まとめ
最初は「権威勾配 authority guradient」が使われていたけれども、少なくとも医療分野(health care)では、いつのことからか「権力勾配 power gradient」もほぼ同等の意味で使われている。
本文
以下の記事読んで「えっ、『権力勾配』ってアカデミック・ハラスメントとかパワー・ハラスメントの文脈で使われる用語をマジョリティvsマイノリティに拡張しただけなんでは?」と思い、Googleで権力勾配を検索したところ、「権威勾配」が正しい語という記事がひっかかった。
権威勾配の英語はauthority gradientとのこと。
cpass-net.jp
権威勾配とは
一般に、職場でのポジションが自分より高い人ほど(課長より部長、部長より社長など)、話したり、意見を伝えるときに緊張すると思います。これは「権威」と呼ばれる目に見えない力が影響しているためです。
「権威」は、地位、資格、実績や経験、知名度、人間性など様々な要因から生じるもので、客観的に測定できるわけではありません。あくまで他者が認める主観的、社会的な力です。しかしながら、国や社会、業界や学会、企業や団体、職場やチームまで、あらゆる組織の人間関係に存在します。この力は「他者の行動を左右する」ことができるため、組織の運営において最も重要、かつ扱いに注意が必要な力と言えます。
「権威勾配(Authority Gradient)」とは、この権威の強さを「相手との角度」で表したものです。権威の強さは、必ずしもポジションや年齢で決まるわけではありませんが、わかりやすいように本稿では権威が強い人をリーダー、それに従う人をメンバーとしてご説明します。
権威勾配という言葉は航空業界発祥とのこと。それが医療(医者と患者)、職場(上司と部下)、教育・指導(教師役と生徒役)にも適用されている。
bizgate.nikkei.co.jp
航空業界でよく用いられる用語として、権威勾配というものがあります。運航に強い権限を持つ機長が、副操縦士や客室乗務員、整備士などの意見を聞かない結果、事故やトラブルにつながることのないよう、クルー内の適度な上下関係を求める概念ですが、一般にも当てはまります。トップとトップ以外との権威勾配が急すぎると、粉飾そして破綻という、大事故が発生します。
① 権威勾配:
チームで行動する時、効率よく仕事を進める上ではリーダー(上司)を置くことが一般的です。この時リーダーと他のメンバーとの間の力関係を「権威勾配」と呼びます。権威勾配が緩すぎるとチームの統率が取れなくなり、またきつすぎると一方的な命令ばかりになって他のメンバーから重要な指摘も意見も出せなくなってしまいます。
指導やレッスンの場で生じる権威勾配
——まず、表現の現場で行われているハラスメントにはどのような特徴がありますか。
荻上チキさん(以下、荻上):全体的なことですと、指導的な関係性から権威勾配が生じる点です。表現の現場では、自身の内面をさらけ出すことが善とされていて、指導者がその表現を評価しますが、評価の客観的指標が共有されているわけではなく、時には指導者の癖や勘で変わります。
最初のリンク先や以下のWebサイトからすると「権力勾配」という用語はフェミニズムと関連づけられている(とアンチフェミニズムの人たちが認識している)様子。
seesaawiki.jp
「権力勾配」という用語がいつからネットで使われているのかをGoogleトレンドで調べると最初期(Googleトレンドの最初期)から使われているみたい。
Googleトレンド:権力勾配(2004年1月~12月)
ただ、権力勾配に対応する英語 power gradient で検索すると、医療分野(health care)では2003年時点でAuthority Gradient と Power Gradientはほぼ同じ意味で使われていた様子。
H ENRI R. M ANASSE, JR: Not too perfect: Hard lessons and small victories in patient safety, Am J Health-Syst Pharm. 2003; 60:780-7
Another type of organizational communication flaw is the authority or power gradient, which is a barrier to communication that arises from a difference in rank or title. The worst airplane disaster in history—prior to September 11, 2001—was a collision of two airliners at the airport on the island of Tenerife that killed 585 people. ...
(また、組織的なコミュニケーションの欠陥として、階級や肩書きの違いから生じるコミュニケーションの障壁である「権威・権力勾配」があります。2001年9月11日以前に起きた史上最悪の航空機事故は、テネリフェ島の空港で起きた2機の旅客機の衝突事故であり、585人が死亡した。 ...)
Googleニュースで権威勾配と権力勾配の両方を検索すると、どっちも使われている様子。たとえば、以下は権力勾配が使われている記事。
mainichi.jp
社会は個人の集合体だから、社会を変えるというのは人間一人一人が変わることでもあるわけです。社会問題に直面した時、自分が考え、変わろうとすること自体に問題はありません。ただ、強調すべきは、アンフェアな形で一部の個人だけに変わることを強いる現状の社会に対する批判です。権力勾配の中でアンフェアな形で変わることを強いられている人がいないか。そこには常にアンテナを立てなくてはなりません。
【教室マルトリートメント】 なぜ学校で起こるのか | 教育新聞
学校は特殊な環境
──不適切な対応を幅広く「教室マルトリートメント」と定義しています。そうした行為はなぜ生まれるのでしょうか。
背景は複雑だと思います。学校は特殊な事情をたくさん抱えた組織だからです。「教員と子ども」「管理職と一般教員」などの関係性がある上に、一般教員の中にも主幹教諭や主任教諭などがいます。こうしたさまざまな権力の勾配関係がある中で、子どもは入学した初日から、教員は異動・新規採用で着任した当初から、学校生活が進められます。
なぜなら、診療科長つまり教授に調査を依頼したところで、そもそも教授の意向(あるいは黙認)で無給医を使っているわけですから、その権力勾配の中では「自分は無給医だ」などとは到底主張できないでしょう。
以下は権威勾配の例。上の朝日の記事で権力勾配という用語を使っている熊谷さんがこちらは権威勾配を使っている。
www.todaishimbun.org
当事者の意見が制度設計に反映される、当事者研究が盛んに行われるなど(図4)東大のバリアフリーは「現状世界で類を見ないくらいに充実した水準にある」と言うが、熊谷准教授はさらに多くの学生がこの問題に関心を持ってほしいと考える。「多数派の側にいると、自らの優位性に気付かないこともあります。現にある不平等さや権威勾配を見逃した中立性は、不公正を再生産させてしまうという認識が必要です」
かといって、何でも副操縦士の言う通りにするのも問題です。そこには機長と副操縦士間のきちんとした「権威勾配」が必要です。安全の最終責任を負っているのは機長です。副操縦士が何か指摘しても、機長が行う操作がより安全であれば、それを実行するのが機長の責任であり、副操縦士に対しては何故そのようにするのかをきちんと説明しなければなりません。