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【冨山和彦】「シリコンバレー的なソフト領域だけでは、世の中は変わらない」

NEXTデジタル革命「リアルな世界では日本の“真面目さ”が生きる」
【冨山和彦】「シリコンバレー的なソフト領域だけでは、世の中は変わらない」

冨山和彦経営共創基盤社長

 IoT(モノのインターネット)、人工知能(AI)など先端技術が産業を大きく変えようとしている。国もこうした変革に向き合うべく、新戦略「コネクテッドインダストリーズ」を策定した。ただ、日本にとっては課題も少なくない。かつて産業再生機構の創設に携わり企業支援の第一人者として知られる冨山和彦経営共創基盤社長から見える日本の勝ち筋。経済産業省の公式メディア「METI Journal」のインタビューから一部抜粋してお届けする。

 ーコネクテッドインダストリーズは、あらゆる要素を“つなげる”ことで新たな価値が生みだす構想です。日本はどう強みを打ち出せば良いでしょうか。
 「デジタル革命は今まで主にバーチャル(仮想)の世界で起きていたが、それがどんどんリアル(現実)の方向に向かっている。一例が自動車分野だ。ソフトウエアとハードウエアの融合により、自動走行という革命的な技術が生まれている。シリコンバレー的なソフトの領域だけでは、世の中は変わらない。日本が得意とするハードの領域が、これからもっと重要になっていく」

 「リアルの世界はバーチャルより厳しい。スマートフォンの不具合が世の中に深刻な影響を及ぼすことは少ないが、自動車ではそうはいかない。日本の“真面目さ”が生きるのではないだろうか。医療や農業といった分野でも、同じことが言える」

 「また、AIなどによる自動化革命は、省人化につながるので短期的には軋轢を生みやすい。だが日本の出生率を考えると、当分は人が余る状態にはならないだろう。つまり、他の先進国と比べ自動化への抵抗感が少ない。これは非常に有利な点だ」

 ー逆に弱みはどこにありますか。
 「真に革命的なイノベーション(技術革新)は、飛び地的に一気に飛躍する“非連続性”、そして多様性から生まれる。だが、大企業を中心に日本の産業は連続的な営みを基に発展してきた。新卒者の一括採用などにより、人材も同じタイプに育っていきやすい。イノベーションに必要な非連続性、多様性とは、総じて相性が悪いのが実情だ」

 ー弱みを克服するためにすべきこととは。
 「技術が急速に変化する中、既存の大企業は、比較的オープンで非連続性を獲得しやすいベンチャー企業、中間的立場の大学と3者でうまくエコシステム(複数の組織が結びつき共存共栄するための仕組み)を形成するべきだ。必ずしも、日本の大学である必要はない。米国のスタンフォード大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)などでもいい。エコシステムは世界各地で作ることができる」

基礎研究と応用研究はトレードオフではない


 ーただ、現状ではエコシステムを作りきれていません。
 「日本の大学にも問題がある。例えば、スタンフォード大学では優れた基礎研究を応用に結びつけ、得られた果実を再び基礎研究に還元する仕組みができている。ここ20年ほどで出来上がったこの好循環が、スタンフォード大に繁栄をもたらしている。日本の大学に比べ財政基盤が強いのも、このためだ」
 
 「日本だと基礎研究と応用研究がトレードオフ(一方を追求すれば他方が犠牲になる状態)の関係になると言う人がいるが、間違っていると思う。革新的な応用研究は、優れた基礎研究から生まれるものだ。基礎研究がないと、将来は枯れてしまう。トレードオフに見えてしまう日本のモデルを一度否定し、東京大学などが欧米トップ大学のようなあり方を目指していくべきではないだろうか」

 ーベンチャー企業についてはどんな問題意識を持っていますか。
 「元々、日本のベンチャーは勢い勝負のいわば“ストリートファイター系”が多い。例えばペプチドリームのような国を越えて勝負できる技術を持つベンチャーは、まだ少数派だ。産業が労働集約型から知識集約型にシフトする中、技術系ベンチャーがもっと出てこないといけない。また、日本の強みであるハードの要素を融合させるとなると、資本力も重要になる。知識集約型かつ資本集約型の事業構造を目指すべきだ」

部長や課長ではカウンターパートにならない


 「日本の大企業にとっても、勝ち残るためにはベンチャーの力が不可欠。互いに強みを出してウィン-ウィンの関係を築けるはずだ。ただそのためには、大企業が内側から変わらないといけない。一番の問題は、ベンチャーの経営者と話をする時、大企業側から出て行くのが部・課長級の人材になることだ。これでは、迅速な意思決定はできない。小さな企業でも社長は社長。相手役は大企業でも経営者が務めないといけない。シリコンバレーでは常識だ」

 ー日本への厳しい意見は、危機感の表れでしょうか。
 「ハードなどリアル側の技術が、ソフト系の企業に買われるというシナリオは十分にあり得る。米グーグル、米アマゾンといった“巨人”たちの時価総額は、日本の大企業とは比べものにならない。海外勢の傘下に入るのが嫌ならば、変わることだ。まずは経営者が“個”の力を磨くことが大切。修羅場をくぐり抜けてきた海外の強者たちと対峙するため、レベルアップしないといけない」

中小企業が下請けという古いイメージは捨て去るべき


 ー企業のあり方、産業の構成はどう変わっていくのでしょうか。
 「まず、これから主役になる企業の1社あたりの雇用数は確実に減っていく。今ですら時価総額がトップ級の企業の従業員数は、昔より少ない。労働集約型から知識集約型に移る上で、必然の流れだ。企業は雇用の規模ではなく、1人当たりの生産性を誇るようになる。そういう意味では、これからは中小企業の時代とも言える」

 「ただ問題は、日本の地方の中小企業にあまり自覚がないこと。もし今変われば、次代の主役になれる可能性があるのにだ。大企業は、そのためのツールを提供する役に回ってもいい。IoTなど第4次産業革命の恩恵は、製造業のほか農業、サービス業、建設業などを支える中小企業が被るべきだ。中小企業が大企業の下請けという古い産業のイメージも、捨て去るべきだろう」
<全文は「METI Journal」でお読みになれます>
「飲み込まれるのが嫌なら、自分が変われ」(冨山氏)

【略歴】
冨山和彦(とやま・かずひこ)東京大学法学部卒、スタンフォード大学経営学修士(MBA)、司法試験合格。ボストンコンサルティンググループ、コーポレイトディレクション代表取締役を経て、2003年に産業再生機構設立時に参画しCOOに就任。解散後、IGPIを設立、数多くの企業の経営改革や成長支援に携わり、現在に至る。 パナソニック社外取締役 東京電力ホールディングス社外取締役、経済同友会副代表幹事。その他、多くの政府関連委員を務める。57歳。

【イベント開催のお知らせ】


 『METI Journal』と日刊工業新聞社が発信するWebメディア『ニュースイッチ』がコラボレーションし7月27日(木)に「METI Journal×ニュースイッチLabo」を開催します。

 「コネクテッドインダストリーズ」をテーマに最前線で活躍する若手経営者、ビジネスパーソンたちが、“つながる”ことで実現したい社会、描く未来について語り合います。

 当日は経済産業省内にあるパーチオフィスにて少人数開催となります。議論もオープンな形式で、聴講者の方々にも随時加わっていただきます。ご関心ある方は、ふるってご応募ください。
<参加パネラー(予定)>
●KAIZEN platform社長 須藤 憲司氏
●One JAPAN共同発起人・代表 濱松 誠 氏
コマツ CTO室 笹井 健史 氏

その他に民間企業、経産省から若手官僚の方々も加わります。

<聴講応募はこちら>
「METI Journal×ニュースイッチLabo」
                


「METI Journal」
明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
 冨山さんはコネクテッドインダストリーズで本当の果実を得るのは「経団連銘柄」ではないと話している(先日掲載された日立の中西会長のインタビューと読み比べてもらうと興味深い)。労働集約型の1次産業やサービス産業の場合、低賃金、長時間労働、安売りという“ブラック企業型”の成長戦略をとりがちだった。しかし人手不足においては「よりホワイトな経営をして良好な働く環境を提供しなければ企業が存続していくのは難しくなる」(冨山氏)という。伝統的な大手企業も中堅・中小企業とのウインーウインの関係は悪くない話だ。  活用するロボットや制御ソフトウエアが使われば使われるほど、データがたまり自動化の精度も上がっていく。そして日本で起きている社会課題と、それを解決するビジネスは、何年か遅れて確実にアジア各国でも起きる。その課題解決などは大手の出番になってくるだろう。

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