朴大統領の罷免決定、どうなる韓国経済
韓国の朴槿恵大統領の弾劾訴追案を審理している憲法裁判所は10日午前、罷免を言い渡した。大統領の罷免は、韓国憲政史上初めてのケースで、60日以内に大統領選が実施される。
先日は、韓国経済をけん引するサムスングループの事実上のトップを務める李在鎔サムスン電子副会長が、贈賄や偽証、横領などの容疑で逮捕された。国全体の混乱で韓国経済はどうなるのか。
韓国経済の2016年10―12月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比0.4%増と、7―9月期の同0.6%増から減速した。消費の減速に加えて、建設投資や輸出が減少に転じたことが成長率を押し下げた。
10―12月期の消費が鈍化した要因として、エネルギー関連価格をはじめ物価上昇率が高まり、実質所得を押し下げたことが挙げられる。公務員などに対して接待の上限額などを定めたキム・ヨンラン法が9月末に施行されたことに伴う一時的混乱も影響した。
もっとも、失業率(季節調整値)が16年9月の4.0%から同12月に3.4%まで低下するなど、雇用環境は改善に向かっている。原油価格の前年比上昇幅は17年1―3月をピークに鈍化する見通しであり、実質所得の押し下げも17年央にかけて和らぐと予想される。雇用所得環境の持ち直しに伴い、17年の消費も緩やかに回復すると見込まれる。
輸出に関しても、今後緩やかに改善する可能性が高い。16年10―12月期の輸出減少の一因として、10月にサムスン製新型スマートフォンが不具合から生産停止となった影響があったが、こうした一時的押し下げは既に解消しつつある。17年には世界的なIT需要の持ち直しや、米国経済の回復が輸出の支援材料となろう。
他方、住宅ローン規制の強化を背景に、建設投資は引き続き低迷が予想される。住宅ローンを中心に家計債務は累増が続いていることから、住宅ローン規制は当面維持される見通しである。設備稼働率の低下に歯止めがかかったことから機械投資はやや持ち直すとみられるが、投資全体では減速するだろう。
東日本大震災の翌年に日本の製造業の対韓投資が急拡大するなど、リスク分散上、近隣で日本並みにインフラの整った投資対象国としての韓国の魅力は小さくない。しかし、16年には朴槿恵大統領の弾劾裁判など政治の混乱、財閥のスキャンダルなど、ビジネスの停滞につながるような不祥事が相次いだ。
さらに対外的には、米トランプ政権の保護主義的な動きの強まりや、日本、中国との関係悪化が懸念材料として挙げられる。中国に関しては既に経済へ悪影響が及びつつあり、16年7月の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備決定後に中国からの観光客が大幅に減少したほか、規制強化によって事実上、韓国製品が締め出されるなどの動きもあった。対韓投資に当たっては、内外のリスクへの留意がこれまで以上に必要となろう。
以上から、2017年の成長率は前年比2.4%増と、2016年(同2.7%増)から小幅に減速する見通しである。
(文=大和香織・みずほ総合研究所調査本部アジア調査部主任エコノミスト)
先日は、韓国経済をけん引するサムスングループの事実上のトップを務める李在鎔サムスン電子副会長が、贈賄や偽証、横領などの容疑で逮捕された。国全体の混乱で韓国経済はどうなるのか。
消費は緩やかに回復も内外にリスク
韓国経済の2016年10―12月期の実質国内総生産(GDP)成長率は前期比0.4%増と、7―9月期の同0.6%増から減速した。消費の減速に加えて、建設投資や輸出が減少に転じたことが成長率を押し下げた。
10―12月期の消費が鈍化した要因として、エネルギー関連価格をはじめ物価上昇率が高まり、実質所得を押し下げたことが挙げられる。公務員などに対して接待の上限額などを定めたキム・ヨンラン法が9月末に施行されたことに伴う一時的混乱も影響した。
もっとも、失業率(季節調整値)が16年9月の4.0%から同12月に3.4%まで低下するなど、雇用環境は改善に向かっている。原油価格の前年比上昇幅は17年1―3月をピークに鈍化する見通しであり、実質所得の押し下げも17年央にかけて和らぐと予想される。雇用所得環境の持ち直しに伴い、17年の消費も緩やかに回復すると見込まれる。
輸出に関しても、今後緩やかに改善する可能性が高い。16年10―12月期の輸出減少の一因として、10月にサムスン製新型スマートフォンが不具合から生産停止となった影響があったが、こうした一時的押し下げは既に解消しつつある。17年には世界的なIT需要の持ち直しや、米国経済の回復が輸出の支援材料となろう。
他方、住宅ローン規制の強化を背景に、建設投資は引き続き低迷が予想される。住宅ローンを中心に家計債務は累増が続いていることから、住宅ローン規制は当面維持される見通しである。設備稼働率の低下に歯止めがかかったことから機械投資はやや持ち直すとみられるが、投資全体では減速するだろう。
東日本大震災の翌年に日本の製造業の対韓投資が急拡大するなど、リスク分散上、近隣で日本並みにインフラの整った投資対象国としての韓国の魅力は小さくない。しかし、16年には朴槿恵大統領の弾劾裁判など政治の混乱、財閥のスキャンダルなど、ビジネスの停滞につながるような不祥事が相次いだ。
さらに対外的には、米トランプ政権の保護主義的な動きの強まりや、日本、中国との関係悪化が懸念材料として挙げられる。中国に関しては既に経済へ悪影響が及びつつあり、16年7月の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD)」配備決定後に中国からの観光客が大幅に減少したほか、規制強化によって事実上、韓国製品が締め出されるなどの動きもあった。対韓投資に当たっては、内外のリスクへの留意がこれまで以上に必要となろう。
以上から、2017年の成長率は前年比2.4%増と、2016年(同2.7%増)から小幅に減速する見通しである。
(文=大和香織・みずほ総合研究所調査本部アジア調査部主任エコノミスト)
日刊工業新聞2017年2月10日「アジア経済観測」より