやり取りができるようになります。観測と通信のそれぞれの用途において、衛星には大きな活用可能性があると感じています。

    ――宇宙ビジネスは世界的に盛り上がりを見せている分野ですが、この流れをどう感じていますか。

    上岡:衛星やロケットなど、宇宙に関する新しい話題が飛び込んでくると純粋にワクワクします。人類が宇宙に進出する足場が固まり始めているという感覚がありますし、地球から宇宙まで人やものを運ぶ「宇宙エレベーター」がただの夢物語ではなくなるなど、宇宙に関するあらゆる研究が急速に進んでいます。この流れがさらに加速していけば、宇宙は私たちにとってもっと身近なものになっていくと思っています。

    熊谷:宇宙ビジネスには大きなコストがかかりますが、これをいかに大衆化できるかが問われていますよね。本コンテストを通じて集まったアイデアが、宇宙ビジネス市場そのものを拡大するための新たな突破口になればという期待もあります。

    同様に、グリーン分野の取り組みにもお金がかかります。ある程度の投資をして本気で取り組まなければ、企業が環境問題の解決に寄与することはできないと思います。だからこそ我々のような企業がこうしたコンテストを通じて機運を高めていくことは社会的使命でもあると思っています。

    上岡:同感です。個人的にはNEDO Challengeとの共通テーマである「カーボンクレジット」「エネルギーマネジメント」「気候変動・環境レジリエンス」という観点は、実はNTT Comが設定した募集テーマを考える上で大きなヒントになると思っています。

    というのも、いずれの共通テーマにおいても、設計した仕組みがきちんと回っているかを検証する上でのツールやエビデンスとして衛星データを活用できる場面が多くあるはずです。このように発想を広げていけば、いろいろなアイデアが生まれてくるのではないのでしょうか。

    サービス単体ではなく課題解決につながる“パッケージ”を提供する

    ――NTT Comの「グリーン」「宇宙ビジネス」両分野での取り組みについても伺いたいと思います。宇宙ビジネスの現状についてはいかがでしょうか。

    上岡:NTT Comは宇宙ビジネスにおいて、衛星電話サービス「ワイドスター」や低軌道衛星「Starlink」を活用した通信サービス「Starlink Business」の提供を行っています。

    また、山岳地帯など通信ネットワークが整っていない場所にも安定した通信環境を提供できる成層圏プラットフォーム「HAPS」の活用や、山の傾斜や積雪量など水力発電に関する衛星データの解析・活用を行うエネルギー事業者との共同実証実験、Amazonが提供する低軌道衛星ブロードバンドネットワーク「Project Kuiper(プロジェクトカイパー)」との戦略的協業など、新たなサービスの検討も進めています。

    なかでも多くの方にとって身近なサービスになっていくであろうStarlink Businessには「高速・低遅延通信」という強みがありますが、私たちはStarlink単体のご提供に留まらず、Starlinkをお客さまの課題解決につながる複合的なソリューションに組み込むかたちでご提供することを重視しています。最近ではARAVの建機遠隔操縦システムと組み合わせることで、山間部や災害地域などの通信が困難な場所における現場作業の遠隔操縦・自動化を推進するソリューションの提供を開始しています。

    ARAVの建設機械の遠隔操縦/自動化ソリューション「Model V」

    ――Starlink Businessは能登半島地震に伴う被災地支援や通信インフラの復旧にも活用されたそうですね。

    上岡:はい。その際に気づいたのは、Starlink Businessを使いたくても電気が止まっている環境では容易に給電ができないということです。この教訓をもとに新たに提案しているのが、Starlink Businessと蓄電池と太陽光パネルをワンセットにした防災パッケージです。もともと構想はあったのですが、今回の地震を機にすぐに熊谷に相談して開発を加速させ、防災演習の場などでご提案したところ多くの企業から注目いただいています。

    熊谷:衛星を活用した災害対策の1つとして、新たなご提案につなげることができています。蓄電池はグリーン分野で扱われることが多いのですが、この取り組みはまさにグリーン×宇宙ビジネスの好事例になると思っています。

    ――新たな取り組みとしてNTTグループは今年6月に宇宙ブランド「NTT C89(シーエイティ・ナイン)」を立ち上げましたが、その背景や狙いは何でしょうか。

    上岡:先ほどの話にあった通り、宇宙ビジネスは今大きな盛り上がりを見せています。衛星の小型化に伴い、打ち上げの低コスト化が進むなど、以前と比べてマネタイズしやすくなりスタートアップも続々と参入しています。

    NTTグループはこれまで宇宙ビジネス分野で多様な取り組みを進めてきましたが、「NTT C89」というブランドを通じてグループ内の多様な事業・サービス・研究開発が有機的につながり、さらなる発展を目指していきたいという思いを持っています。

    社会全体のカーボンニュートラルに貢献するために

    ――続いて、グリーン分野での取り組みについてはいかがでしょうか。

    熊谷:新ブランドの話が出ましたが、まさにグリーン分野でも「NTT G×Inno(ジーノ)」というNTTグループ共通のブランドが立ち上がっています。

    NTTグループは従来からカーボンニュートラルに資するさまざまな事業やサービスを展開してきましたが、事業活動を通じた年間電力消費量は日本全体の1%を占めており、自らの脱炭素化も重要なテーマとなっています。「公共性」と「企業性」の両面を持つ通信会社として、今後もGXソリューションを生み出しながら社会全体のカーボンニュートラル実現に貢献したいという思いでブランドを立ち上げました。

    ――GXに取り組む上でNTT ComやNTTグループの強みはどこにあると考えますか。

    熊谷:NTTグループ全体で見れば、通信事業にスマートエネルギー事業と多岐にわたるビジネスを通じてさまざまな技術やノウハウを有していること、それらの多様な組み合わせによって幅広いサービスやソリューションを提供できることは強みであり価値だと考えています。

    事業化を目的にせず、未来につながるアイデアを一緒に育てていきたい

    ――最後に、「衛星データ活用アワード 2024」への期待と本コンテストに興味を持たれている読者に向けてメッセージをお願いします。

    上岡:宇宙ビジネス市場は爆発的な成長拡大が見込まれており、スペースXのような強力なプレーヤーも出始めていますが、まだまだ開拓しがいのある未踏の地であり、ぜひワクワクする気持ちを持ってチャレンジしていただけたら嬉しいです。

    熊谷:現状の技術に加え、革新的なテクノロジーが生まれなければ、脱炭素の目標数値を達することは難しいと言われています。そうした未来を変えるきっかけを、本コンテストを通じて見つけることができればいいなと考えています。革新性と実現性のバランスは大事ですが、例えば「これまで斬新すぎて100社に断られたようなアイデアだけれど、実現する自信がある!」といったアイデアも大歓迎です。

    上岡:実現性を突き詰めすぎると、アイデアはなかなか広がっていきませんからね。まずは発想を大きく持っていただけたらと思います。本コンテストの目的は、今すぐに一緒に事業ができるパートナーを探すことではなく、未来につながるアイデアを一緒に育てていく仲間を探すことです。ご興味のある方はぜひ奮ってご参加ください!

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