「わかりあおうとするエンジニアが活躍できるコミュニティを盛り上げていく」――新旧CTO対談
ミラティブはスマホ1台でゲーム配信ができるプラットフォーム「Mirrativ」のサービスを提供し、2018年2月創業時から着実な成長を遂げてきました。そして2024年1月、横手から千吉良へとCTOが引き継がれます。2021年から2023年までの間ミラティブの事業・組織拡大を技術的視点からリードしてきた横手は、どのような視点で今回の決断に至ったのか。そして新CTOとなる千吉良は、今後どのようにエンジニア組織を率い、経営に結びつけていくのか。新旧CTOの立場にある二人の対談を通じ、今後のミラティブの新たな成長について紐解きます。
「CTOの新陳代謝は会社にとって必要」新CTO就任に至った背景
――今回のCTO引継ぎの経緯についてお聞かせください。
横手: もともと私は「CTOはたまに交代したほうがいい」と考えていまして、テックイベントでもそのことに度々言及してきました。
CTOの得意・不得意は、そのまま会社の事業にも色濃く反映されます。私がCTOを務めた会社のフェーズでは私の得意なことがミラティブの成長にうまく結びついたのですが、これが局所最適になってしまうと良くないとずっと思っていました。2023年は私がCTOに就任してちょうど3年という区切りのいい年でもあるので、交代しようと考えた次第です。
明確な狙いがあるというよりは前からそう思っていたというのが正直なところですが、私の中で「正しさ」が固まりつつあるのは課題だと感じていました。試行錯誤の回数が減ってきたな、と。これが会社にとっていいこととは言い難いので、新陳代謝が必要だと感じることが増えてきました。千吉良さん、どうでしょうか。
千吉良:そうですね、CTOといえ誰しも得意・不得意な領域があるだろうというのは同感です。自分がこれからCTOとしてコミットしていくのにあたって、得意な領域をどう活かすか、新しく領域を広げていくのか、今のフェーズは当然ですが次のフェーズに向けてどう準備していくか、これから探していく必要があるかなと思っています。
横手:その「何が正しいかわからないからこれから探しに行く」というその感覚こそ、組織にとって健全な感覚だと私は思います。
千吉良:これまでもプロダクトサイドの技術ヘッドだったので、プロダクトや開発組織の課題については取り組んでいました。これから見える範囲が変わったり、エンジニアに限らずより多様な方々と関わる機会が増えると、そこで初めて見えてくる課題もあるはずなので、まずはその課題を言語化するのが最初の仕事になりそうです。
――横手さんと千吉良さんの違いはどういうところに出そうですか。
横手:私も千吉良さんもインフラよりというよりアプリよりのエンジニアでした。こういう点は似ていると思います。とはいえ、同じ人間は誰ひとりいないので、誰がやっても違いが出てきますよね。私と千吉良さんの違いをひとつ挙げるならば、私はもともと研究職をやってきたので、その考え方が色濃く出るCTOだったと思います。ですから、きっと千吉良さんは千吉良さんの歩んできた人生がこれからにじみ出てくるのでしょう。あと、多分私のほうがひねくれているというか、かなりの天邪鬼(あまのじゃく)ですね。千吉良さんのほうが素直だと思います。
千吉良:(笑)。得意な技術領域も違いますし、違いを挙げればきりがないのですが、逆に違いがない点としては会社のミッション・ビジョンに対する想いだけは一貫しています。
――引き継ぎについて、横手さんは千吉良さんをどうサポートするイメージですか。
横手:難しいところですが、あまりサポートしないほうがいいと思っています。オペレーティブな部分は具体的に引き継ぎますが、本質的な意思決定や考え方の部分は千吉良さんに任せたほうがいいかな、と。
千吉良:サポートしすぎると互いの違いを活かすことの障害になってしまうと思うので、自分の色を出す方が良いかなと思います。ひとまずは必要最小限のことだけ引き継ぐのがいいかなと思います。困ったら頼ります。
横手:(笑)
新たな時代で重視されていくのは技術とビジネスをつなぐ視点
――CTOの役割について、昨今の技術進化や市況感と併せてお聞かせください。
横手:ここ数年でAI領域の技術進化が爆発的に進みました。これが長期で見たときに世の中にどのような変化を与えていくのか予測するのは難しいことですが、確実に世の中は変わっていく。そんな中で技術的な視点から事業の舵取りをしていくCTOは、意思決定が難しくなる一方、楽しさも感じられるのではないかと想像しています。
千吉良:社内でAIを活用するのは比較的想像しやすいですが、Mirrativのようなサービスのエンドユーザーにどう届けるかとなると想像できない、というより、むしろいくらでも想像できてしまうと感じています。どれが最適な選択なのか判断していくためには、経営と技術の間をつなぐ会話がより必要になるでしょう。ですから、経営チームの中で技術について語れる人材の存在意義は、今まで以上に重要になってくるのかもしれません。
横手:私は世の中全体でCTOのような技術系の経営職が増えたらいいと思っています。CTOのような役割を果たせる人材が増えることは社会にとってプラスですし、会社としてもそういった人材が増えることは会社の競争力になっていくでしょう。
――横手さんは「社内からCTOを輩出したい」と以前の対談記事でもお話していましたね。
横手:エンジニアとして働いて、CTOに就任して、交代したらまたエンジニアに戻って……というサイクルを社内で継続的に作れるといいな、と考えています。実際ミラティブではそのサイクルがすでにできつつあって、私の前にミラティブの初代CTOを務めていた夏さんは、今もミラティブのエンジニアとして活躍しています。同じように、私も引き続きミラティブにコミットしていきます。
夏さんはプレイヤーとしてのレベルが非常に高く、創業期のCTOとしてはベストの人材でした。その次の成長フェーズで、私はエンジニアの評価制度を整えたり、新卒採用を始めたりして、エンジニアチームの規模も50名程度まで拡大しました。そして今回バトンタッチする千吉良さんはどんなことをしてくれるのか、今から楽しみです。
千吉良:組織の規模が大きくなったことは、これから私がやるべきことにもつながってくるかもしれません。ミラティブは事業も組織も成長し続けていますが、組織の人数が増えてくると、コミュニケーションがどんどん複雑になります。そのような環境で、色々なチームと協力していかに効率よく開発を回していくか、そして本質的な付加価値をどう生み出すかがより重要になってきます。
――組織のアップデートですね。その他の視点でアップデートのポイントはありますか。
横手:ミラティブはいわゆるワンプロダクトカンパニーですが、ユーザーさんへ提供する機能に加えて、ゲーム会社さんとの協業やライブゲーム事業開始などを受けて、事業の幅がより広くなり、各々伸びています。こういった中で、ビジネスと調和するようなエンジニアの存在感が一層高まっていくかもしれませんね。
これとはまた別の話として、最近のエンジニアの話題として「単に技術力を高めればいいのか」、あるいは「ビジネスにおいて価値を出していくべきなのか」がホットトピックだと思います。私のフェーズでは技術にフォーカスしたマネジメントが最適解だったと思いますが、次のフェーズでは技術は引き続き重要視しつつ、揺り戻しとしてもう少しビジネスサイドに寄せてもいいかなとも思います。
千吉良:そうですね。前提として、ミラティブのエンジニアは今までもプロダクトへのコミットが強い集団だと思います。一方、複数の事業や機能のうち、どこに注力していくかは事業戦略とタイミングによって都度変わっていきます。注力する領域が変わるとコミュニケーションパスが変わるし、エンジニアチームも開発体制を最適化しなければなりません。プロダクトの動きに応じて柔軟に応えるエンジニア組織を作ることも、私がやるべきことのひとつです。
直近だと私はスクラムなどミラティブ全体の開発体制の変更も進めていたりして、プロダクトマネージャーとコミュニケーションをとる機会が非常に多くありました。結果的には、今CTOとして求められる部分にはまりやすい経験を重ねてきたのかもしれません。
技術コミュニティとしてエンジニアが最大限活躍できる場をつくる
――これからエンジニアチームがどのように変わっていくのか、CTOが果たす役割は何なのか、だんだん見えてきました。
横手:ミラティブには優秀なエンジニアが集まっていると思うので、一人ひとりの実務的な部分は何も問題ないと思っています。そこに対してどんな方向性を持たせるかが、ミラティブのCTOの腕の見せどころですね。
そもそもCTOの役割は会社によって全く異なります。そのうえで、ミラティブはライブ配信とコミュニティのサービスを提供しており、かつ技術スタックが広いという特徴を持ちます。それを支えるエンジニアは信頼できるメンバーが集まっているので、CTOはそのエンジニアたちが活躍できるよう考えていくことが一番重要な使命だと私は考えています。Mirrativはコミュニティサービスという側面が強いですが、ミラティブのエンジニアチームもひとつの技術コミュニティなので、それを盛り上げていく立場と言ってもいいかもしれません。
千吉良:技術的に強いエンジニアに最大限活躍してもらうためには、どうしたらいいか。この答えはまだ見えきっていないので、これからも考えなければなりません。エンジニアのコミュニティとしてミラティブをより良くできる部分がどこなのか、考えていくところからスタートすることになりそうです。
横手:ミラティブは「好きでつながり、自分の物語(ナラティブ)が生まれる居場所」というビジョンを掲げている会社なので、エンジニアの組織としてもそうありたいよね、とは考えています。それを実現していくのがCTOなのかな、と。この“好き”という感情は、何に対するものでもいいんです。ゲームでもいいし、配信でもいいし、技術でもいい。そうやって集まったエンジニアたちが、ナラティブを生み出していける場を提供し続けられる環境をつくることが、CTOができることなのかもしれません。
千吉良:ミッションやビジョンに共感しているエンジニアが集っていることがミラティブの組織的な特徴であり強みだと思っています。当たり前だと思うかもしれませんが、そこに対しての価値を実感しているエンジニアが本当に多いんです。CTOとして、エンジニア組織全体がミッションやビジョンにどうコミットしていくか、ということを常に考えていくのだと思います。
――最後に、横手さんから千吉良さんへのメッセージと、千吉良さんの抱負をお伝えください。
横手:私がCTOを打診されたとき、初代CTOが任を下りてCTO不在のタイミングだったんです。そのときはCTOがいなくてもうまく回っていると思っていたので、「今のミラティブにCTOは要らないんじゃないですか」と返したんです。でも実際やってみて、やっぱりCTOって必要な存在だな、と思いました。
たとえば、エンジニアチームを拡大するためにテック系の発信やイベント参加、スポンサーシップなどの今まであまり行ってこなかったことを積極的に進めました。また、エンジニアに適した評価制度を作ったりする動きは、やはり会社全体が見えているCTOじゃなければなかなかできなかったことだろうと思います。意思決定のしやすさは感じました。千吉良さんの中で『ミラティブに今後こうなってほしい』というビジョンはありますか?
千吉良:シンプルに、ミッションである「わかりあう願いをつなごう」を実現する、できる会社、事業、組織に成長させたいと思います。僕はこれまで自分がCTOになるとは夢にも思わず働いてきたのですが、これも一つの成長機会と捉えて自身の成長を組織やメンバーに還元していけたらいいな、と感じています。
2024年を迎えてミラティブはCTO交代としますが、これまで以上にミラティブのエンジニア組織を大きくしていきたいと思っています。ミラティブのプロダクト、技術、組織に少しでも興味を持っていただけた方や話を聞いてみたい方がいらっしゃいましたら、ぜひお話したいです!
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