山崎先生のブログ『美術と自然と教育と』において「命」をテーマにした授業をしますという記事に関連して
『心のかたち 〜抽象彫刻〜 』とは昨年度はじめて取り組んだ題材である。例年なら、3年生の最後に3年間の集大成として自分だけでなく他の人に自分の思いを伝えるポスターを制作して、最後に簡単な卒業作品を仕上げるというカリキュラムであったのだが、時数の削減などもあり、そこまで進まない状況になってきているのが実情である。くわえて昨年度の3年生は学年事情もあり、最後に時数が足りなくなるおそれのあるポスターだと意欲がわかない生徒も多く、受験前という不安で心が揺れ動き時期に美術の時間がさらに苦痛になってしまう恐れがある。 そこで取り組んだのが石という題材である。空知の岩田さんに全道教研でプロモーションビデオを見せていただいて、この題材はいつかやってみたいと思って暖めていたものである。 石を彫る。篆刻用の高麗石。カッターや木材用の彫刻刀で削れる石。生徒にとっても自分にとっても初めて扱う題材。篆刻という平面的な仕事ではなく、彫刻として立体的に表現する。手を作るとか、カブトムシを作るとかの具象ではなく、心の中に浮かぶいろんなイメージを抽象という純化したかたちで表現してみよう。というものだ。そういった感じで抽象を扱ったことは私自身の初めてなのでなげかけ方も自信がなかったけれども、映像の作品を見せると、同じ中学生がこんな作品を作っているんだということに驚き、抽象ということに、生徒は最初とまどったけれど自分はこんなことをしてみたいと構想を練るヒントになってくれた。 初めての題材なのでいろんな道具を試して使ってみた。電動糸のこ、ボール盤、手動糸のこ、棒ヤスリ、石彫用彫刻刀、木材用彫刻刀、篆刻用の万力、紙ヤスリ、スポンジヤスリ(純銀粘土を削ったりするもの400番から1000番ぐらいまで各種)、時には糸のこの刃を直接手でもって削ったり、ワイヤーブラシ、非常用の瞬間接着剤、究極のつるつるにはピカールまでも使った。 やってみると、題材のもつ力もあり、生徒達は夢中になって削り、磨いていった。とにかく完全な丸を目指す者、つるつるの手触りを目指す者、ワイヤーブラシのキザキザとつるつるの複合を考える者、渦巻きに挑戦したり、究極の薄さや細さに挑戦というのもあった。それでも石を投げ飛ばしたり、灰皿を作る生徒もいたけれど、ポスターに取り組むよりも作品作りにひたむきに取り組んでくれたと思う。受験期のこの時期に取り組んでみてよかったなと思える題材である。そこには表現する喜びあるいは癒しみたいなものがそのときの美術室に充満というか漂っていたのかもしれない。 突き詰めると、どんな作品を作っても、どれほど誰かのまねをしようとも、最後には自分という要素(自分らしさ、あるいは味というのかな)が現れてしまう。作品作りは結局自分を表出させることだと思う。ここで生まれてくる作品は、生徒の心のかたちである。石は欠けたり傷ついたりしやすい。生徒の心もそうである。授業の最初と最後に大切に一人一人の作品を箱から出して並べ、また集める。そういった大切なものとして生徒の作品を扱い。作品作りで石を削り、磨きながら生徒も心がこもってくる。「ただの石が、自分という存在が手を加えることで、他の誰にもできない自分にしかできなく作品になる。」 2月の最後の授業で作品が完成し、受験前に1週間作品を展示した。みんなの心のかたちである。心配された作品の破損もなく、休み時間作品を見ながら語らう生徒達を見て、途中本当に苦労した学年だっただけに最後に報われた感じである。 うまく伝えられないが、美術のもつ力の大きさをこのとき感じたものである。
by nobuhiroshow
| 2005-08-29 06:39
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