【桜木紫乃さんに聞く】地元紙は大切なパートナー | 新聞科学研究所

【桜木紫乃さんに聞く】地元紙は大切なパートナー

作家 桜木紫乃(さくらぎ・しの)さん

1965年北海道釧路市生まれ。2002年「雪虫」でオール読物新人賞を受賞。07年同作を収録した単行本「氷平線」でデビュー。13年に「ラブレス」で島清恋愛文学賞、「ホテルローヤル」で直木賞をそれぞれ受賞する。北海道を舞台に書き続け、著書に「起終点駅(ターミナル)」「蛇行する月」など。江別市在住。


思わず目が行く故郷・釧路の記事

 

 朝と夕方に新聞が届くのを楽しみに待ち、最後の社会面から1面に向かって興味のある記事を読む。子どものころからそんな習慣があった。私にとって新聞は「当たり前」にあるもの。今は離れた故郷・釧路の文字が目に入ると思わず目が行く。懐かしい土地や人々と私をつなぐ存在になっている。

 

台風被害の十勝で感じた記者の葛藤

 

 2016年8~9月には北海道に台風が連続して上陸し、十勝、上川、オホーツク管内など広範囲で被害をもたらした。私は別の取材のため、直後に十勝に入った。収穫直前の畑があった場所が、流木と砂まみれとなっていて、その無残な光景に私は言葉を失った。しかし記者はこの状況を言葉(文章)にし、多くの人に伝えているのだ。きっとそこには葛藤もあるだろう。その地に立ったことで、記事の裏側にあるものをより深く考えるようになった。

 

直木賞受賞直後、初めての新聞連載で感じた重圧

 

 直木賞受賞直後の2013年10月から、新聞に初めての連載をした。文芸誌と違い、自分のことを知らない人を含めて、多くの人の目に触れる可能性がある。とても緊張したし、途中で倒れてはいけないとプレッシャーも強かった。連載前の準備は大変だったが、自分が楽しんで書かないと、読者には届かないと実感する貴重な経験になった。

 

これからも北海道で執筆を続ける

 

 私は北海道以外では暮らせないし、東京に出て行って書く必要があるとも感じていない。これからも北海道で執筆活動を続ける。そんな私に地域の情報を伝えてくれる地元紙は大切なパートナー。物書きとして印刷された活字が持つ力を信じているし、新聞は正確だという信頼感がある。記者に速報性が問われることは理解するが、常に読み手との信頼関係を忘れないでいてほしい。

   2018年7月11日公開