東北公開を前に(2)山形編|柴田昌平
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東北公開を前に(2)山形編

山形は、僕にとっては、映画制作上は挫折の連続の地。
 たとえば、旧中津川村(現飯豊町)で、たった2軒だけが藁ぶき屋根のもとで暮らす集落があった。広大な共有林をもち、森に暮らす知恵や、身の回りの草木を利用する叡智に満ちていた。昭和初期から平成までの雪国の歴史の記憶も明快だった。しかし、しかし、取材については何となくの同意のまま撮影を始め、そんなに長期間の取材と思っていらっしゃらなかったこともあり、生活にご負担を与えることになってしまった。1か月ぐらいたったところで、「もう、これまでにしてほしい」と言われて断念した。
 もうひとつは、小国町のマタギの集落。クマの巻き猟を記録したいと思っていて(今も思っている)、何度か通い、ようやく撮影の許可をマタギの頭領からもらえた。そしていよいよ撮影に入ろうというときに、新型コロナが到来。頭領は「ま、撮影に来てもいいかな」ともおっしゃってくれたのだが、当時その村でインフルエンザも流行っていて、万一のことがあると多大なるご迷惑をかけることになると、僕の判断で辞退したのだった。

 一方で、山形は、映画上映においては心強い仲間たちがいる土地だ。
 2007年に『ひめゆり』を上映してくれて以来、陰に陽に僕らの制作・上映活動を支えてくれている松井愛さん(現山形市議)。
 そして映画『森聞き』のロードショーにおいて宣伝担当として大活躍してくれた古田雅子さんは、現在は山形県朝日町の果樹園木楽を、やはり埼玉から移住したご主人の晋さんと営んでいる。

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 フォーラム山形で行うトークショーのゲストは、このふたりから繋いでもらった縁。

 まずは、山形県中山町でリンゴ、サクランボ栽培を家族経営する渡辺裕太君、26歳のことから。

渡辺裕太君

 実は、裕太君と出会ったのは今から15年前の2011年。上述した松井愛さんが奔走してくれて、中山町立中山中学校で映画『ひめゆり』の上映会が実現した。僕もうかがって、上映後に生徒たちとディスカッションの時間をゆっくり持つことができた。渡辺裕太君は、その時に映画を鑑賞した110名の生徒のうちのひとりだ。

 当時、中山中学では、「畑作委員会」という取り組みがあった。農家の子どもたちが多かった学校なので、家の営みのことを子どもたちにも理解してもらおうと、生徒たち自身も野菜を作り、さらに行商して販売をする取り組みを行っていた。野菜づくり、そして販売まで、すべてを体験する。指導していたのは五十嵐晋先生だった。
 裕太君は「畑作委員会」で積極的に活動をしていた。どんな野菜を育てているのか、その作物がどんなに魅力的なのか、裕太君は目を輝かせながら語っていた。
 「ゆうた」という名前が、沖縄の言葉の「ゆんた」(祝い唄)、あるいは「ゆんたく」(おしゃべり)と響きが似ていたので、僕は「ゆんた君、ゆんた君」と呼びかけつつ、放課後に彼の語る「農」の世界に惹きこまれた。

 裕太君は、中学の頃から「将来の夢は農家になること」と明快に語っていたが、その後、県立農業大学校を卒業。講師として後輩たちの指導に当たったのち、昨年から家の農業経営に本格的に参加した。
 『ひめゆり』を鑑賞してくれた110人の生徒のうち、「農」を職に選んだのは裕太君ひとり。
 百姓として本格的に働き始めた裕太君の取り組みを語ってもらいたいと思っている。

なお、裕太君は、トーク出演の依頼をしたとき、すぐにはOKをくれなかった。数日熟考してくれた後、次のような連絡があった。
「先日の件かなり悩みました。 役不足かと思いますが挑戦してみようと思います。」
背伸びをせず、素直にありのままを語ってくれれば、それだけで素晴らしいと思う。


古田晋さん

 古田晋さんは、『森聞き』のときの超パワフルなスタッフ、雅子さんのご主人。上映で山形に訪れたときに、家に泊めていただいたりしている。
 晋さんは、埼玉で9年間公務員として働いた後、果樹(りんご)で就農したいという思いから、大学時代を過ごした山形へ移住した。

 僕が晋さんのリンゴ園を訪ねたときに心に残ったのは、晋さんの哲学もさることながら、地域のいろんな考え方の農家の人たちと、うまく共存している様子。百姓はひとりひとり考え方も、方法も違う。でも雪国では、皆が協力していかないと、果樹園をのものを維持できない。雪かきや水路の管理など、たくさんの協同が必要だからだ。晋さんは、地域と歩調を合わせるために100%自分の好きな形でのリンゴ栽培ができるわけではないが、きっと近い将来、この地域のリーダーとなっていくことだろう。
 移住者代表として、トークで語ってもらいたいと思っている。



高橋博さん

 高橋博さんは、『百姓の百の声』出演者。発酵の力を利用して、低農薬での苗の栽培を実現した。「良い菌がハウス内に住み着き、バリアーとなってくれている」という高橋さん。詳細は映画HPに書いているが、 何よりも、僕が山形県内で撮影し、ついに陽の目を見ることになった作品の出演者なのだ!!



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東北3館の上映情報

◆2月3日(金)~9日(木)まで
 上映時間詳細は

 https://www.100sho.info/#theater

 1週間毎日上映しています!

【トークショー情報】

◇仙台、チネ・ラヴィータ 
 2月5日(日)10時からの上映回の後
 ゲスト:堀米薫さん、三浦隆弘さん(プラス僕)

◇フォーラム山形
 2月4日(土)14時からの上映回の後
 ゲスト:高橋博さん、古田晋さん、渡辺裕太さん(プラス僕)

◇フォーラム福島
 2月4日(土)10時からの上映回の後
 ゲスト:薄井勝利さん&勝史さん、大河原伸さん&多津子さん(プラス僕)


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