1人起業と友達起業、それぞれの苦労や大事にしていること。| 8/18 開催イベントレポート
PHOTO : 桜井 肖典
お盆休み最終日となる日曜の午後、共創の場「KOIN」には、ゆるやかな緊張感が漂っていた。「友達と起業するって、アリ?ナシ?『1人起業 VS 友達起業 トークバトル』」というユニークなテーマを掲げ、35歳以下を対象とした起業家育成プロジェクトの第3回イベントが始まろうとしている。
この日「友達起業」について語ったのは、高校の同級生と3人で会社を経営している株式会社デイアライブ 代表取締役・CEO 今西 建太さん(写真左)。 対して、D.O.D株式会社 代表取締役 岩花 玄さん(写真右)が「1人起業」の看板を背負って登壇した。
イベント開始前の会場からは「ちょうど自分も友達と事業を始めようとしているところで……」という声が聞こえてきた。参加者は、高校生、大学生、会社員、NPOメンバー、経営者など20名。起業を志す10代の若者と実際に会ったのも初めてのことで、彼・彼女たちのまっすぐな眼差しに心を打たれた。
2人とも、意外とノリで起業してますよね
進行を務めるのは、前回に続き株式会社美京都(みやこ)の代表 中馬 一登さん。中馬さん自身は2人の弟と共に会社を設立した。今西さん、岩花さんとは世界経済フォーラムによるコミュニティ「グローバルシェイパーズ」の仲間だということで、和やかな雰囲気でイベントがスタート。まずは、今西さんが友達起業のきっかけを語ってくれた。
今西 「父親が経営者だったので、将来自分も会社をやりたいなぁという思いは高校生くらいからありました。大学に入って、就活では、面接で自分が考えた企画のプレゼンをしていましたね。結局ソフトバンクに入社して東京で働いていたんですけど、母が病気になって、京都に戻ってきたんです。その後、村岡という友人と2人でデイアライブを立ち上げました。村岡の家族とうちの家族とで一緒に旅行に行って、露天風呂で話したのが始まりでした。最近何してんのっていうところから、なんか一緒にできるかもねって」
今西 「高校の同級生といっても、2人とも当時はそこまで仲良くはなかったんですけどね。もう1人の佐々木とは、大学の時に、将来なんか一緒にできたらおもろいなって夜通し飲みながら話してたんです。創業のタイミングには前職で大きなプロジェクトを抱えていて動けなかったんですけど、3年目にうちに来てくれました。立ち上げから9年経って、今は従業員が14人くらいの会社になりました」
真剣にメモを取る人、笑顔でうなずく人、驚いたような表情で次の言葉を待つ人、参加者一人ひとりがそれぞれのやり方で今西さんの話を受け止めていることが伝わってくる。続いて、岩花さんの創業ストーリーを伺った。
岩花 「D.O.Dという社名は“Dance or Die”の略で、僕自身は踊れないんですけど、所属ダンサー約60名と一緒にダンススクールやイベントを運営しています。僕は高校までずっとミュージシャンになりたくて、毎日音楽をやっていました。でも、音楽大学の受験に落ちてしまって。上には上がいると実感した時に、じゃあ自分はその人たちをバックアップしていこうと思うようになりました。そこからは経営の大学を目指して勉強して、入学してできた友達が『ダンスで飯食っていきたいなぁ』って言っていたんです。それやったらダンス教室をやってみようと、Wordでビラを作って、1時間1,000円とかのスタジオを借りたっていうのが最初です。初期費用5,000円くらいで始まりました。今は、従業員は15人に増えました」
おふたりの話を受けて、参加者の表情が徐々にやわらいでいくのを感じた。「今の話を聞いて、2人に共通してるのって、意外とノリで起業してるってところですよね」という中馬さんの言葉に大きな笑いが起きる。
友達と起業する時、誰に最終決定権があるかは明確にした方がいい
中馬さんが「この中で、友達と起業してる、しようとしてる人ってどれくらいいるんですか?」と問うと、パラパラと手が挙がった。都市伝説のようにささやかれる、友達と起業するのはやめた方がいいという噂。その真偽を確かめたいという気持ちで訪れた人も多い中、再び今西さんにマイクが向けられる。
今西 「友達とやってて楽なのは、何を考えてるかが、だいたいわかりますよね。お互いに。今日ちょっと機嫌悪そうやな、とか。実は、あんまりもめた経験ってないんです。意見が割れたら最後は代表である僕が判断するって、最初に決めたことがよかったと思います。最終決定権は明確にしておいた方がいい」
最後の一言に、岩花さんも中馬さんも深くうなずいた。
中馬 「実は僕、友達と起業して失敗してるんですよ。関東2人、関西2人の計4人、それぞれに別で事業をしているメンバーで。出資金も株も四等分やったから、やっぱり誰が最後決断するっていうのがなくて、ダメになったわ」
岩花 「誰が最後責任を取るかっていうのはやっぱり大事やね。うちも途中から友達や先輩が入ってきたけど、責任を負うのは僕っていうことは常に明確にしてる」
今西 「あと、奇数がいいと思うな。3人やと、僕以外の2人ともに反対されたら、ちょっと考え直そうかなって気持ちになるから。偶数で真っ二つに割れてしまうときついよね」
計画に時間をかけるよりも、いつやるかを決めてすぐに動くべき
ここからは、いくつかのテーマにそっておふたりの考えを聞いていくことに。
●起業の時に気をつけた方がいいこと
今西「起業したことのない人のアドバイスを聞きすぎないことかなぁ。したことないとわからないことがたくさんあるから」
岩花「色んな人の意見を聞きすぎて、自分のやりたいことを見失ってしまうのは避けた方がいいと思う。起業塾みたいなところで先輩たちに否定されまくったけど大成功している人もいるし」
●経営で大事にしていること
今西「刺激とゆらぎを与えることは大事にしています。毎日同じことを同じようにやり続けるのって、効率は良くても楽しくないと思うんです。たとえば、いつもと違う業務をやってもらったり、他の人に頼んだ方が早いとわかっていてもあえて違う人に任せてみたり。こないだは、会社の皆で湯豆腐の会社に行って、豆腐の歴史を学んだり豆腐作りを体験したりしました」
岩花「縛らないこと。僕自身が縛られるのが嫌なので、外で仕事する人は会社に来なくてもいいし、こうじゃないといけないという縛りをなるべくなくそうと思っています」
●若い世代へのアドバイス
今西「計画はそんなにしっかり立てなくていいです。僕は事業計画書を書いたことがなくて、そこに時間をかけるよりもすぐに動いた方がいいと思っています。PDCAってありますよね。多くの組織がPPPPDCAになってるけど、PDDDDCAくらいでちょうどいいんじゃないかな」
岩花「いつやるか、時期を決めることは大事ですね。いつでもいいことが多いので、自分で決めて、発信して、逃げられない状態を作ってしまうんです。あとは、ついつい失敗を恐れちゃうけど、当時は失敗だと思っていたことが実は必要なステップだったっていうことが多々あるので、失敗は怖くないです」
途中、参加者から今西さんにこんな質問が投げられた。「どんな時に3人の意見が割れましたか?一番もめたことは?」
今西 「おもしろくなくて申し訳ないんですけど、そんなもめてないんですよ。社員の人事評価で意見が割れるとか、細かいことはありますけどね。そういう時、絶対にうやむやにしないことは意識しています。飲みながら話してもうたことも、次の朝、もう1回面と向かってちゃんと話します」
起業した人から「サラリーマンに戻りたい」という話は聞いたことがない
後半は、100食限定という経営方針が有名な「佰食屋」の事業モデルや、ある企業が実際に直面した状況を題材に、経営者体感ゲームが行われた。課題に対して自分ならどうするかを考え、グループで意見を交換する。最後に今西さんと岩花さんがそれぞれの考えを話すと、会場は「なるほど」「さすが」という空気に包まれ、起業を志す人たちが経営者の発想や判断基準に触れる貴重な機会となった。
あっという間に2時間半が過ぎ、中馬さんからのこんな言葉でイベントが締めくくられた。
「起業した人から、サラリーマンに戻りたいっていう話を聞いたことがないんですよね。起業家っていうと、なんかハードルが高いように聞こえるけど、僕はもっと気軽に、それこそノリで起業していいと思う。その人らしいやり方で、プライベートと両立して楽しんでる人もいっぱいいます。もっと多くの人に、自分らしく事業を楽しんでほしいと思ってこのプロジェクトをやっています」
終了後もおふたりに質問や相談をしにくる参加者が絶えず、数年後、今日集まった人たちがどんな活動をしているかと想像してみると、思わず頰がゆるむような明るい気持ちになった。
オープンイノベーションカフェとして作られた「KOIN(Kyoto Open Innovation Network)」は、事業を始めたい、広げたい、応援したいなど、さまざまな人の新しい一歩を後押しするための場所。毎日7:30から21:00まで誰でも利用できる場所なので、ぜひ足を運んでみてください。