今日、ある利用者さんからおもしろい話を聞いた。
利用者さんの名前はAさんとしよう。Aさんは80歳手前で頭はかなりしっかりしている。
旦那さんはもうすでに他界し、娘さんと一緒に住んでる。
ある朝、娘さんから「寝言言ってたよ、ちょっと待って、とか言ってた。」そう言われて、その夢を鮮明に思い出したそうだ。かなり詳細に語ってくれたその夢の内容はこんな感じだ。
かなり興味深い話だったので途中から許可をもらって録音させてもらった。


連休で混んでる場所で、私(※Aさん)は今永昇太と待ち合わせしていました。
それなのに、私はほかの人との約束を果たそうとしているんです。
そのときに昇太の小さなメモが壁に貼ってあったのに気付きました。
そこには『僕はいつも待ってばかり』と書いてありました。
そしてそのあとにもう一言書いてあったけどそれを読む前にすぐに彼を見つけ、ほかの人との約束は破棄することにした。
そして、人ごみの中からやっと彼を探し当てて
「ちょっと待って!」と言った言葉がその時の寝言だったようです。
そして彼は以前私があげたお菓子の袋をいくつか大切そうに持っていてお菓子も少しずつ大切に袋にとってあるのを見せてくれました。
まだたくさんあるから、あとであげるから全部食べていいよ、と言ったのに大切そうに残りのお菓子をしまいこんだのです。
彼は背が高く190cm以上あるので、(※身長は大谷さんと混同している??)小さな私は彼の脇の下、腕を組んで、さあ、これからどこ行く?と聞いたら・・・
『悩みがあるからどこにも行かないで僕の部屋に来てほしい』
って・・・
そう、わかった、じゃあそうしようね、と言って人ごみの中腕を組んで歩いて行った
ところで目が覚めました。いいとこだったのに・・・

昇太のメモが貼ってあった場所は、なぜか浅草寺の雷門の提燈の両側にいる怖い顔した像、杖を持った木彫りの向かって右側の囲いの木枠に例のメモが貼ってありました。
その剥がしたメモを握りしめ雷門の外の右手の人ごみの中に右方向に歩いてる今永昇太を見つけ、急がないと私に気付かないまま行ってしまうと焦ったときに、つい大声で「ちょっと待ってー!」と叫んだことが寝ぼけていたことになります。
彼は、雷門のその場所にメモを貼り付けたあと、そこを歩いてたってことは少しはそこで待っていたんですね。そう考えられます。
最後のセリフの悩みとは野球に関してのことです。


と、こんな話をしてくれた。本当はもっと長くて内容もさらに細かかった。
Aさんはもともと昔から野球が好きだった。今はMLBカブスの今永が大好きらしい。横浜にいたときから顔がお気に入りとのことだ。
しかしすごい記憶力だ。妄想かな、って思うほど。
そして、Aさんはまもなく80歳である。
いくつになってもこんな青春みたいの世界に入り浸ることができるのか、感心した。
そして少し切ない気分にもなった。
そうだ、ぼくもたまにこんな夢を見る。もう、60が見えてきたというのに、若い娘と恋愛してる夢を見る。そのときのぼくは60じゃない。まだ若いままだ。60かもしれないけど夢の中の見た目は高校生とかだ。夢から覚めた時の喪失感って・・・わかるでしょ?
自分はそんな恋は現実には何もできなかった。もう手遅れだ。なにもかも手遅れだ。
たぶん、今後も、老いても老いてもそんな夢を見続けるのだろう。手遅れなのに。手遅れだから。
Aさんも、世代的に親から無理やりお見合いさせられたんじゃないだろうか?本当は好きでもない相手と結婚しなきゃならないのは昔の日本では当たり前にあった。うちの親もそうだった。
だから、Aさんは本当の恋愛なんて、ぼく以上にしたことなかったのだろう。
お見合い前に好きな相手がいても何も伝えられずにいたのではないだろうか。
そんな反動を反映した夢じゃないか。好きでもない相手を好きになることができた。そして子供もできた。夫を看取るときは涙も流した。
しかし今、彼女の夢の中ではずっと今永が恋人だ。
たぶん死ぬまでずっと。