第4回KOIN塾 開催レポート
早くも折り返し地点を迎えた第4回KOIN塾のテーマはセルフコンパッション。受け入れる(自分を知って相手を知る)ということ。自分を知ることと相手を知ることの関係とはどういうことなのでしょうか。講師のmy turn理事/ディレクターの福冨さん(トミーさん)の講義は、その点から始まりました。
“いまここ”の自分を受け入れることは、他者を通じて気づきを得ながら自己認識を深めるプロセスだと言います。第1回のKOIN塾の中で、これからは自分のことや他人のこと、そして世の中のことに「気づける人」が活躍できる時代という話がありましたが、どうやら気づいたあとに「受け入れる」ことが鍵となるようです。
どうしても人は過去と未来にとらわれがちで、今に集中して生きるのは難しいのが現実。
トミーさんは、「いきなり高いところを目指すのではなく、1歩1歩が大事」と続けます。
自分を受け入れるとは、自分を愛すること。自分自身に対して「思いやり」をもちながら現実と向き合っていくことだと。自分以外の誰かに対して思いやりをもつことはあっても意外にも自分自身に対して思いやりをもつことは少ないということに気づかされます。
「自分にも人にも社会にも思いやりをもつことがベースで、それが幸せにもつながる」というセルフコンパッション。では、具体的にどのようなことがポイントになってくるのでしょうか。
セルフコンパッションに大切な3つの要素
①自分への優しさ(Self-kindness)
自分に優しくなれば、人にも優しくなれる。優しさの循環をつくる。
②他者との共通の人間性(Common humanity)
誰もが同じように苦しい状況の時もあれば、良い時もある。他者と話したり、触れたりすることで共通の人間性を感じる。
③どんな状態でも受け入れるマインドフルネス(Mindfulness)
ここにある事実をありのままに受け入れる。こころ穏やかに過ごす。俯瞰してみる。自分のご機嫌ポイントをもっておく。
何より、自分ひとりで自分を知ろうとするより、「いろいろな人との対話」を通して裏側もよく見ることが大事だと言います。長所も短所も表裏一体とはよく言われることですが、自分ではネガティブに捉えていたことも、他者の視点から長所と捉えてもらうことで視点を転換することができます。この「視点の転換」は、どんな状況にあっても希望を自分で見つけながら進むことができることにつながり、大事なポイントです。
トミーさんが「自分をコントロールできるようになり、他人を受け入れる余裕ができる」と説明されていた点は、自分がどんなときにご機嫌になるのか、逆にどういうことがあると気分が落ち込むのかといった、自分の感情との付き合い方を知っていることで、すべてを俯瞰して捉えることができ、他者に対しても同じようにありのままを受け入れることができるのだと感じました。
さらに、自分を知ることができると、物事にとらわれず自由に対応できる。逆に、自分を知らないと右往左往してどう動いていいかわからない(家と同じように土台となる基礎がないとぐらつく)というトミーさんの解説は、実は著者も共同研究とその実践に関わる“内発的イノベーション(※)”でも明らかにされているポイントです。そこでは、①ひとりでは気づけない潜在的な側面を、全体の場で問いかけながら引き出す「Beingファシリテーション」と②自分自身の価値観や思考の癖・行動パターンを客観的に理解したうえで、自己受容するための技法である「Self-Anchoring Method」により、自分の人間性を丸ごと受け入れていきますが、船の錨(アンカー)が降ろされるとどんな波風でも安定できるように、自己の内面に自分軸・土台ができると、外部の変化や外圧に左右されなくなります。
※内発的イノベーション(松原2021):内発的な動機に基づき生まれた個人の可能性から、組織や地域が発展・成長していく営み全体を指す概念。
ここで、my turn 代表理事の杉原さんからも、ご自身の経験談として子育てと仕事で時間の余裕がないときに、どうしても出てくる負の感情を「客観的に見る癖づけ」をしてきたというお話が共有されました。自分の感情を炙り出し言語化すると、相手が子どもでも大人でも「正しい温度感で伝える」ことで、行動も少しずつ変わってくるとのこと。また、自分だけで抱え込まないために仲間がいる、という関係性にも支えられているそう。
後半では、トミーさんが開催したイベントの事例紹介を通じて、ダイバーシティ&インクルージョンについてお話がありました。多様性というキーワードが飛び交っている昨今、包摂性を意味する「インクルージョン」までセットで実現することが大事だということ。意見が異なる人と争うのではなく、違いを認識した上でより良くしていく、それはつまり、互いに合意できる未来を一緒に築き上げていく姿勢だと言います。実際どのようなことが起きたのか、2つの事例紹介がありました。
事例紹介①:「滋賀からはじまるwell-beingなライフスタイル」
10月8日にQUESTION(京都信用金庫新河原町ビル)で開催されたトークイベントには、定員30名のところ40名の参加者が集まり、大津市の後援のもとNPO法人BRAH-art.(Otsu Living Lab)が主催。滋賀県観光振興局ビワイチ推進室、ほうらいマルシェ運営者、Otsu Living Lab、ビワイチバイクよりスピーカーが登壇。トミーさんがモデレーターをされたトークでは、多様なそれぞれの立場からビワケーション(琵琶湖での新しい働き方)の素晴らしさや大津中のマルシェが集まる祭典のこと、またビワイチ(琵琶湖一周の略で琵琶湖サイクリングのこと)の課題についてぶっちゃけトーク(※)で盛り上がったそうです。
※当日のトークはYouTubeでご覧になれます
https://youtu.be/sN9EtBTZfDI
このイベントは大津での面白い取り組みを紹介すること以上に「境をなくす」ことが大事なテーマだったそう。立場の違いやお互いの考えを分かち合うフラットな関係性を築くことは何もスピーカーに限ったことではなく、たとえばこの場で出会った行政の方と民間の方が意気投合し、勝手に何かが始まるなど参加者同士でも起こっていることのようです。仕事上の肩書きを外して個人として共感し合った関係性の方が新しいことが生まれやすいのは、イノベーションコーディネーターでもある著者にも実感があります。
実際の参加者からも、お互いのやりたいことに対して「いいね」と共感する雰囲気があった、多業種の異なる視点からの意見が面白かったといった声が寄せられたそうです。
事例紹介②『What a wonderful otsu!!』
世の中では文化の日である11月3日を、滋賀県が「ビワイチ」の日と条例で定めたという背景で開催された、記念すべき第1回のイベントは、トミーさんの熱い想いから始まったと言います。滋賀の17団体とmy turnも出店し、230もの店舗が大津湖岸なぎさ公園に立ち並び、なんと2万人が来場したマルシェの大祭典は、まず滋賀県庁にトミーさんが直接アプローチをかけ、「断られたところから始まった」とのこと!
最終的には大津市のサポートによりマルシェは実現するのですが、同行した企画メンバーの方から、イベント内容より主催者の実績を重視する県庁のお役所対応さえも、トミーさんは腹を立てる様子もなく一旦受け入れて「ここからが本番」というスタンスだったのが驚きだったというエピソードも。「言い出しっぺである自分だけではやれなかった。お互いの役割を見出し、それぞれの持ち味を活かし合う仲間がいたから実現した」というトミーさんのお話から、まさにセルフコンパッションし合った者同士の化学反応・掛け合わせが鍵だったことに気づかされます。
個性ある多様な出店者の間には、違いや問題があったとしても受け入れる雰囲気があったとのこと。多様性があるだけでなく、それぞれが持ち味を発揮し、お互いに受容し合う状態。このダイバーシティ&インクルージョンのあり方が、出店者もお客さんも関わるすべての人を笑顔にするという「思いやりの循環」を生んでいて、よりよい未来に向けた地域社会にとって一番大事なことだと感じました。
具体的な事例を通して「セルフコンパッション」と「ダイバーシティ&インクルージョン」を学んだ第4回KOIN塾。最後は参加者同士が感想を共有し合う対話の時間まで盛り上がっていた様子から、対話によりお互いの想いややりたいことを共有すること、そして違いも含めて多様性を受け入れることから、ともに創る第一歩(=新しいイノベーションの種)が生まれる可能性を感じた時間でした。
ロールモデルゲストを迎えて開催する次回も、どうぞお楽しみに!!