池波正太郎 : 白血病から回復、そして食べ歩き

白血病から回復、そして食べ歩き

急性骨髄性白血病(前骨髄球性)を機にブログを開始。2018年8月頃までは闘病記中心。 それ以降は、あざみ野・たまプラーザを中心に食べ歩いています。

Category:感想(主に読書) > 池波正太郎

久々の池波正太郎。
初文庫化作品集とある。
2023年第1刷とあるのでごく最近。
文庫になってない作品ってまだあったのね。
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元禄一刀流などの7作品を収録。
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収録順で言うと
上泉伊勢守
幕末随一の剣客 男谷精一郎
兎の印籠
賢君の苦渋
かたき討ち
奇人・子松源八
元禄一刀流

ただ、このうち読みごたえがあるのは、上泉伊勢守、賢君の苦渋、元禄一刀流ぐらいで、後は短か過ぎて、あれっという間に終わってしまう。

中でも「上泉伊勢守」が中編小説としての完成度が高い。剣聖として有名で、池波翁は「剣の天地」として別の小説にもしている。上杉謙信傘下の武将 長野業政の家臣として戦った。数々の武勲を持つものの、最後は武田軍に城を落とされてしまう。しかし、伊勢守を殺すのは惜しいとした信玄に降伏を勧められ、その後は武将をやめ剣の道を広める人生を送る。弟子の額に張り付けた紙の帯を一刀で二つにする(もちろん額に傷一つない)という超人的な腕前で、高名な柳生宗矩などが師と慕う。

「元禄一刀流」は、剣の師匠堀内源太左衛門の視点から、忠臣蔵の事件を描く小説。弟子3人の冥福を祈る場面から始まるが、それは堀内の弟子の1人が吉良上野介、2人が浅野内匠頭の家臣として、敵味方相まみえて結局は全員亡くなった(後2者は切腹)というものである。少し変わっているのは、吉良と浅野の関係性については、堀内は弟子を通じて知っている吉良のことを悪人とみていないことにある。一方で、浪士の討ち入りには理解を示しており、それは本来両成敗すべきところを、浅野家は取り潰し、吉良側はお咎めなしといった偏った裁定をした御上にあるとする。

全体的に軽めなので気楽に読めるところがよい。


蝶の戦記の下巻。
こちらは池波正太郎が描いた初めての女忍者もの。
昭和44年というから、私自身が物心つく前の作。
優れた小説は時空を超えます。

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帯にあるように舞台は姉川へ。
姉川ってなんだという感じだが、織田信長と浅井朝倉連合軍との戦いのこと。
上巻の川中島の戦いとは知名度が大分異なり、自身も時代小説で初めて読む戦いである。
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裏表紙にあるように、於蝶は浅井長政の城に入り忍び働きをするように。
浅井長政とは、織田信長の妹で絶世の美女と言われたお市の方を嫁にもらい、信長とも気脈を通じていたが、朝倉家とは先祖代々の深い関係があった。信長が朝倉と事を構えるにいたって、浅井も信長に対し宣戦布告することに。甲賀杉谷忍びも一族を挙げて浅井側に加担、当然於蝶も加わることになる。

浅井家がこもる小谷城は山城の堅城。信長も浅井の勇猛さは重々わかっている。城に立てこもって戦えば落ちることはないが、長政は城から打って出ることを選ぶ。姉川の戦いでは勇敢に戦うが、朝倉からの援軍が少なかったこと、また信長側の徳川家康がより勇猛に戦ったことから織田側の勝利となる。
これは歴史が示していることなのでしょうがない。

小説は、時代の強者に臨み続ける滅びゆく甲賀の一族を描いていく。主人公の於蝶は最後まで生き残るが(帯にも書いてある)、仲間たちは姉川の戦いで乾坤一擲の勝負をかけるものの全て戦死。最後の戦闘描写は壮絶を極める。理屈抜きで楽しめる。本当に池波小説は面白い。









池波正太郎お得意の女忍者もの(なぜかくのいちとは言わない)。
前著に続き、舞台は越後と甲斐の戦い。
前回のさむらいの巣に続き、GWに訪問予定の川中島の戦いががっつり描かれているのでありがたい。
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主人公の於蝶は、池波小説ではいつもながらの甲賀忍び。
以前読んだ夜の戦士は信玄を取り巻くものだったが、今回は謙信。
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上巻では、甲賀の指令を受けた於蝶が上杉謙信の元に小姓として潜入。
謙信のために働き、川中島の戦いで前半あわや信玄を打ち取ろうか、という局面に至る重大な秘密を運ぶ。という設定になっている。

川中島の戦いでは、謙信がどうしてか相手の裏をかいた動きを見せた。
妻女山と海津城にそれぞれ陣を構えた両雄。兵力はほぼ互角。先に兵を動かしたのは信玄で、1/3の兵を謙信が陣を構える妻女山の裏から回らせる。自身は本陣を川中島まで動かし、謙信を挟み撃ちにしようという作戦である。
それが、謙信はその裏をかいて信玄の本陣近くまで、しかも陣形の横から密かに迫っていた。急にしかも怒涛のように打ちかかった謙信軍の勢いは止まらない。
最後は数騎で信玄の陣に乗り込み、謙信が馬上から信玄に何度か切りかかるのを、信玄は軍配で受け、危うく窮地を逃れた・・・というのが伝えられる話である。

ここで疑問なのが、謀略とは無縁の謙信が何故裏をかくことができたのか。当然フィクションであるものの、如何にも自然な形で話が構成されているのはさすが池波小説である。

下巻では織田信長の元に潜入する於蝶。こちらも楽しみである。

池波正太郎の短編集。
名前からは、どろどろした男くさい話が多いのかと想像させられるが、意外とそうでもない。
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裏表紙にあるように、収録されているすべてが小説ではなく、歴史紀行にエッセイ、インタビューが入っている珍しいタイプ。
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最初のさむらいの巣は、侍・徳山五兵衛の68歳の生涯を描いたもの。名家の次男に生まれた五兵衛は子供の頃はやんちゃで若い頃は放蕩を繰り返す。しかし長男が急逝して、家を継ぐことになり、その後は立派な侍として・・・という話で、勿論面白いのだが、なぜこの題名が付けられたのかがよくわからない。
その他、無惨やな 猿子橋母子の仇討ち、真田信之の妻-小松、真説 決戦川中島、関ヶ原古戦場を往く、豊臣秀吉、実録・鬼平犯科帳の計7編。

最初の3編までは小説なのだが、真説 決戦川中島あたりから書きぶりが大分変わってくる。川中島の戦いにおける謙信と信玄それぞれの動きを客観的に克明に追っていく書き方で、どちらかに焦点を当て感情移入させる書き方ではない。偶々今年のGWに川中島の近くの松代に宿を予約したこともあり、改めてそのあたりの地図を眺めてみることとなった。当時信玄が退陣していた海津城は現在は松代城跡となっており、すぐ西に謙信が退陣した妻女山が位置している。両軍が相まみえた川中島の決戦地はそれぞれから少し北に移動したところにある。実際の地に赴くのが楽しみだ。

関ヶ原古戦場を往く、は題名の通り歴史紀行、豊臣秀吉と実録・鬼平犯科帳はインタビューとなっている。鬼平は読んでないが、一旦踏み込むと長くなりそうなので、まだ二の足を踏んでいる。









いつの時代にも社会の裏側で生きる人間はいる。
下町で育った作家池波正太郎が、そう言った分野に焦点を当てることになったのは自然なのかもしれない。
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時代小説と言えば武士が主人公の事が多いが、こちらは概ね殺し屋稼業を描くものばかり。

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おみよは見た、だれも知らない、白痴、男の毒、女毒、殺、縄張り、罪
の8編を収録。

江戸時代の殺しは、殺したい人間を窓口となる人物に頼むと、それが総元締めまで上がり、その指示が適当な腕のいい殺し屋まで、人を介して降りてくるのが通常の流れ。

よって、殺し屋とターゲットはもちろん、依頼人も見ず知らず。そのすれ違いが、様々な人生のあやを生み出す。それぞれの短編で描かれるあやは、さすが池波流と言ったところ。ほぼ最下層に近い荒んだ社会を描きながら、人の情を感じさせる腕は一級。読み易く興味深い短編集。


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