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2025.04.09     カテゴリ:  渡辺容子 

   「無制限」 渡辺容子

「無制限」 渡辺容子

2001年2月15日 第1刷発行 講談社文庫

 スピード感ある物語展開の妙味も然る事ながら、場面場面でのあまりにもユーモア感ただよう表現に思わずクスッとさせられてしまいます。
 例えば、

 直進で乗り入れた車をバックで外に出すのに往生した私は、通りかかった制服警官に「オーライ、オーライ」と根気強く誘導してもらってようやく、駐車場から道路へ出ることができた。こんな私に加賀を捜すことが、できるのだろうか。
 早くも自信はぺしゃんこに潰れていた。(p.61)

「えーと、お客さん、おひとりさまで?」
 板前の声に、サラリーマンらしい男性たちが、シンクロナイズドスイミングの団体戦さながらに、揃ってこちらを振りむいた。(p.70)

「すみません。例によってしつこく迫られ、根負けしてお預かりしてしまったんです。クリーニングにだしましょうか」
 衣類より、洗濯が必要なのはあなたのそのオツムでしょうね。(p.83)

「社長、それ」
 谷に指で示されてようやく、携帯だとばかり思って取りあげたものが、じつは折りたたみ傘であったことを知った。(p.87~88)

   プロローグ〈START〉
第一章 山釘
第二章 天釘
第三章 ブッコミ
第四章 谷釘
第五章 風車
第六章 バラ釘
第七章 道釘
第八章 寄り釘
第九章 ハカマ釘
第十章 命釘
   エピローグ〈ドル箱〉
解説 小梛治宣(おなぎはるのぶ)

 小説の舞台はパチンコ業界。それを如実に表わすかのように、本書のカバー写真はパチンコの銀玉。

 離婚調停成立寸前に別居中の夫が失踪します。恋人の藤井と結婚するためには離婚を成立させなければなりません。このままでは藤井と結婚することができない妃美子は、離婚届にサインをもらうため夫の行方を捜し始めます。

 夫の行方を追ううちに、妃美子は、彼が自宅から片道三時間近くもかかる他県のパチンコ店に頻繁に出入りしていたことを知ります。近所にはいくらでもパチンコ店があるのに、なぜそんなに遠くまで出かけなくてはならないのか。彼女はパチンコ常連客たちの協力を得て夫の足取りを追います。解説をふくめて総ページ数p.589ですが、その中ほどで、八木薔子がほんの少し登場します。

 離婚するために失踪した夫を捜していた妃美子でしたが、パチンコを通じて様々な人たちと出会いながら成長していく妃美子の在りようが爽やかです。

 パチンコには縁のない私ですが、夢中で読み耽ってしまいました。

DSC01754無制限

2025.04.08     カテゴリ:  渡辺容子 

   「死神は恋を連れてやってきた」 渡辺容子 装画 ワカマツカオリ

「死神は恋を連れてやってきた」 渡辺容子 装画 ワカマツカオリ

2012年9月23日 第1刷発行 双葉社

 一切の予断なしに読み始め、妙齢の男女のお見合いシーンから始まる物語なんて、渡辺容子の作品にしては珍しいと思いましたが、「身辺警護員」など読み覚えのある単語が現れ始め、決定的な固有名詞はp.21の「スルガ警備保障」、そしてp.24で登場する「八木警備指令」の名前。そうだったのか、本書は「ボディガード八木薔子」の系列に属するものなのかと読み終えてはみたものの、結末は似て非なるものでした。

 そうか、八木薔子は警備指令になっていたのか。

第一章 暗殺者はワルツを踊る
第二章 死神は恋を連れてやってきた
第三章 天使の階段
第四章 スパイは誰?
第五章 悪い奴ほどよく喋る
第六章 哀しき影武者
第七章 氷の王冠
第八章 世界は二人のために
第九章 愛は死より強し
第十章 ブルームーンよ、ブルームーン

 外国人VIPの警護班を任された、駆け出しの女性ボディガード一流愛(いちながれ あい)。美術商だという容姿端麗なVIPを護衛する最中、彼女に警告の電話がかかってきます。『その男は死神だ』。その言葉を裏付けるかのように、彼の来日後、関係者が死に、何者かによって突然襲撃されたりと、愛は自らの人生を揺るがす大きな事件に巻き込まれていきます。

 誰が敵で、味方は誰か?
 ボディガードという職業を前面に押し立てたノンストップ・ラブサスペンス。

DSC01761死神は恋を連れてやってきた

2025.04.06     カテゴリ:  渡辺容子 

   「流さるる石のごとく」 渡辺容子 カバーイラスト 高橋洋々

「流さるる石のごとく」 渡辺容子 カバーイラスト 高橋洋々

1999年10月10日 第1刷発行 集英社

 巻頭部分を読み始めたときは、アルコール依存症の万引き物語かと思ってしまいましたが、読み進めるほどに滋味があふれ出てくる装いの物語。物語が佳境に入るのはp.204。出だしの単調な内容に、読み進めることを諦めてはいけません。佳境に入ってからは怒濤の展開。ヒューマニスティックなサスペンスミステリー。

「先客がいらっしゃるようですね」
「いえ、お義母さまが」
「お義母さま、こちらは稲葉さんとおっしゃって、今度の事件の犯人を探すのに、協力してくださる方ですわ」(p.204~205)

 この箇所から物語の展開速度が一変します。

    序
第一章  懐石
第二章  酒石
第三章  燧石
第四章  墓石
    少憩
第五章  砥石
第六章  磁石
第七章  裸石
    跋

 大富豪のひとり娘で、エリート医師の妻・速水圓(はやみ・まどか)は、何不自由ない生活を送る一方、重度のアルコール依存症に沈んでいましたが、圓の夫が誘拐されます。犯人の要求は圓の所持するすべての宝石、約2億円のダイヤモンド・コレクション。犯人の指示に従い、宝石を詰め込んだボストンバッグを手に、新幹線に飛び乗った圓はあちらこちらへと移動させられます。

 犬猿の仲といってもよかった義母と圓がいつしか心を通わせていく過程が印象的に描かれます。

DSC01749 (1)流さるる石のごとく

2025.04.05     カテゴリ:  川瀬七緒 

   「四日間家族」 川瀬七緒

「四日間家族」 川瀬七緒

2023年3月1日 初版発行 KADOKAWA

 ネットで繋がった四人の自殺志願者。
 年齢のバラバラな男女四人が山奥の車中で練炭自殺を企てていると、一台のミニバンが二十メートルほど先に停車します。

「なんかおかしい」
「さっきの女。山に入るときに持ってたはずのリュックが帰りにはなくなってた」(p.29)

 不審なミニバンが走り去ったあと、森の奥からネコの鳴き声のような声がします。

「よく聞いてみて。わたしには赤ちゃんの泣き声に聞こえる」
「言われてみればそうかもしれない。赤ん坊だ」(p.34~35)

 森の奥で黒いリュックを見つけた四人がリュックのファスナーを開けると、そこには本当に乳児の姿がありました。一時的に赤ん坊を保護した四人ですが、赤ん坊の母親を名乗る女性がSNSに投稿した動画によって、連れ去り犯の汚名を着せられてしまい、炎上騒動に発展、追われることになってしまいます。

 暴走する正義から逃れようとする四人。四人が辿り着く真相とは。
 絶望が生きる希望に転化するノンストップバイオレンス。

第一章 最悪への扉
第二章 見捨てるか、助けるか
第三章 無垢と悪
第四章 疑似家族
第五章 わたしたちの四日間

DSC01737四日間家族

2025.04.04     カテゴリ:  渡辺容子 

   「魔性」 渡辺容子

「魔性」 渡辺容子

2006年11月20日第1刷発行 双葉社

 三カ月前に九年間勤めた会社を辞め、目下無職の珠世は、OL時代に蓄えた貯金で暮らしています。そんな引きこもりの元OL、珠世は、仲間と贔屓のプロサッカーチームを応援するときだけ、生きている実感を味わっています。ところが、試合当日、仲間の少女ありさが何者かに殺されます。

 珠世は、犯人捜しに乗りだします。

 珠世が初めてありさと出会ったのは、今年の一月下旬のことでした。その日、珠世は真っ向から吹きつける冷たい風に逆らうように川べりの道を川上を目指し、ひとり黙々と歩いていました。吹きすさぶ風の中を歩きつづけると、左前方から、人の叫ぶ声が聞こえてきます。

 珠世がそこで見たのは、グラウンドを所狭しとボールを追いかけ、走り回る揃いの赤いトレーニングウェアに身を包んだ男達でした。二、三十人の見物人が、ある人はグラウンドを囲った柵にしがみつき、ある人は緩やかな傾斜の草むらに敷いた新聞紙の上から双眼鏡を覗き込み、練習風景に見入っています。

 柵のすぐそばに佇み、練習の様子を眺めていた珠世でしたが、どうせなら座ったほうが落ちついて見学できると思い、草むらに腰を下ろそうとした時でした。

「あっ、ダメ、ダメーッ」
「お尻に何か敷かないと、せっかくのコートが汚れちゃう!」

 それがありさでした。

 死に場所を探し求めて川べりの道を歩き、死ぬつもりで訪れた多摩川で、珠世はありさに出会ったのです。

DSC01752魔性


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