5月のゴールデンウィークに、高岡に旅行に行った。ゴールデンウィークという言葉にはどこかバカみたいなところがある。行楽に最適だ。
高岡には私の祖母の家がある。ドラえもんの作者の出身地でもある。これは偶然だが、ドラえもんの身体パラメータは129の数字で構成されており、私の誕生日は1/29である。ドラえもんはどら焼きが好きで、私もどら焼きが好きだ。中尾清月堂のものがいっとう好きだ。
藤子・F・不二雄が高岡を憎んでいるように、私は佐野を憎んでいる。そして私はドラえもんが好きで、高岡が好きだ。しかしSFを少し不思議と訳すのはうちのハウスルールでは禁止だ。
前橋の街を出る。空は高く、絶好の旅行日和だ。長い道中になるというのに、私は前日に夜ふかしして結局昼過ぎに家を出た。前回の反省から、いつに着くかは伏せたまま祖母に連絡する。老人というのは心配性で、そして常に自宅に居るものだ。ありえないほど適当に整備された愛車に乗り、国道を飛ばす。前回の反省から、三国峠は通らず軽井沢を超えてゆくことにした。
排気量が全く足りていない。
前回はターボの軽自動車を借りたことを思い出した。タイヤはバースト寸前のノーマルタイヤで車検は切れているふざけたやつだったが、少なくとも山を登りはした。クソッ。今回は同行者のいない気楽な旅なので登坂車線をまったりと進む。時折パッシングを受ける。眼鏡橋や碓氷湖に寄り道しながら、日が暮れた頃に軽井沢に到着する。軽井沢に到着した瞬間にフランス人と思しき二人組に話しかけられる。
「碓氷峠の関所跡にはどうやっていけばいいですか?」
彼らは徒歩で、私の背後にはカルタにもなった有名な峠道がある。道中キツネともすれ違った。私を道の真ん中から見つめていた。私も彼を見つめた。拙い英語でクソ遠いからやめておけ、どうしても行くならバスもあるが電車がいいだろうと忠告したところ、彼らは本当に駅の方に歩き出した。日が沈み切るあたりでもう一度話しかけ、ホテルを取って明日にでも行ったらどうだと提案したところ、彼らはこのあたりに住んでいるらしい。来週行われる関所跡の祭りを避けて今この薄暗い時間に行きたい理由がなにかあったのだろう。
例えば、サムライ・コスプレで走るバカみたいな日本人を避けたいとか。
しばらく走っていると寒くなってくる。私が普段乗っている車にはオートスライドドアという50kg程度、つまり助手席に素敵なパートナーを乗せた場合に想定される重量、を追加する最高のオプションが付いているため、エアコンを点けると露骨に走りが悪くなる。しかも私はクソデブで、望ましいとされる体重から幼児ひとり分程度の贅肉が付いている。以上の文章は様々な面から適切でないため、皆さんは私に石を投げるべきだ。はやくこの苦痛を終わらせて欲しい。頭を狙え!防寒着代わりの雨具を着るだけに留め、先を急ぐ。 †謎のネジ† が路上に転がる。しばらく探したものの結局見つからず、すべてを諦めてマツキヨで半分が不純物で構成されている薬と苦味フレーバーが主成分の薬を買う。鎮痛剤と興奮剤がどこでも安価に手に入るのは我が国の美点の一つである。
ブルジョワの街にひどい交通渋滞が発生するように呪いながら別れを告げ、ニンジャの街に入る。峠道でない平坦な道!道路族の皆様と道路族の守護聖人に祈りを捧げつつ(私は非積極的不可知論者だ…無神論者になりきれなかった弱い人間)飛ばす。掟破りの群馬走りを敢行する。開店を待ちわびたホームセンターで†謎のネジ†を購入し、先を急ぐ。何人もランナーとすれ違う。後で調べたところ、マラソンで日本海へと向かう氣の狂ったようなイベントがあったらしい。長野から新潟までの長距離を走るなんて物好きもいたものである。GoogleMapの神託に従い、国道をそれて峠道へと向かう。峠のいわれを示す看板が立っている。おおむね”短いですが、急です”というようなことが書いてある。登って、下る。後で気づいたことだが、ここでテールライトを紛失した。国道に戻る。
日差しにあぶられて皮膚が剥け始める。急いでコンビニに入り、日焼け止めを購入する。おいてある中で一番強いものを購入する。なんと令和最新の日焼け止めは肌を白く見せてくれるどころか輝かせてすらくれるらしい。太陽に照らされて煌々と輝く白塗り豚野郎の爆誕である。白いペンキ塗りの棚に並べられた古い児童書を眺め、人生について考える。嘘だ。何も考えてはいない。Twitterにうpして誰かが特定してくれることを祈る。一昔前のインターネット。私は個人情報がバレると死ぬと刷り込まれた悲しい御宅で、個人情報を晒すのは出会い厨だけだと信じている。オフ会募集中。DM待ってます。てか会わね?陰茎の切断を検討する。
またGoogleの神託に従い道を逸れる。誰ともすれ違わない道。使われている気配の無い道路を滑り降りる。眼病を直してくれるという神様が祠に祀られている。ご丁寧に大学ノートが缶に入っている。定型文を書き込む。
「チャリで来た!」
しばらく走ると通行止めの看板がある。文明から隔絶された地にGoogle大明神のご神託は届かない。いくつかの素晴らしい風景を満喫しながら、カンで迂回したところ国道に合流する。しばらく進むと車がミチミチに詰まった道の駅があり、人間が建物にミチミチに詰まってソバをすすっている。売店と食堂の狭間で誰にも見向きのされない竹のおがくずが売られている。地元の学生が制作したらしい。どちらにも目を合わせずに進む。しばらく進んで郷土料理に舌鼓を打つ。郷土料理の名前は覚えていないが、おっきりこみ(群馬場の郷土料理)に似ていた、というかそのものだった。ネタバレ:ソバを食べずに長野県を出る
途中で高そうな自転車に乗った集団に出会う。後で調べたところ、どうやら糸魚川ファストランという自転車で太平洋の水を日本海まで運搬するという気の狂ったイベントを行っているらしい。日本で一番歴史の長いロングライドのイベントであり、交通事情の問題で最近は山梨県スタートに変更になったとか。何がしたいのか一切わからない。
日が暮れるころ、またブルジョワの街に到着する。白馬村というイケメンの王子様が詰まってそうな街には、ウィンタースポーツを楽しむために資本主義社会における白馬の王子様、つまり金持ち連中が熱視線を浴びせている。彼らのいやらしい視線によって不動産価格はホットになり、ついでに物価もホットになる。金持ってそうなご家族御一行ががBBQの準備をするのを尻目に、私は2Lペットボトルの水を購入する。一番安いからだ。しかも長野県で採水されたらしい。地場産の製品だ!嬉しい!旅情!マイボトルに詰める。SDGsを馬鹿にするがファクトフルネスを若者に読ませたいオジサンという属性について考える。少し並んで大盛りで有名な食堂に入る。地元学生向けのサービスがある。オーバーツーリズムと奥で働いている家族、まだ学生、どころか児童が労働力として安価な食事を提供していることに思いを馳せる。彼らはこんな山奥で十分な教育を受けられるのだろうか?少なくとも彼らがサーブしている客の平均程度には上等なものが……
排泄を済ませ、テールライトを確認し、ブレーキシューの固定とリムとのクリアランスを確認し、骨伝導イヤホンの電源を付け、お気に入りのブログの更新を確認し、読み、カフェインの錠剤を倍量飲み下し、最後のダウンヒルを開始した。夜のダウンヒルほど怖いものはない。トンネルの中でアップダウンを繰り返し、自分が登っているのか下っているのかわからなくなったあたりで最後の長い下りに入る。糸魚川の街を一望しながらヒスイの盗掘を検討する。ハイカットの靴を履いてくるんだった!ヒスイは重すぎて持ち帰れないので断念ということにする。
ダウンヒルを終えたところで、ケツが痛いことに気づく。どうやら振動で擦り切れたらしい。コンビニのトイレに入ってリップクリームを股間に塗る。メントールも香料も入っていない純粋なワセリンの塊で、私はこれ以外のリップクリームを受け付けない。もちろん唇に使う場合の話である。もうリップクリームを使えなくなってしまう、少なくともこの銘柄は。しかし、他に選択肢なんてあるのだろうか?人生についてもう一度考え直す。メッシュの下着とコンプレッションウェア、つまりKBTITが着ているアレとチンクルの着ているアレを組み合わせて最強の変態になると汗をかいても快適そのものだが、パチもんの中には配慮が足りないものもある。ケツをすりおろされたくなければ本家ミレーのものを使用しよう。最近変態網インナーにトップバリュが参入したらしい。世も末である。あふれかえるパチもんの変態。しかも格安。
海岸線に沿って走るのはフォッサマグナ周辺を除き快適そのものである。高速料金を払いたくないケチなトラックに追い抜かれながら親不知のクソみたいな道を抜ける。市振近辺もクソだった。振動でポトルをゲージからふっとばし、休憩時に気がつく。断熱材が入って押すだけで水が出てくる上等なやつだ。結構気に入っていたので落ち込む。日本有数の酷道を抜け、日本有数のサイクリングコースを通過する。道の駅には萌え萌え等身大パネルが置かれ、地鉄がサイクルトレインを運行しているくらいには推されているが、なんのことはない広域農道である。走りよいのは確かだが退屈だ。殿様上水で補水すると、ホタルイカを乱獲した方が殿様用の水で装備を洗っていた。アホみたいに取れて困っちゃうらしい。私の自転車と同じぐらいビカビカ光っていた。水はうまかった。コンビニで50円をケチって消費期限切れまであと数分のおにぎりを購入し、腹を壊しながら高岡の祖母宅に着く。家の裏の畑で何やら作業している。クソ重い土を移動するように命じられる。ブルーベリーの植え替えを行うらしい。植え替えが終わってすぐ、私はメタパッドなる謎物体を購入しに金屋町に向かった。本来ならこの店は閉店している曜日だったが、私は速が出ていたのでインターホンを押して購入した。このメタパッドは今も私のインターネット・ライフに彩りを与えてくれている。
長野県は全体的に美しかった。明るい間に移動したのが長野県だからであり、特に意味のない感想である。富山県、というか高岡は自明に美しいため言及の必要は無い。私は前橋の市街地よりも高岡の市街地のほうが詳しい。高岡に旅行に行くときはぜひ声をかけてほしい。勝駒が買える店も知っている。