SAAI会員紹介 岩田竜馬さん
今回の「SAAI会員紹介」では、株式会社SaveExpatsCEOの岩田竜馬さんにお話を伺いました。
SAAIでは01Startに採択され、すれ違う全員に声をかけられながら、元気よく挨拶をしている、いつもパワー溢れる岩田さんに、どのような思いで事業をされているのかお尋ねしました。
プロフィール
駐在員時代に感じた「不」からの起業
上野: これまでのキャリアについて聞かせてください。
岩田: 僕は元々、石油やガスを開発する資源開発のプラント建設会社、日揮ホールディングス株式会社にいました。砂漠のど真ん中や、北極などの僻地に駐在員として赴任していました。
入社直後に、駐在員としてカタールに行きました。首都のドーハから3時間ぐらいかかる土漠という、海の目の前で、ベタベタの風が吹いて気温も45度あるような場所でした。。その後インドネシアの孤島に行って、その次は北極、最後にアルジェリアに駐在していましたが、コロナが流行り、日本に戻ることになってしまいました。
上野: コロナ後はどのような事業を担当されたんですか。
岩田: 海外時代の「不」をDXで直したいという気持ちから、所属していたプロジェクト部門から新規事業とDXの部署に異動しました。異動後は、神奈川県の『BAK』というプログラムに採択されスタートアップと一緒に新規事業共創を経験しました。すると上司と先輩に、経産省の『※ 始動 Next Innovator』というプログラムへの応募を勧められました。実際に新規事業をどう生み出すのかを形式知としても学んで鍛えてこい、という意味で背中を押してもらったんです。
※『始動Next Innovator』:経済産業省・JETRO(独立行政法人日本貿易振興機構)主催、グローバルイノベーター等育成プログラム。
上野:会社員としてでなく、起業家としての応募になりますね!
応募した時の心境はどうでしたか?
岩田: 正直、応募した当時も会社員でずっとやっていくつもりでした。でも、家で悩んでいる僕に妻が「挑戦を諦める姿を子供に見せるな」と励ましてくれたおかげで、決心がつきました。そして無事、『始動Next Innovator』の選考に通過しました。当初は、歯のヘルスケアのビジネスプランに取組んでいました。駐在員にとって、日本と海外では歯科治療があまりに違いすぎて、海外で歯医者に行かずに放置した結果、悪化して入院にまで至ってしまうという問題へのアプローチでした。
解決策としては、医療機器の使用を想定していたのですが、実は歯医者さんでの医療体験は数百種類の医療機器の塊で成り立っているんです。機器のひとつひとつを各国で承認を取って初めて、あのオールインワンパックの治療が受けられるんです。そうするとプランの実現に何十年もかかってしまうので、現実的ではないと気付きました。
上野: そこからなぜ現在のビジネスモデルに行き着いたんでしょうか。
岩田: ビジネスプランをピボット(事業転換)するために、「始動」プログラム期間中いろんなメンターの方と話を重ねたり、たくさんの駐在員の方々にインタビューをしました。インタビュー中は、駐在員時代のことを思い出していました。実は、過去の駐在期間中、上司と同僚を数人脳梗塞と心不全で亡くしています。恐ろしいことに、当時は駐在先での日本とは違う過酷な環境が当たり前だったせいで、身近な人を亡くしたことや、その原因について真剣に深く考えていなかったんです。
この気づきをきっかけに駐在員の健康問題が悪化する事態について原因を探りました。
多くの大企業で駐在員は年に1度は日本の病院で健康診断を受けることができますし、現地の病院と契約もしているため、診察を受けることができます。ですが、特に先進国大都市以外の国や地域では現地の病院が信用できない、行くのが億劫だ、フォローアップ体制が日本より弱い、などの理由で健康診断で毎年数値が悪くなっていることを把握しながら、病院に行ってないケースは多いんです。対策として、日本のお医者さんと日本基準の検査数値を一緒に見ながら相談ができて、薬を処方してもらう、食生活を変えるなど、事前に対処ができていれば、あの上司と同僚たちは別の可能性があったんじゃないかと。
「始動」期間終盤であるメンターに相談した際、自己採血検査の事例を教えて頂き、突貫工事でビジネスモデルを0から完全に作り直しました。その2週間後、あるスタートアップをExitさせたファウンダーに「本気でやるなら、君の事業に出資したい。」と言われ。一会社員のビジネスモデルに出資したいと言って頂き背中をおしてもらい、より一層真剣にのめり込んで行きました。さらに、『始動 Next Innovator 』のプログラムでは、最後に優秀者はシリコンバレーに行くことができるのですが、それに選ばれることができずに、悔しくてどん底にいた時、「岩田くんがシリコンバレー選抜されてもされなくても、その課題を抱えるユーザーは、解決策を待ってますよ」と言われてもう一度火が付きました。
それからは、友達の医師たちに相談しながら国内外で健康支援系のサービスを扱う企業を探したんですよね。すると日本のメーカーで検査キットを扱ってる企業がありました。海外でも、同じような仕組みでサービスを行っている企業がない、と各国の医療機器事情に精通した企業の方と一緒に調査して明らかになりました。その後、※JETRO(ジェトロ)さんに相談して、法的なスキームのことや現地の行政の対応方法などアドバイスをいただき、多くの方々に助けてもらいながらトライアルの準備を進めていきました。駐在期間中に各国現地で培ったロジスティック経験からサービスの実現可能性を見出しました。
※日本貿易振興機構(JETRO)
上野: 事業化に必要な情報は一つずつ集めていったんですね。
岩田: そうなんです。さらに、事業化を進めるにあたり、国際輸送のネットワークを活用させていただいたんです。そのおかげで、今のビジネスモデルの元になる、海外の拠点や自宅にいるままで検査キットの自己採血をして、その血液を日本のラボに返送し、分析された結果は世界中のどこでも確認できる、というリモート検査のフローが可能となりました。それと同時に、事業化に向けてユーザーヒアリングに注力しました。
上野: 会社員ではなく、「起業家」の立場でヒアリングをする際、気づいたことはありますか。
岩田: まず、かなり苦戦しましたね。会社員として社名の看板があってヒアリングをお願いすると引き受けてくれる方がほとんどですが、看板を外した個人としてお願いすると会社員と違って信用できるものがないので、断わられてばかりでしたね。ヒアリング中に、自分の考えや取り組みを否定されることも多かったです。あとは、この「不」を解消するビジネスモデルのニーズが本当にあるのか様々な業界・業種の駐在員に確かめるため、各国の駐在拠点に足を運んでヒアリングをしました。
上野: まさに、健康問題に直面している方々にヒアリングされたんですね。
岩田: そうなんです。。オンラインとオフラインではヒアリング効果がまったく違うんですよ。オンラインで「今、日本なんですけど」と話した時と実際に現地に行って直接話した時とを比べると全然温度感が違いますね。現地で「本当に来たの!?」って反応するユーザーの話には、現場だけでしか聞けないことがあると実感しました。
上野: 駐在員という立場で、健康問題を抱えているのは特にどのような方なんでしょうか。
岩田: おもに、40代を超えて単身赴任してる方たちですね。単身赴任する年齢のタイミングもありますが、子供が中学生や高校生になると、受験と部活などが理由で、奥さんとお子さんは日本に残ることが大半です。そうなると現地での食生活が一気に悪化してしまって、これがちょうど一番健康の数値が悪くなっている40代の時期に重なることが多いです。
そんな中、なぜ駐在を希望するかというと、海外でのビジネス経験を積めて、さらに手当等で給与がぐっと増えるからなんですよ。でも、駐在当時の自分を振り返ると、その健康状態だと本当にリスクが高くなっていたにもかかわらず、自分自身で何か対策をしないと、と思ったことがなかったんです。ヒアリングの際に「身体や心の悩みを会社側に相談したことありますか?」と聞くと、「ないよ。だって人事とかに言うことじゃなくない?」「自分からそれを言ったら、日本に戻されちゃって迷惑かけちゃうでしょ?」という声を本当に多く聞きました。
上野:難しい状況ですね。ヒアリングの後は事業にどのような影響があったのでしょうか。
岩田:それまでは、自分の個人的な体験とそこから生まれた思い込みでしかなかった「あるかわからない」課題でしたが、その存在が一層明確になり、バイネームでその「不」を抱えている方々の顔が思い浮かぶほど、課題の解像度が磨き込まれました。解像度が上がるほど、取組む熱量もどんどん熱くなっていきました。
会社員から起業、代表取締役CEOに
上野: 会社員時代と比べて、「代表取締役CEO」になってから変わったことはありますか。
岩田: 会社員のときは全然気づかなかったんですが、仲間を集めるやり方ってあるんだと。上司を亡くした話もそうですが、自分はオープンがいいんだと気づきました。行動を起こすまでは、「こんなこと言ったら引かれるかな」とか、「どう思われるかな」とか考えて不安ですよね。でも実際は、誰にどう思われるかとか、そんなことはどうでもよくて、僕がヒアリングして回った時に話させてもらった、不安を抱えた駐在員とその家族を救える世界にするためなら、誰に何を言われても、何を思われてもこの事業をやるきることには何も関係ないなと。
岩田: もともと『始動Next Innovator 』に採択されて動き始める前はFacebookの繋がりは300人ぐらいだったんです。それが、今では1600人ぐらいですから、約1年間で1300人ぐらい増えています。自分が話したい、仲間でいたいと思う人たちがとんでもないスピードで増えていくんです。これで人生が変わりました。会社員の時は得意先やメーカーさん、現地建設会社やお客さん、同僚など、仕事で関わる人たちとしかほとんど話さないじゃないですか。今では圧倒的に話す相手も、今まで出会いようが無かった
人たちが多く、ワクワクするような人との繋がりが爆増したんです。
上野: 起業家になったことで、人生を変えるほどの繋がりや気づきが得られたんですね。
岩田: 自分から心の壁を全部取っ払ってオープンにすることで、「あっ、息ができた」と感じました。僕は小さいときに、「竜馬くん、いつも心にブレーキだよ。」って先生に言われたり、「特別なことはできなくてもいいから、普通のことをできるようになってくれ。」と言われてました。「普通にできないな〜」と思いつつも、なんとか普通のふりを頑張って、いつの間にかそれを意識しなくなったまま、会社員になってたんですね。自分には他に向いてることがあるかもしれない、という事にも気づかず会社員を10年やってました。
会社を自分でやり始めてからは、いわば、トレーニング用のおもりがふっととれて体が動かせるような感覚でした。人には向き・不向きがあるんですね。
会社員時代は、自分の能力だけで戦う世界だったんです。それが、今は「合体ロボ」みたいな感じで、できる人を仲間にすることが大事なんだ、やっていいんだと気づいたんです。自分だけじゃなくて、仲間がいればさらに戦えるんですね。商品デザインができないならデザインの勉強をするのではなく、デザインが得意な人を仲間にする、で大丈夫なんです。
だけど、最初は全く仲間を集められなかったです。
「理解・納得・共感・応援・熱狂」って5段階があると考えていて、例えば会社員が事業説明をする時の社内資料は相手から理解、納得まで得られればいいんです。でも、これだと誰も事業を一緒にやる仲間にはなってくれないんです。結局仲間になって一緒にやるって「あなたの人生の大切な時間を僕にください」っていう話じゃないですか。だからこそ「岩田竜馬と仕事するとと最高じゃん」って思ってもらわないと誰も手伝ってくれないんです。そこで、心をオープンにすることにしました。オープンに躊躇なく自分を曝け出すことで、想いを本気で伝えられ仲間になってもらうところまで辿り着けるようになってきました。今や2名だったメンバーが、16名になっています。
でも実際は、こんなこと言ってても何度も悔しくて苦しくて折れかけてます。
でも、そんなときに思うのは、このサービスを使ってくれている駐在員の人たちから、「ものすごく心配なのに、家族にも相談できなかったし、人事にも言えない、立場上、周りやオフィスにいるメンバーたちにすら相談できてなかったから、本当に助かった」って言われたんです。、しかも、大企業の現地法人のナンバーツーとかの立場の方が、若干目をうるませながら言ってくれて。こういう瞬間が本当に励みになって、そのおかげで強くなりました。家の机で考えていたら、ここまで魂はこもっていないと思います。
これからのSaveExpats
上野: Save Expatsの今後の展望、目標はなんですか?
岩田: 2030年に上場ですね。今は第一歩として海外で働く日本人向けのサービスですが、昨年の10-11月に、Alchemistというアクセラレータープログラムに参加するため、サンフランシスコに1ヶ月弱行っていました。インタビューを100件以上したところ、日本人以外の母国を離れて暮らしている人たちも様々な理由で困っていると知りました。原因は、自分のアレルギー情報とか、昔飲んでいた薬の情報や治療の履歴が、母国から離れると何もわからないからでした。これは大きな課題だと。
上野: 世界規模で拡大していくんですね。
岩田: そうなると駐在員を守るだけでは止まらず、「国をまたいで働く人みんなを守る」みたいな感じですよね。
上野: 「働く人」という部分が大事なんですね。
岩田: 彼らは重要なミッションを持っています。自国の事業を展開させるとか、その国の発展を支えるとか、そして、家族は彼らを支えるんですよね。僕は、彼らを支えている家族も含めて、「働く人みんなを守りたい」と思っています。
認知の拡大する場所「SAAI」との出会い
上野: SAAIを利用したきっかけは何ですか。
岩田: 一番最初は『始動 Next Innovator 』の同期である高野さんと池上さんがSAAIに会員として入居していて、『01Start』の第1期、第2期の採択者の方たちなんですよ。「SAAIは人と繋がれてコミュニティマネージャーも最高だ」という話を聞いて、実際に01Startに応募するぞってなったんです。その話を聞いた時点で発信力が違うなと感じたのが大きいです。たとえばPR力が強かったり、ゼロワンブースターのイベントでの登壇もあったりと、周りからの認知の強さと人との繋がりで応募を決めました。
※『01Start』:SAAIが主催するビジネスプランコンテスト。
上野: 実際にSAAIに来られてどうでしたか。
岩田: 施設はめちゃオシャレだし、認知超拡大するのもそうだし。あとは、お尻たたかれないと、僕意外とやらないタイプなんですよね。そこを解決できる場所としていいなと感じました。
上野: 01startで印象に残ってることはありますか。
岩田: 僕のピッチの最後、審査員、候補者の方々に向けて「ひとつ言わせてもらっていいですか」と、どうしても伝えたいことがあったんです。僕が伝えたかったことは、僕が駐在してきた場所ってニューヨークとか、ロンドンみたいな先進国大都市ではなく、新興国途上国の地方なんです。こうした場所では、健康レベルの上がり具合と、学力とか経済成長とかの上がり具合がずれてるんです。実際、現地で一緒に働いていた方は、大学を卒業していましたが、親の寿命がすごく短くて、健康状態は良くなかったんです。
つまりは、しっかり経済成長しているはずなのに不健康なんです。なぜなんだと思い現地の事業を支援している方に聞くと、医療技術や機器がたくさんあっても、使いこなす医療者側が育ってないことが原因でした。現場も回っておらず、教育にまで手が回らないんです。この課題を何とか解決したい思いがそもそもあります。現地の公的な医療機関では赤ん坊を抱いてるお母さんとかでいっぱいで、朝4時から病院に並んで、診療を受けることができるのは夕方5時とかなんですよ。
この経験から、「誰もが健康であれる世界を作ること」が僕のやりたいことです、と言ったら、後から審査員の方が「最後の話が良かった!」と言ってくださったことですね。
「SAAI」はオープンになれるコミュニティスペース
岩田: 僕が一番SAAIに滞在していると思います(笑)。誰もまだ来ていない朝8時ぐらいにSAAIに来て、本業終業後の副業兼業メンバーや海外メンバーとのオンライン打合せもあり夜遅くまで使ってます。朝一番に、電気をつけてSAAIを最後にでる時に電気を消す、そのくらい使い倒します!
上野: 私は受付にいるとき、岩田さんが毎回挨拶してくれるので、本当に尊敬しているんですが、岩田さんのもともとの性格なんですか。
岩田: 実は人に対してオープンになる変化が起きた期間がSAAIにいる期間とかぶってるんですよね。SAAIに入会した当初、メンバーは僕を含めて僕ら2人だけだったんです。つまり、まだ仲間を集められていない時期だったんですよ。誰かと話すときも、「誰も俺になんか興味ないだろうな」という気持ちで話していましたし、会社員時代と似たような説明ばかりして、誰の心も動かせない話し方をしていた気がします。
でも、SAAIで今まで会ったことのないタイプの人たちに出会い、話し続け、どんどん考え方が変わりました。大企業の代表取締役の人もいれば、企業内で新規事業に携わりながら社外で活動している人、伸びているスタートアップの創業者やフリーランス、芸術家の方まで、刺激的な人たちにばかり毎日囲まれている環境なんです。もし家で仕事をしていたら、メンバーを集めることも、みなさんに会うこともできなかったですね。日々周りにいる人たちと話すことや、みなさんが話していることもそうですが、抱いている熱意や思いが、耳に自然と入ってくる環境から、かなり大きな影響を与えられたと思います。
上野: 『そんなことも、あんなことも!すごい!』とつい聞きたくなってしまうことが勝手に耳に入ってきますよね(笑)
岩田: 起業家として社外で活動する今を、会社員の時と比べると人との繋がりを大切にする具合が全然違いますね。たとえば、事業に必要な知見とか、助けが欲しいとなった時に繋がりを大切にしていれば探さなくても、共感してくれた人から声をかけてもらったり、繋いでもらえるようになりましたね。
上野: SAAIだと特に、すれ違うときに話せば、その場で相談したり、スケジュールの調整ができてしまいますもんね。
岩田: それいいですよね。次の打ち合わせまでの3分でとか、気軽にすぐ声もかけあって、相談しあえるのがいいです。
自分の心をオープンにすることで今や素敵な仲間に囲まれている岩田竜馬さん。起業家としての心と環境の変化を熱く語っていただきました!勢いが止まらない岩田さんの、さらなるご活躍を応援しております!
株式会社SaveExpats
・インタビュー・執筆:上野七生(うえのななみ)