鴻海・シャープ連合、液晶パネル合弁で約600億円の赤字
どうなる中国、米国の新工場計画。シャープのテレビ拡大カギに
堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市堺区、孫月衛代表取締役、072・282・1321)は、2016年12月期決算の当期損益が592億円の赤字(前期は43億円の黒字)に転落した。同社は台湾・鴻海精密工業と子会社のシャープが出資する大型液晶パネル製造会社。16年前半の円高の影響と、大型液晶パネルの価格下落が主な原因と見られる。
売上高は前期比22%減の1613億円。一方、売上原価が2065億円と売上高を大きく上回り、採算割れの状態となった。SDPは鴻海グループが16年12月末以降に出資比率を過半以上に引き上げた。シャープの出資比率は20%程度に下がり、業績への影響度も低下した。
SDPは値上げ交渉が折り合わず、16年後半から主要顧客であるサムスン電子向けのパネル供給を停止した。アジアなどでテレビの販売拡大を進めるシャープ向けにパネルを振り向ける方針に転換し、中国広州市の大型液晶工場建設にも着手した。今後、シャープのテレビ拡販計画の成否がSDPの業績に影響するとみられる。
シャープが米国の液晶工場建設に向けて動きだした。8日、シャープ首脳が記者団に「米国で液晶(工場への)の出資を検討している。できれば今年前半までに着工したい」と明かした。シャープが主導して顧客やサプライヤーなど外部の出資を募る考えだ。トランプ米大統領は製造業の国内投資を重視する姿勢を鮮明にしている。シャープがこのタイミングで米国投資の意志を示す背景には、日本政府やサプライヤーなどの支援を取り付けたい思惑がある。トランプ大統領在任中の2020年までに新工場を稼働し、テレビ事業で撤退した米国市場でふたたび事業拡大するための足場を築く狙いだ。
元々、米国での液晶工場建設はシャープの親会社である台湾・鴻海精密工業が検討していた。鴻海の郭台銘会長と親しいソフトバンクグループの孫正義社長が、昨年末にトランプ大統領と会談し投資の計画を伝えている。郭会長自身も1月に台湾で、約8000億円を投じて米国に液晶工場を作る考えを明らかにした。
すでに鴻海はシャープと共同運営する大型液晶子会社「堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市堺区)」を通じ、中国広州市で10・5世代という大型液晶工場を19年に稼働する計画を発表済み。総投資額は約1兆円で、広州市からの支援を得て投資負担を減らす計画だ。
今回の米国工場についても大型液晶を生産する可能性が高いが、シャープ首脳は「シャープかSDPで行くが、できればシャープでやりたい」との考え。シャープが主導すれば鴻海グループ内の投資負担を分散できる。
ただ問題は、大型ガラス基板などの材料メーカーに工場周辺で供給体制を作ってもらう必要があることだ。サプライヤーの投資計画が前提となるため、ある意味、液晶工場建設のハードルは高い。
そこでシャープは米国の投資計画をトランプ政権への「おみやげ」として差し出す代わりに、日本政府に働きかけて支援を引き出し、サプライヤーなどを巻き込んだ投資計画として進める狙いだ。
しかし問題はまだある。シャープは16年に米国テレビ事業を中国ハイセンスに譲渡して市場から撤退。米国で自社ブランドのテレビが販売できなければ液晶パネル工場を建てる意味も薄らぐ。シャープの戴正呉社長は就任後、ブランドを取り戻すと宣言し、欧州で譲渡していたテレビ事業を買い戻したが、米国の交渉はうまくいっていないようだ。
業界関係者によればハイセンスは米国で自社ブランド拡大に注力しており、シャープ製テレビのプロモーションに力を入れていない。1月に米国で開催された家電見本市「CES2017」でもハイセンスによるシャープブランドの展示は影を潜めた。米国液晶工場の実現にはテレビ事業の復活が不可欠だ。
シャープは12日に鴻海傘下入りして半年を迎える。戴社長の指揮下で経営改革に取り組んだ成果が徐々に現れつつある。17年3月期連結決算の当期赤字は372億円となり前期の2559億円の赤字から大幅圧縮できる見通しだ。
16年10―12月期連結決算も四半期ベースで2年3カ月ぶりに42億円の当期黒字に転換した。シャープ首脳は「17年1―3月期も黒字の見込み。もう黒字化という言葉は使わない」と黒字定着に自信をみせる。
シャープの業績回復の要因として野村勝明副社長は「経営のスピードが速くなったのが一番大きい」と説明する。戴社長自身が各事業を細かく理解して事業の状態を素早く確認して指示を出す。シャープ幹部も「戴社長は各事業について事業部の専門家以上の話ができる」と舌を巻く。事業部長が気付かないことを指摘して他事業との連携を指示することもある。
コストへの意識も徹底している。戴社長は就任早々に物流部門や知財部門は分社化し、それぞれが事業展開して収益を上げるように各部門の位置付けを変えた。調達面では鴻海の購買力を活用して価格や支払い条件の改善を進めてきた。
シャープと取引する商社からは「要求が厳しく、価格交渉がシビアになった」との声も聞かれる。15年1―3月期以来、営業赤字が続いていた液晶事業が黒字転換した要因も「一番がコストダウン」(シャープ首脳)との説明だ。
戴社長の下で黒字転換して自信を深めたシャープは、17年3月期連結決算の目標を「前期を上回る売り上げ伸長」(野村副社長)に据え、成長に向けて反転攻勢に出る構えだ。
特に18年度1000万台の販売目標を掲げる液晶テレビは、韓国サムスン電子など競合他社へのパネル供給を中止する戦略を打ち出し、攻勢に出ている。
しかし、市況に振り回される液晶事業の変動リスクは改善されていない。中国では大型液晶工場が次々に立ち上がり、17年度以降の液晶市況は楽観視できない。事業の拡大局面で戴社長が下す経営判断にシャープの命運が委ねられている。
SMBC日興証券シニアアナリスト 桂竜輔氏
―シャープの液晶パネル事業黒字化の要因をどう分析しますか。
「韓国サムスンやLGが大型液晶の生産能力を削減した上、サムスン製有機ELパネルの採用を計画していた中国スマホメーカーにパネルが行き渡らなかった。そのため大型、中小型ともに液晶の需給がタイトになり、16年10―12月はシャープの工場がフル稼働した。大型パネル中心に単価も上がった。また、投資したばかりの三重工場などの設備は特別損失で減損処理しているが、そこで液晶市況が回復し、結果的に営業利益がかさ上げされた会計的な要因もある」
―通期業績予想が上方修正された要因は。
「回復した液晶市況が17年1―3月も続くとみているためだ。工場もフル稼働に近い状態が続き、液晶事業が改善する。良くも悪くも液晶事業は変動が大きい」
―事業拡大を目指すシャープの課題を挙げてください。
「買い戻した欧州テレビ事業の売り上げが上乗せされるほか、液晶事業が好転することで売上高は増える。業績は底打ちしてV字回復のように見えるが、やはり液晶市況によるところが大きい。問題は業績回復後に液晶以外の事業の定常的な収益をどうやって成長させるかだ」
―戴社長就任から半年間の経営はどう評価しますか。
「液晶市況が改善している間に、利益がほとんど出ない太陽電池事業のポリシリコンの費用を引き当てるなど、来期以降の業績改善につながる手を打っていることは評価できる。ただ、液晶市況に左右される状態はまだ続く。本当の意味での評価は来期以降の実績を見てからになる」
(文=大阪・錦織承平、同・川合良典)
売上高は前期比22%減の1613億円。一方、売上原価が2065億円と売上高を大きく上回り、採算割れの状態となった。SDPは鴻海グループが16年12月末以降に出資比率を過半以上に引き上げた。シャープの出資比率は20%程度に下がり、業績への影響度も低下した。
SDPは値上げ交渉が折り合わず、16年後半から主要顧客であるサムスン電子向けのパネル供給を停止した。アジアなどでテレビの販売拡大を進めるシャープ向けにパネルを振り向ける方針に転換し、中国広州市の大型液晶工場建設にも着手した。今後、シャープのテレビ拡販計画の成否がSDPの業績に影響するとみられる。
日刊工業新聞2017年4月3日
楽観視できない液晶市況
シャープが米国の液晶工場建設に向けて動きだした。8日、シャープ首脳が記者団に「米国で液晶(工場への)の出資を検討している。できれば今年前半までに着工したい」と明かした。シャープが主導して顧客やサプライヤーなど外部の出資を募る考えだ。トランプ米大統領は製造業の国内投資を重視する姿勢を鮮明にしている。シャープがこのタイミングで米国投資の意志を示す背景には、日本政府やサプライヤーなどの支援を取り付けたい思惑がある。トランプ大統領在任中の2020年までに新工場を稼働し、テレビ事業で撤退した米国市場でふたたび事業拡大するための足場を築く狙いだ。
元々、米国での液晶工場建設はシャープの親会社である台湾・鴻海精密工業が検討していた。鴻海の郭台銘会長と親しいソフトバンクグループの孫正義社長が、昨年末にトランプ大統領と会談し投資の計画を伝えている。郭会長自身も1月に台湾で、約8000億円を投じて米国に液晶工場を作る考えを明らかにした。
すでに鴻海はシャープと共同運営する大型液晶子会社「堺ディスプレイプロダクト(SDP、堺市堺区)」を通じ、中国広州市で10・5世代という大型液晶工場を19年に稼働する計画を発表済み。総投資額は約1兆円で、広州市からの支援を得て投資負担を減らす計画だ。
今回の米国工場についても大型液晶を生産する可能性が高いが、シャープ首脳は「シャープかSDPで行くが、できればシャープでやりたい」との考え。シャープが主導すれば鴻海グループ内の投資負担を分散できる。
ただ問題は、大型ガラス基板などの材料メーカーに工場周辺で供給体制を作ってもらう必要があることだ。サプライヤーの投資計画が前提となるため、ある意味、液晶工場建設のハードルは高い。
そこでシャープは米国の投資計画をトランプ政権への「おみやげ」として差し出す代わりに、日本政府に働きかけて支援を引き出し、サプライヤーなどを巻き込んだ投資計画として進める狙いだ。
しかし問題はまだある。シャープは16年に米国テレビ事業を中国ハイセンスに譲渡して市場から撤退。米国で自社ブランドのテレビが販売できなければ液晶パネル工場を建てる意味も薄らぐ。シャープの戴正呉社長は就任後、ブランドを取り戻すと宣言し、欧州で譲渡していたテレビ事業を買い戻したが、米国の交渉はうまくいっていないようだ。
業界関係者によればハイセンスは米国で自社ブランド拡大に注力しており、シャープ製テレビのプロモーションに力を入れていない。1月に米国で開催された家電見本市「CES2017」でもハイセンスによるシャープブランドの展示は影を潜めた。米国液晶工場の実現にはテレビ事業の復活が不可欠だ。
戴体制、経営スピード加速
シャープは12日に鴻海傘下入りして半年を迎える。戴社長の指揮下で経営改革に取り組んだ成果が徐々に現れつつある。17年3月期連結決算の当期赤字は372億円となり前期の2559億円の赤字から大幅圧縮できる見通しだ。
16年10―12月期連結決算も四半期ベースで2年3カ月ぶりに42億円の当期黒字に転換した。シャープ首脳は「17年1―3月期も黒字の見込み。もう黒字化という言葉は使わない」と黒字定着に自信をみせる。
シャープの業績回復の要因として野村勝明副社長は「経営のスピードが速くなったのが一番大きい」と説明する。戴社長自身が各事業を細かく理解して事業の状態を素早く確認して指示を出す。シャープ幹部も「戴社長は各事業について事業部の専門家以上の話ができる」と舌を巻く。事業部長が気付かないことを指摘して他事業との連携を指示することもある。
コストへの意識も徹底している。戴社長は就任早々に物流部門や知財部門は分社化し、それぞれが事業展開して収益を上げるように各部門の位置付けを変えた。調達面では鴻海の購買力を活用して価格や支払い条件の改善を進めてきた。
シャープと取引する商社からは「要求が厳しく、価格交渉がシビアになった」との声も聞かれる。15年1―3月期以来、営業赤字が続いていた液晶事業が黒字転換した要因も「一番がコストダウン」(シャープ首脳)との説明だ。
戴社長の下で黒字転換して自信を深めたシャープは、17年3月期連結決算の目標を「前期を上回る売り上げ伸長」(野村副社長)に据え、成長に向けて反転攻勢に出る構えだ。
特に18年度1000万台の販売目標を掲げる液晶テレビは、韓国サムスン電子など競合他社へのパネル供給を中止する戦略を打ち出し、攻勢に出ている。
しかし、市況に振り回される液晶事業の変動リスクは改善されていない。中国では大型液晶工場が次々に立ち上がり、17年度以降の液晶市況は楽観視できない。事業の拡大局面で戴社長が下す経営判断にシャープの命運が委ねられている。
アナリストはこう見る
SMBC日興証券シニアアナリスト 桂竜輔氏
―シャープの液晶パネル事業黒字化の要因をどう分析しますか。
「韓国サムスンやLGが大型液晶の生産能力を削減した上、サムスン製有機ELパネルの採用を計画していた中国スマホメーカーにパネルが行き渡らなかった。そのため大型、中小型ともに液晶の需給がタイトになり、16年10―12月はシャープの工場がフル稼働した。大型パネル中心に単価も上がった。また、投資したばかりの三重工場などの設備は特別損失で減損処理しているが、そこで液晶市況が回復し、結果的に営業利益がかさ上げされた会計的な要因もある」
―通期業績予想が上方修正された要因は。
「回復した液晶市況が17年1―3月も続くとみているためだ。工場もフル稼働に近い状態が続き、液晶事業が改善する。良くも悪くも液晶事業は変動が大きい」
―事業拡大を目指すシャープの課題を挙げてください。
「買い戻した欧州テレビ事業の売り上げが上乗せされるほか、液晶事業が好転することで売上高は増える。業績は底打ちしてV字回復のように見えるが、やはり液晶市況によるところが大きい。問題は業績回復後に液晶以外の事業の定常的な収益をどうやって成長させるかだ」
―戴社長就任から半年間の経営はどう評価しますか。
「液晶市況が改善している間に、利益がほとんど出ない太陽電池事業のポリシリコンの費用を引き当てるなど、来期以降の業績改善につながる手を打っていることは評価できる。ただ、液晶市況に左右される状態はまだ続く。本当の意味での評価は来期以降の実績を見てからになる」
(文=大阪・錦織承平、同・川合良典)
日刊工業新聞2017年2月9日