never too late 衣笠彰梧
「ようこそ実力至上主義の教室へ2年生編9.5」 衣笠彰梧 イラスト/トモセシュンサク
綾小路にとって、高度育成高等学校での二度目となる冬休みが幕を開けた。クリスマスのプレゼントを買いに行くという軽井沢との約束は、彼女のインフルエンザにより崩れ、綾小路はイブからの数日は、完全に予定が白紙になってしまった。
少し前に入会したジムに顔を出すと、2年Aクラス担任の、真嶋先生の姿があった。
「実はおまえに、折り入って頼みがある」
「はあ」
「俺が知りたいことは分かるだろう?」
「推測は出来ます。彼氏の有無。好みのタイプ。付随して趣味や好きな物」
「満点だ。おまえという生徒を持って茶柱は本当に幸せ者だろう」
「すぐに行動に移せとは言わない。今日は俺といたところも秋山さんに見られている。冬休み明けでも何でも構わないから、ゆっくりと距離を詰めて調べてくれ」
誰もいないと思っていたレンタルショップだったが、1人先客がいたようだ。
一之瀬クラスに在籍する白波千尋だった。
「綾小路くんは・・・その、ほ、帆波ちゃんとどういう関係なの」
「何かあったのか? そんなしょげた顔は初めて見たぞ綾小路」
「・・・鬼龍院、先輩」
「それで? どうしても欲しかったなら買えば良かったんじゃないのか」
「ネットで検索はしてみたのか」
「いえ、それはまだ」
「だったら落ち込む前に見てみると良い。意外と安く手に入るものだ。私がオススメするサイトが幾つかある」
ツリーの傍を通りかかると、やはり多くの生徒が近辺に集まっていた。
そんな人だかりの中に一之瀬の姿を見つける。
「ねえ綾小路くん。私と写真を撮ってくれないかな」
「想い出のために、今日は色んな子とここで写真を撮ってたんだ」
「だけど――綾小路くんとの写真を撮りたいから。それが、私の一番の願い」
「綾小路くん」
坂柳だ。
「もうお帰りですか?」
約束していた軽井沢とのデートは流れたものの、白波や鬼龍院といった意外な生徒との遭遇や一之瀬、坂柳との接触もあり、3学期以降の物語の展開に目が離せなくなりそうです。
「ようこそ実力至上主義の教室へ2年生編9」 衣笠彰梧 イラスト/トモセシュンサク
修学旅行の終了した12月、2学期最後の特別試験・協力型総合筆記テストが発表された。内容は1人ずつ交代で試験問題を解き、最終的にクラス全員で全100問のテスト問題を解くというものだった。堀北Bクラスは坂柳Aクラスとの対戦となる。
ルール
あらかじめ決めた順番で1人ずつ生徒が問題を解いていく。1人の生徒は最大5問解くことができるが、正否にかかわらず最低2問は解かなければならない。
生徒が解いた問題は正否に関係なく、別の生徒が訂正することはできない。
各生徒に与えられる持ち時間は入退室の時間を含めて最大10分間とする。
試験に挑戦している生徒以外は別室で待機すること。
次の順番を待つ生徒だけが入口の前に待機する。
制限時間を過ぎた場合、その生徒は失格となり点数は得られない。
問題の解答に関するヒントや答えを書き残す、あるいは口頭で伝えるなどの行為は違反。
違反行為が判明した場合は強制的に試験を打ち切り0点とする。
残り時間に応じて特別ボーナスが加点される。
1時間以上残した場合・・・10点
30分以上残した場合・・・5点
10分以上残した場合・・・2点
全ての問題は難易度に関係なく解いた者の実力(12月1日時点のOAA学力)によって点数が与えられる。
学力A・・・1点
学力B・・・2点
学力C・・・3点
学力D・・・4点
学力E・・・5点
難易度に関係なく、問題を解く生徒の能力に応じて得られる点数が増減する試験となっている。
試験準備が始まるなか、南雲が次期生徒会長を決めると宣言した。2年生の生徒会メンバーは堀北と一之瀬。立候補を問われるも、一之瀬の意思は生徒会自体を辞めるというもの。自動的に堀北の生徒会長就任が決まり、就任にあたって一之瀬が抜けた穴を早急に埋めることになった。最低でも2年から1名は新しい生徒会に呼び込むこと。八神の退学によって出た欠員を埋めるため、1年からも1人生徒会のメンバーを選任することになった。
堀北が選んだ新メンバーは、2年から櫛田、1年からは七瀬。新生徒会の発足。
次巻以降の新たなる展開への布石。
「ううん気にしないで。また何か困ったことがあったら声をかけてね」
優しくそう伝え、一之瀬はジムから離れていく2人の背中を見守る。
「安心して軽井沢さん。本当だよ、綾小路くんとは今はまだ何もない」
軽井沢たちの背中に聞こえない小さな声。
そう呟いた一之瀬はさらに続ける。
「今はまだ、ね――」(p.314~316)
「ようこそ実力至上主義の教室へ2年生編8」 衣笠彰梧 イラスト/トモセシュンサク
期末試験の終わる11月下旬、修学旅行の詳細が発表された。行先は北海道。特別試験は存在せずスキーや観光など通常の修学旅行と変わらない。
修学旅行のテーマは「敵を知り己を知れば百戦危うからず」
各クラス男女で2名ずつ合計8名がグループとなり4泊5日の旅行中、行動するというものだった。
綾小路のグループ番号は6番。
Aクラスからは鬼頭隼人、山村美紀。
Bクラスからは綾小路と櫛田桔梗。
Cクラスからは龍園翔と西野武子。
Dクラスからは渡辺紀仁と網倉麻子。
北海道に到着後、1日目はスキー場に併設された大型の食堂で昼食を取った後、スキー講習。上級者、中級者、初心者の三つに分かれてレッスンを受ける。
修学旅行2日目は、時間の許す限りスキーを堪能。
修学旅行3日目は、グループ別の行動。ただし、制限時間の午後5時までにあらかじめ決められた15箇所の目的地から、合計6箇所スポットを巡る。各スポットの指定された撮影場所に辿り着き、グループ全員で記念写真を撮ることで一箇所巡ったと認められる。
修学旅行4日目。綾小路のグループは、もう一度スキーを堪能。今回はバラバラではなく、8人全員で初心者用の優しいコースを滑った。そして残りの時間で1年生たちへのお土産をしっかりと買う。
今回、波瀾万丈のとんでもない出来事はおこらないものの、次巻以降への伏線となるようなストーリー展開。落ち着いて読み進めることができた。
「ようこそ実力至上主義の教室へ2年生編7」 衣笠彰梧 イラスト/トモセシュンサク
体育祭が終わり、高度育成高校初の文化祭が迫っていた。クラスと壁をつくる長谷部と三宅。そして高円寺のような非協力的な生徒がいつつも、メイド喫茶の準備を秘密裏に進める綾小路たち。だが龍園はその動きを見逃さず堀北クラスとの協力契約を突如破棄し、コンセプトカフェの開催を宣言、さらに売上げでの一騎打ちを要求する。
一方、Aクラスに上がる可能性を失った自クラスに失望した一之瀬クラスの神崎は綾小路を呼び出してアドバイスを求める。
「俺たちのクラスが今後どうすればいいのかについて意見を聞かせてもらいたい」
そして文化祭本番。
櫛田は天賦の才で本領発揮。
店内の状況も誰より見えている他、自分自身を有効に活用する術を心得ている。
何をすれば1人でも多くの人間を自分の味方に出来るか。
大人の異性と距離を縮め、気分を良くする会話をこなし、時には手を握るなどのスキンシップ。その行動にも抵抗や嫌悪感を微塵も見せない。(p.202)
満場一致特別試験での愛里の退学にわだかまりを持つ長谷部だったが、退学の決まった日に愛里は綾小路宛にある荷物の発送手続きを行っていた。段ボールの中には愛里とお揃いで着るはずだった長谷部宛の1着のメイド服。
「私が着るはずだった・・・愛里とお揃いで着るはずだった・・・どうして」
「あいつはおまえが立ち止まり、文化祭に参加しない可能性に気付いた。だからこそ、それを未然に防ぐためにこれが届くことになってたんじゃないか?」(p.228)
愛里はアイドルとしての活動を再開していた。
「教師の協力を仰ぐ場合、1時間毎に10万プライベートポイントを支払うこと」(p.253)
文化祭のクライマックスは、10万プライベートポイントを支払っての、メイド姿の茶柱先生。
「ようこそ実力至上主義の教室へ2年生編6」 衣笠彰梧 イラスト/トモセシュンサク
満場一致特別試験の代償は大きく、綾小路たちのクラスには大きな亀裂が入ってしまった。櫛田、長谷部、王の3人が学校を連続して欠席。体育祭の詳細が発表されるが、堀北への反発からミーティングは紛糾し、綾小路クラスは練習すら始められない。
大きなポイントを得てクラス昇格を果たしたはずが、このままではマイナスの結果になりかねない。3人の生徒のクラス復帰に向けて堀北や平田が動き出す。
一方個人の実力が大きく影響を及ぼす今回の体育祭。男女のペアだけで参加できる競技もあることから、小野寺は最良の結果を求め、須藤とパートナーを組みたいと申し出る。
本巻は、今まで端役でしかなかった登場人物がこれから先、大きな役割を担うことになるかもしれないという期待を持たせる展開の端緒になるのではないだろうか。巻頭「三宅明人の独白」巻末「秋の訪れ」で言及される長谷部波瑠加の復讐と三宅の共感。
そして、松下の動向。
体育祭の後の須藤と小野寺の会話、
「今度部活の帰りにさ、ご飯食べに行こうよ」
「え? ああ、別にいいけどよ。それより鈴音探すの手伝ってくれよ。どこだ鈴音ッ」
「あはは。絶対ヤダ」(p.294)
須藤は拾わせてもらった10連勝に感謝しつつ、この体育祭と小野寺にも同じくらいの大きな感謝を抱いた。(p.295)
須藤にとって小野寺の存在が、堀北以上に大きくなるかもしれない気配。
体育祭を欠席した綾小路の部屋を訪ねた坂柳との会話が記される「客人」の章。
体育祭に際して綾小路が立てたテーマが『静観』。
「この体育祭、1つのテーマを基に過ごしていた」
「興味深いお話ですね。どのようなテーマですか?」
「『静観』だ。体育祭に直接介入せず、オレ以外の生徒だけでどれだけ戦えるのかを見極める良い機会だと判断した」(p.307)
そして、p.317の
1人で帰路につこうとしていると、堀北に声をかけられる。
からの展開。
オレは、おまえのクラスを離れる。(p.320)