元JAXAマンの『プラネテス』批判が本当に言いたかったこと|さいたま
見出し画像

元JAXAマンの『プラネテス』批判が本当に言いたかったこと

先日の元JAXA野田篤司氏のプラネテス批判がヒートして原作者までコメントしたり野田氏が最終的に謝罪したりする事態になったが、見ている限りはほぼ全員野田篤司が何を言ったか」を取り違えた議論になっていたと思う。

野田発言を正しく読めば、『プラネテス』ファンの大多数は野田に突撃する理由はないし、原作者が謝罪風のコメントをするにしてもそこじゃないし、野田を非難するにしても全く別論点の議論があるべきだったということがわかると思う。


1.実際のツイートを読もう

発端のtweetを貼る。
現在は野田が謝罪のうえ削除しているツイートだが、追加攻撃の為ではなく「元々何を言っていたか」を正しく考えるために引用する。

https://togetter.com/li/1836290

野田を炎上させた人も庇った人もなんか飛び出してきて謝ってしまった原作者も野田当人すらも、なんかしら騒動に関わろうとした人間は皆まずこの問題文をよく読み返してほしい。
野田はここでなんと言っているか。

軌道力学的な考察が無茶苦茶なのは、まだ許せる

https://togetter.com/li/1836290

主人公だあろう新人、もし私のところに配属されたら、
速攻で、不適格者としてクビだ 宇宙特にEVAを甘く見すぎている」

https://togetter.com/li/1836290

「科学的考察の甘さについては許す」
「主人公だあろうあの新人は許せねえ」

この部分こそが当初ツイートの核、野田のプラネテス批判の主旨だ。
であるのに反応してる人間みんな、デブリがどうこう、当人の当初の批判の主旨をスルーして別の話で反応しているんである。

2.野田のツイートの瑕疵二点

これだけ注目されながら批判主旨がきれいにスルーされてしまった理由は何か。不幸な偶然が2つある。

①「主人公だあろう」という謎の日本語

これは「主人公であろう」のタイポだろう。Twitterではよくある。
 

②主人公の誤認

タイポを直し、
「主人公であろう新人」とは誰のことなのかということ。 
プラネテスの主人公はまあハチマキだが、ハチマキは物語開始時点で既に新人ではない。

プラネテスの主要人物に新人は一人しかおらず、しかも「宇宙特にEVAを甘く見すぎている」という表現に最も該当する人物というと……。
そう、タナベだ
 
つまり、アニメ版で入り3話まで見た野田はタナベがこのアニメの主人公だと誤認しているのである。雰囲気も職場内での位置もまるっきりNHK朝のテレビ小説主人公だしねタナベ。


3.文章は少し読み辛いと殆どの人が読めない

タイポと主人公誤認とによって当初ツイートのこの部分の視認性が悪くなったために、かなりの人間にこの部分が読み取れなくなった。
 
「そんなの落ち着いて読めばわかるじゃん」と思った人は自分の読解力が人類の上位5%ぐらいに入っていることを自覚したほうがいい。この世のほとんどの人間はこういう読解負荷がかかるとその部分をスルーし、スルーした自覚すら持たない。炎上だ!で寄ってきたいっちょ噛みは更にそうだ。
 
「なんか意味が分からない部分をいったんスルーした」のような引っ掛かりすら残らず、スルーしたことに気付かずに読む。

だから彼等の脳では「何処が面白いんだ、このアニメ」「軌道力学的な考察が無茶苦茶」「甘く見すぎている」のような断片的暴言だけが像を結ぶ。

野田は確かに『プラネテス』に関して荒い言葉で罵ったし、それに対して非難が寄せられるのはいいが、何を言っていたかはちゃんと読み取ったうえで殴ってほしいと思う。


4.野田が本当に言っていたこと

要するに野田は「科学的な粗は見逃すけどタナベには我慢なんねえ」と言っていたのだ。これが野田の『プラネテス』について唯一看過できなかった不満点だ。

嘘ではない。

https://togetter.com/li/1836290

続けてのツイートもこう。しつこくタナベへの嫌悪感を表明している。もう科学描写の正確性への言及はなくなってる。
「科学のことはもういいけどただタナベが。こんな同僚絶対イヤ。」
そう言っている。


これ割と熱心なプラネテスファンもよく言ってる感想じゃんな?

タナベがウザい。あり得ない。
特に自分の職場でリアルに想像してしまうとタナベはキツい。よそでやれ。

元JAXAの野田はどの視聴者よりもリアリティをもって「タナベの嫌さ」に被曝し、発作的なツイートをした。これが今回のツイートの本当の主旨、本当の意図、本当の感情ではないだろうか。

そこでまた不幸な偶然で、当初ツイートの直後に宇宙に関心の強いホリエモンがデブリの話でカットインしてきて(自分の興味ある話で入ってきてるので野田の当初ツイートへの相槌としてはズレる)、野田はそれに応じてしまった。

https://togetter.com/li/1836290

それでその方向に話が膨らんで、野田自身も自分の第一感、そもそも自分が何に我慢ならなくて悲鳴をあげたかがわからなくなってしまった。(こういうことはとてもよくある。)

そこからは勢いがついて暴言が脱線・戦線拡大し、最後は我に返って謝罪。暴言は事実だから詫びるのは仕方がないが、当初は別にそんな話ではなかったということは全員に認識もしくは思い出してほしい。


5.適正な量刑と処罰を

以上を認識したうえなお、繰り返しになるが、ああいう言い方は暴言は暴言だ。明らかに野田はカッとなって攻撃的な気持ちでツイートしている。
野田に問題なしとは言わない。
野田の当初の感情と暴言が正しく認識され、それでも炎上するならそれは別にいい。罪状さえ正しく直れば量刑にはあまり興味ない。

ただこれも繰り返しになるが、
タナベがウザいとかタナベが嫌いなんてわりとみんな言ってる。

2022年ですらこんなサジェストのタナベさん

ファンでも「タナベウザいよね…」は言ってる。野田のアレルギー発作はただのよくある新入りの反応ともいえる。

野田は多くの『プラネテス』ファンと同じように、タナベに強い嫌悪感を持っただけだ。おそらくアニメのような種類のフィクション摂取にはあまり慣れない人間が、自業界を舞台にナイーブに暴れるキャラクターを見たたせいで。

おまけにこのうっぜえタナベが主人公であると誤認していたため作品自体に絶望し、「何処が面白いの」「これ以降、劇的に面白くなんの?」と作品へのdisを吐いてしまっている。

(実際にはタナベはひねた主人公にウブさで激突する立ち位置であって、ウザい子やズレたよいこであることはある程度制作側にとっては意図的だし、アニメを見慣れた人間はそれを素早く察して一旦嫌悪を我慢することができる。)

不幸な偶然の連鎖でツイートが誤読されなければ、「まあタナベはウザいけどもうちょっと我慢して見てみてよ」「あとタナベは主人公じゃないっすよ」「あ、そうなの…」という世界もあり得たのではないだろうか。


6.まとめ

野田が本当に訴えたかったのは「タナベが衝撃的にウザい」ということ
・ツイートに伝わりづらい瑕疵があったが不幸な偶然や誤認のため
・野田に問題はあるが、「何を言ってたか」は正しく把握されるべき
・文に瑕疵があるとマジで多くの人はそこを無意識に飛ばして読む
・当人すら勢いがついたりズレた相槌もらったりしてるうちに
 「自分は何に怒ってたのか」が思い出せなくなる


https://togetter.com/li/1836290

「宇宙開発への弊害が~」とか絶対最初はそんなことで怒ってたんではないのにもっともらしい本心でないことを口走ってしまう。これは嘘をついているのではなく、ほんとに心がずれていってわからなくなっている。

そして後から出てきたそっちの話の方がわかりやすい話なのでそっちが受け止められ、「そういう話」としてまとめられ記録されてしまう。


我々人類の仕様は常にこのように全局面的にバグっているので、
「記録に残っていること」と「当初当人が言ってたこと」と「当人の本来の想い」は全然同じでない。

以上本件について言いたかったこと終わり。



7.ところでさあ…

ここからは全くの余談の個人の感想なんですが、原作のタナベとアニメのタナベは相当印象が違うんですよね。

原作のタナベは個人的には好きです。神がかっちゃってるからまあいいかって許せる感じ。信念のある狂人て感じで結構かっこいいんですよ原作タナベ。見た目だって眼がギョロッとして意志の強い眉毛で額出たベリショででっけえ口で、凛々しい魅力的なキ〇ガイなんですよね。

それに引き換えアニメのタナベは本当に野暮ったい。外見も内面も幼くされてて子犬っぽい。いちいちナイーブなこと言って足引っ張るとこ抜きでもキツいです。私服の雰囲気も本当にダサくてすげえ(これをデザインした人の欲望が)。これはもう個人の趣味からの暴言だけど、こういう後輩と結婚するハチマキまで気持ちわりいなあってなるレベル。

ハチマキみたいなキャラで、こういう後輩にああいう接し方をしていて、なのに最終的にそいつと結婚するっていうの、これハチマキ滅茶苦茶気持ち悪い奴じゃないですか。

原作のハチマキも気持ち悪いんですけど全然違う気持ち悪さになってるだろって言う。


アニメ版は話も構成も大幅に変えてるみたいだから多分タナベが成長していくのを描きたいみたいな狙いあってのことなんでしょうが。
 
それにしたって子供の頃から一通りの大麻はキメたことありそうな原作タナベと成人するまで飲酒したことなさそうなアニメタナベ。別人過ぎるだろ。

これ「再構成」って言うよりはやっぱり、アニメスタッフの誰かが原作タナベを好きでなく、自分好みの女の子に入れ替えちゃったと言うべき気がする。(なんで「気がする」なのかというと私も野田と同じく今回の再放送で初めてアニメ版を見ておりこの先を知らないからですが。)


だから、原作者の幸村誠が野田のアレルギー反応に「科学描写の甘さや迷惑さへのお怒り」と誤読(もちろん野田の非が大きいが)して飛び出してきて謝ってたんですが、本当はそこじゃないですよね。野田が怒ってたのはそこじゃなくてタナベのウザさなんだもん。

そしてそのタナベは原作版タナベではなくアニメ版の別人タナベなんだから、これ幸村誠になんの責任もない話でしょ。謝る必要ないし謝られた野田の方も困る。


アニメタナベの造形責任者はおそらく谷口監督とか大河内構成とかの誰かであって、そのあたりに原作のフラワーチルドレンタナベみたいな女が嫌で子犬系のあか抜けないタナベちゃんみたいな女の子が好きなスタッフがいたってだけじゃん?

これは完全に趣味の問題だからどっちが上とかはないんですけどね。
私は原作タナベが好きです。






いいなと思ったら応援しよう!