KOIN塾 事業を共創する仲間と仕組みの作り方 開催レポート(第2回)
2024年度KOIN塾
第2回KOIN塾のテーマは、「パーパスドリブン(目的の明確化)」。書籍のタイトルや企業のウェブサイト上でもよく目にするようになった「パーパス」という言葉ですが、本年度のKOIN塾が掲げている「事業を共創する仲間と仕組み」にとって、どのような意味をもっているのでしょうか?
今回は講師の福冨さん(my turn理事・以下トミーさん)による講義に加えて、my turn代表理事でコミュニティデザイナーの杉原惠さん(以下惠さん)との対話を通じて探究していきます。
はじめにトミーさんから、新型コロナウィルスの流行から4年経ち、人々の価値観や暮らしが大きく変わる中、めまぐるしい社会において「パーパス」は一層重要になってきているという話がありました。
日本語では「あり方」や「存在意義」と訳される「パーパス」が、経営戦略において使われ始めたのは2016年頃からだそう。
トミーさんによると、商品の質や価格では差がつきにくい時代になり、モノがつくられる背景やストーリーが重視されるようになったのが要因とのこと。
単にモノをつくって売るだけでなく、仕事の仕方としても「どんな気持ちで仕事に取り組んでいるか」といった、目に見えないプロセスの部分にも人々の意識が向けられるようになりました。
トミーさんの調査では、世界ではなんと200年も前から「パーパス」という言葉が使われてきたそうですが、日本では同じ趣旨のもと吉田松陰が「志を立ててもって万事の源とす」と言っていたとのこと。
トミーさんは、「これからのAI時代に、個人のアイデンティティともいえる『志』が自分自身のブランディングにもつながっていく」として、そのパーパスをもとにした意思決定のことを「パーパスドリブン」と定義します。個人や企業が活動する際の明確な目的や意義をもって自発的に行動することを意味しています。
第1回のKOIN塾でも学んだ、これから到来するAI時代だからこそ、人間らしさが大事になってきて、個人のキャラクターといった個性や価値観を体現した姿勢が求められるというのは納得です。
そしてそのことは、会社や組織の中で働いている場合であっても同じで、「お金や家族のために働くというのは全て手段であり、その先にパーパスがない人が多い」とトミーさんは強調しながら「皆さんは何をもとに、何をエネルギーとして活動していますか?」と投げかけます。
組織や社会の中でよく使われる「モチベーション」という言葉に代わる「ドライブ」という言葉には、外的要因によるのではなく自分の内発から出てくるエネルギーとして動くことが自分自身を発揮することになり、自分を活かすことで周りにも喜びを与えて結果としてそれが対価になるという、自分起点のエネルギーの循環が表現されています。
自分の内発的動機と聞くと少し難しく考えがちですが、シンプルに言うと自分がワクワクすること、人に頼まれなくても勝手に体が動くようなことです。社会的に大事だからとか、組織の中で役割として求められているから、ではなく、自分が大切にしていること、価値観やこだわりが何か、まず自分を知ることが出発点になります。
トミーさんの「自分で職業も生き方も選べる時代に大事なのは自分を生かすこと。
自分はこうだと個人のパーパスを相手に伝えるところから共創の仲間集めが始まる」という言葉に、会場の参加者からは「自分を生かして人に喜んでもらうためにまずは自分を知ること。
日々過ごしていく中で意識したい」「どんな思いが自分を動かすのかは考えてきたつもりだが、相手に伝えるのに課題感がある」といった声が寄せられました。
相手への伝え方について、トミーさんは「どうやったら相手に伝わるかというのも“ゲーム感覚”で楽しみながら、喜びのお裾分けをするような気持ちでコミュニケーションしては?」とアドバイス。
自分をどう売り込むか、ターゲットに応じた戦略を立てるといったビジネス戦略のようなことではなく、講義の中でも紹介されたアフリカの諺にあるように、一緒に「遠くに行くために」行動を呼びかけるような気持ちで自分が大切にしている価値観や志を共有する、体温が感じられるプレゼンテーション。
そんなイメージが湧いてきました。
「パーパス」に関する理解やイメージが深まったところで、後半は、惠さんも加わって対話形式で進められました。
トミーさん:ではまず、my turnの代表理事のみならず「コミュニティデザイナー」として活動している杉原惠さんの自己紹介からお願いします。
惠さん:皆さんに逆に聞いてみたいのですが、「コミュニティデザイナー」と聞いてどんなイメージがありますか?私がパーパスとしてもっているのは、人と人を繋ぐだけではなく、自分しかできないことは何かと考えたときにゼロからつくっていくこと。
人と自然、自然とモノなど、あらゆる生態系をつくっていく役割を担いたいと思っています。捉え方は様々だと思いますが、私自身は「コミュニティデザイナー」をこのように捉えています。
何より私自身がコミュニケーションが大好きで、人とつながること、自然の中に入ること、自分とのコミュニケーション(自分を知るという作業)を含めて好きなので、このような役割を担っています。
トミーさん:惠さんは客室乗務員として勤務した後に第一子の出産を経て、産休明けに大学の研究室でアシスタントとして仕事を再開します。
そのあと2016年から京都市ソーシャルイノベーション研究所に勤務しながらマルシェなどのmy turnの初期の活動も始めました。そのあたりのことを共有いただけますか?
惠さん:初期の頃はお母さんたちと地域の場所をつかって、小規模のマルシェなどの活動をしていました。
自分たちは楽しかったのですが、続けていく中で周りからみたリーダー像と自分がこれから社会に対して生み出していきたいアウトプットを考えたときのリーダー像にギャップが生まれてきたんですね。
周りから見ると「イベントリーダーの杉原さん」というリーダー像に違和感を感じました。イベントは手段なのに目的化していないか?という問いを自分自身に投げかけたとき、地域の中の限られた範囲でイベントをしていくことは自分が目指したい未来ではないと思ったんです。
そこから軸を変えて、自分が思っていたリーダー像というのは、たくさんのプレーヤーの人たち(今まで出会った人やこれから出会う人)、自分を活かしたい人たちを見極めて、この人にはこういう場所で活躍してほしい、というようにコミュニケーションを通して明確化した上で、その場所を自分がつくることが自分のパーパスだと思いました。
生態系をつくることに後々つながっていくんですけど、自分の本質はやはりそこで、自分も含めてそれぞれの人がどんなライフステージにあったとしても、楽しめる人を一緒に生み出していきたいということを周りにも伝えたことで、そこから少し動きが変わってきました。
トミーさん:惠さんの話にもあったように、行動してみないと分からないということ。
情報化社会での罠は「わかったつもり」になることです。
今の時代すぐにネットで調べられたり、人の評論も聞けたりしますが、自分でやってみて肌で感じること、人の評判が先にあっても自分と同じ感覚かどうか、身体性をもって感じることが大事になってきます。行動する中で自分自身で確かめるということです。
惠さんもマルシェをやっていく中での違和感をきっかけに、行動しながら自分のパーパスに気づいていきました。
自分がもっている喜怒哀楽の感情一つ一つの感情をもとに本気で思うことを起点にドライブしていく。
やらされ感ではなく、自分で感じていることをどう人と分かち合えるか、活動に活かしていくのかということが重要なんです。
2018年に京都市ソーシャルイノベーション研究所で惠さんと出会って対話する中で、先程共有があった「人や自分を活かして生きる」という思いを起点に、2020年に一般社団法人my turnを設立するに至りました。
彼女のあり方を一緒に考えて、それまでマルシェの活動ではプロデューサーだったところ、人柄や持ち味を活かすため「コミュニティデザイナー」を提案したんです。
これまでの延長線で生きてきた昨日の自分ではなく、「プロティアン・キャリア」と言われるように、社会の変化に応じて、自分の意志で自由に姿を変え形成していくキャリアです。
よくあるのが、これまで10年20年自分が得意なことの延長線で続けてきたことを(急に変えるのは)もったいないと続けてしまうこと。得意なことばっかりやっていても、楽しくないことも多いんですね。
自分に問いかけてみることが大事です。社会に応じ人に喜ばれて 自分も楽しいかどうか、その“三方良し”を目指してほしいと思います。
では、ここで2年前の2022年に第三子が生まれたときの状況や思いについて惠さんにお話いただきます。
惠さん:2020年に会社を立ち上げた後に第三子に恵まれて、第二子から第三子が生まれるまでの間に社会も大きく変わっていることを感じていました。
原体験として2012年に会社を辞めたときは、子どもが生まれて自分のやりたいことが100%できなくなるんだったら、仕事を辞めようという決断でしたが、第三子を産んだ時は自分の中にも変化がありました。
子どもをもちながらも会社の代表をするという新しい像として子どもたちにも自分の姿勢を見せたい、これまで出会ってきた人たちにとっても希望を感じてもらいたいと思ったんですね。
ライフステージや家族構成が変わっても、ポジティブに自分を活かせることは可能だという生き方の見本になりたいと思いました。
トミーさん:社会も変化する中で自分に向き合い続けてきた恵さんと法人としてのmy turnの活動を始めたとき、京都市ソーシャルイノベーション研究所の中ではイベント等を開催していたのですが、京都市全体で140万人いる中で地域が地続きで繋がっていないことが課題だと感じていました。
京都市全体でソーシャルイノベーションを広げていくには、11区ごとに地域の良さや住民、その地域の課題というように地に足ついたやり方で活動するため、「リビングラボ」を始めました。
リビングラボというのは、欧米で始まったまちづくりのあり方で、行政だけに任せるのではなく、生活者が関わって、個人、企業、大学、学生など多様な人によって自分たちのまちをつくっていく活動のことを言います。my turnでは2025年にエシカルタウン京都の浸透を目指し、11区のリビングラボ計画を進めています。
惠さん:先程ご紹介したアフリカの諺に通ずるところがありますが、私自身、一人でやれることは限られているなと思っています。どんな知識と経験があってもいつしか独りよがりになってしまうと感じていたので、表面上の共感にとどまらない「深く共感し合える仲間」を見つけたいと思っていました。
そのために、自分の思いをアウトプットする回数を増やし、 半年の間に数百人に対して、世間話や雑談レベルで思いを伝える「ジャスト・コミュニケーション」を実践しました。
そのときの相手からの疑問や表情などの反応を見逃さないようにして、そういう感覚を養うためにも自然の中に入りながら、自然体・ありのままで話すこと、伝わったどうか相手の変化や感情を感じる力を大事にしていました。
そういうことを実際に学びながら体験しながら、うまくいかないこともたくさんあって、すぐここまで来たのではなく、自分も本当にこけながら傷だらけになりながら、ころんでも立ち上がりながら、そしてなぜ立ち上がれたのかというと仲間がいたからなのですが、段々と深いレベルで共感できる仲間と出会っていきました。
「自分の地域をよくしたい」という思いの強い人がリーダーになり、その人と私たちmy turnメンバーが対話を重ねることで、区ごとに多様な生態系のよりよい循環を仕掛けていく。
北区と南区とでは、リビングラボが全然違うんですね。
地域の良さや資源を活かせるのはそこに住んでいる人たちで、旗を立て身近な人が動き出して、みんながwell beingな気持ちになることで実現していきます。
アクションプランとしてイベントなどをしながら地域に住んでいる人たちと対話を重ねて任せていくのですが、それが自己中心的な活動ではなく地域のwell beingに向かっているか、地域の人たちが喜んでくれるのか、そしてお金の循環も含めて、そういったところまで一緒に考えながらやっているのがKyoto Living Lab プロジェクトです。
トミーさん:同じリビングラボでも、土地柄や住んでいる人によって活動内容が違ってくるので、それぞれのリビングラボに特徴があります。
各Living Labの特徴
- Kita Living Lab(北区)
my turnメンバーが立ち上げ。自然の近さを活かした自然ベースの活動で、個人事業として地域の人たちが集う大宮交通公園(京都市のサステナブルパーク)の管理や土中環境の再生などを行なっている。イベントを通した子どもたち向けワークショップやゴミの清掃など少しずつ行動変容が起こっている。
・Minami Living Lab(南区)
東寺の近くに拠点をもつmy turnメンバーが旗を挙げたときに地域のお母さんではなく一番はじめに地域の工務店が反応し、地域のために場所を開放。その場所を使った企画運営を任せられている。
次に反応したのが京都信用金庫九条支店さん。地域の金融機関としてお金を介さない形での地域の人との交流を希望されている。
これまで地域でお母さんが呼びかけると同じ子育て世代の方が集まる傾向にあったところ、同質の人ではないプレーヤーが集まったのがこのLabでの新しい発見。同じ学びのプロセスを通ってきたmy turnメンバーでも、違うアウトプットになるのが面白い点。
- Fushimi Living Lab(伏見区)
my turnメンバーではなく、強い課題感をもっていた地域の不動産会社さんが立ち上げた。地域のことをよく知っている会社さんと、それ以外の視点をもっているメンバーとの間に応援し合える関係がある。
子ども食堂や定期的なイベントを開催しているが、福祉色が強いのが特徴でもあり課題で、常に安価で提供しないといけないというようにボランタリーに見えてしまうのをどうシフトしていくか。新たな価値を生み出す 事業性のあるものを一緒に考えているところ。
- Sakyo Living Lab(左京区)
この7月に立ち上がったばかり。女性建築家の方が、住宅街にある左京区の自宅の1階をリノベーションして、この地域に多い海外からの大学研究者や外国の方との交流を生み出そうとしている。
外国人や研究者ファミリーが安心して暮らせるための生活のことや手続きもできるような事業性を重視したリビングラボの立ち上げをしている。
100%ではなく7割程度準備して軌道修正していく方針で、まもなくオープン予定。
トミーさん:京都市が(行政としてのまちづくりを)やろうとすると、これ程細かいことはできない。行政は大きなテーマでの取り組みにならざるを得ない面がありますが、Living Labを通して区ごとに活動を広げていくのがmy turnのあり方なんですね。
このことをご自身に置き換えてもらって、自分を活かしてどんな役割で活動していきたいか、どんな人に喜んでもらいたいかを考えていただきたいと思います。
手間暇もかかることですが、やりながら修正していくことが大事です。先程の事例にもあったように本業をやりながら地域のこともやるというのは、パーパスドリブンでないとできないこと。
それぞれのあり方に応じたやり方があるので、自分自身の思いを起点に、地域の歴史や文化、困りごとの掛け合わせを考えてみてください。
トミーさんと惠さんの対話を通して、思いや感情を起点に自分のパーパスを伝えることで仲間と繋がり、つくりたい社会を地域単位で広げてきたことがよく分かりました。
最後に惠さんから共有されたのは、京都と滋賀(大津市)をつなげる越境イベントについて。京都を舞台に3年活動してきた中で、どうしてもコミュニティが閉鎖的になり、新しい人が入りにくいことに課題を感じ始めた惠さんが、もっとフラットで出入り自由なオープン型のコミュニティをつくっていきたいと同じ思いの仲間と企画したものだそう。
物理的な地域の越境のみならず、コミュニティという見えない壁も越境していく4回の連続企画では、各地域の自然やその土地の歴史や文化に触れながら参加者同士が深く知り合い、結果として人と人の繋がりも生まれる機会になったと、参加された方からもコメントがありました。
その後もLiving Labでのお金の循環について質問が出て、クロージング後も交流の時間が盛り上がった第2回KOIN塾。企業や経営としてだけでなく、自分自身の生き方としての「パーパス」を伝える中で仲間と出会い、知恵を出し合いながらコミュニティの中で試行を繰り返していく。人と対話したり行動したりする中でアップデートされていくパーパスは、一人ひとりの生きた行動指針なのだと感じました。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。次回もどうぞお楽しみに!