キューバでいち早くビジネスチャンスを狙う業界、日系企業はどこだ?
安倍首相訪問、足元の経済環境は良くないが・・日本製機械に対する評価は高い
安倍晋三首相が日本の現職首相として初めてキューバを訪問した。2015年7月の米国との国交回復、3月のオバマ大統領の歴史的訪問を経て、世界のキューバへの関心は一気に高まった。安倍首相も現地を訪れることで、日本との経済協力を拡大する狙いだ。キューバは電力や道路などインフラ需要が膨大で、大手商社は市場調査に動く。しかし、足元のキューバ経済はかんばしくなく、課題も多い。
安倍首相は今回の訪問で、返済が30年間滞っているキューバの対日債務約1800億円のうち、約1200億円を免除する方針だ。今後、残りの債務をキューバ側が定期的に支払えばキューバの信用力が高まり、中長期のインフラ開発に必要な円借款や貿易保険といった大型支援につながる可能性がある。
現状、キューバは過去の債務問題が尾を引き、国際通貨基金(IMF)や世界銀行など国際的な金融機関に加盟していない。インフラ開発に必要な資金を十分に調達できない状況だ。近い将来、円借款の供与が実現すれば、日本企業にとってインフラ輸出の好機となる。商社など経済界は、その時を心待ちにしている。
しかし、見通しは楽観視できない。足元のキューバ経済は「エネルギー危機」(日本貿易振興機構〈ジェトロ〉米州課の西澤裕介氏)と言われるほど悪化している。発端は14年後半以降の原油価格下落だ。これまで原油の調達を頼ってきたベネズエラが経済的に困窮。キューバへの原油の輸出を減らしてきた。
その後、旧共産圏のロシアに支援を求めたと言われるが、そのロシアも油価の下落で経済は良くない。キューバを支援するほど余裕はない。これがキューバが米国をはじめ西側諸国と関係を改善するきっかけとされるが、16年7月以降、キューバのエネルギー問題はより深刻化。「一部で停電や節電が行われている」(ジェトロの西澤氏)という。
日本から輸出した機械などの代金回収も遅れがちで「円借款の供与を日本が提案しても、キューバ側が借りたがらないのではないか」(商社関係者)との声さえ漏れる。円借款は低利の好条件だが、借金であることに変わりない。今のキューバは返せる見込みのない借金は負いたがらないという。
ただ、日本は米国のように地理的なアドバンテージはないが、過去にキューバと国交は断絶しておらず、現地の日本製機械に対する評価は高いと言われる。キューバは「カリブ海の真珠」と評されるほど風光明媚で、手つかずの観光資源も多い。可能性を存分に秘めた市場ではある。
大手商社はキューバでの商機拡大を狙い、現地事務所開設やビジネス開発の動きを加速させている。三菱商事が6月に首都ハバナに駐在員事務所を設けたほか、三井物産と丸紅も16年中に開設する。住友商事は74年、双日は76年にそれぞれ開設した事務所を維持し、現地の人脈形成やビジネスに関する情報収集を進めてきた。
住商は5月にハバナ事務所に専任の所長を配置し、現地職員も増員した。従来、グアテマラ事務所長がハバナ事務所を兼務していた。既に建設機械の販売を始めており、農業関連資材や防疫用殺虫剤などの事業展開も視野に入れている。
電機業界ではエネルギー分野の成長可能性に着目している企業がある。日立ハイテクノロジーズは1970年代初めから、キューバ向けに空調機器や電線などを輸出。一層の市場開拓などを狙い、75年にハバナ事務所を開設した。同国で日立グループ唯一の拠点として、エネルギー関連事業を中心に展開している。
15年には米国とキューバの国交回復を契機に、社内で「キューバプロジェクト」を発足した。日本キューバ経済懇話会事務局として官民合同の会議に参加したり、現地展示会に出展したりするなど、市場の深耕を図っている。
15年11月にハバナ事業所を移転・拡張したのに続き、16年4月には営業体制を強化。専任の日本人駐在員1人をハバナに派遣した。現在は複数の発電プラントの近代化改造工事や、新規エネルギー案件に取り組んでいる。
中堅・中小企業にもキューバ進出を探る動きがある。産業用冷凍機などを製造販売する前川製作所(東京都江東区、前川正社長)は、食品・飲料の製造加工や物流倉庫向けの販売で現地事務所の開設準備を進める。「外資受け入れ態勢ができれば、現在の年間100万―200万ドルの産業用冷凍機市場が10倍に成長する」と平迫靖規グローバル販売ブロック統括部長は期待する。
ただ、国営企業相手では売掛金回収の担保が難しく、対策として「輸出保険などを活用したい」と話す。今回の安倍首相訪問については「キューバでのメードインジャパン・ブランドの再構築を産学官でやり直す指針を出してほしい」とした上で、大型の政府開発援助(ODA)の早期実施を要望している。
安倍首相は今回の訪問で、返済が30年間滞っているキューバの対日債務約1800億円のうち、約1200億円を免除する方針だ。今後、残りの債務をキューバ側が定期的に支払えばキューバの信用力が高まり、中長期のインフラ開発に必要な円借款や貿易保険といった大型支援につながる可能性がある。
現状、キューバは過去の債務問題が尾を引き、国際通貨基金(IMF)や世界銀行など国際的な金融機関に加盟していない。インフラ開発に必要な資金を十分に調達できない状況だ。近い将来、円借款の供与が実現すれば、日本企業にとってインフラ輸出の好機となる。商社など経済界は、その時を心待ちにしている。
深刻な「エネルギー危機」
しかし、見通しは楽観視できない。足元のキューバ経済は「エネルギー危機」(日本貿易振興機構〈ジェトロ〉米州課の西澤裕介氏)と言われるほど悪化している。発端は14年後半以降の原油価格下落だ。これまで原油の調達を頼ってきたベネズエラが経済的に困窮。キューバへの原油の輸出を減らしてきた。
その後、旧共産圏のロシアに支援を求めたと言われるが、そのロシアも油価の下落で経済は良くない。キューバを支援するほど余裕はない。これがキューバが米国をはじめ西側諸国と関係を改善するきっかけとされるが、16年7月以降、キューバのエネルギー問題はより深刻化。「一部で停電や節電が行われている」(ジェトロの西澤氏)という。
日本から輸出した機械などの代金回収も遅れがちで「円借款の供与を日本が提案しても、キューバ側が借りたがらないのではないか」(商社関係者)との声さえ漏れる。円借款は低利の好条件だが、借金であることに変わりない。今のキューバは返せる見込みのない借金は負いたがらないという。
ただ、日本は米国のように地理的なアドバンテージはないが、過去にキューバと国交は断絶しておらず、現地の日本製機械に対する評価は高いと言われる。キューバは「カリブ海の真珠」と評されるほど風光明媚で、手つかずの観光資源も多い。可能性を存分に秘めた市場ではある。
《大手商社》現地事務所を開設、ビジネス開発加速
大手商社はキューバでの商機拡大を狙い、現地事務所開設やビジネス開発の動きを加速させている。三菱商事が6月に首都ハバナに駐在員事務所を設けたほか、三井物産と丸紅も16年中に開設する。住友商事は74年、双日は76年にそれぞれ開設した事務所を維持し、現地の人脈形成やビジネスに関する情報収集を進めてきた。
住商は5月にハバナ事務所に専任の所長を配置し、現地職員も増員した。従来、グアテマラ事務所長がハバナ事務所を兼務していた。既に建設機械の販売を始めており、農業関連資材や防疫用殺虫剤などの事業展開も視野に入れている。
《日立ハイテク》エネルギー関連の開拓担う
電機業界ではエネルギー分野の成長可能性に着目している企業がある。日立ハイテクノロジーズは1970年代初めから、キューバ向けに空調機器や電線などを輸出。一層の市場開拓などを狙い、75年にハバナ事務所を開設した。同国で日立グループ唯一の拠点として、エネルギー関連事業を中心に展開している。
15年には米国とキューバの国交回復を契機に、社内で「キューバプロジェクト」を発足した。日本キューバ経済懇話会事務局として官民合同の会議に参加したり、現地展示会に出展したりするなど、市場の深耕を図っている。
15年11月にハバナ事業所を移転・拡張したのに続き、16年4月には営業体制を強化。専任の日本人駐在員1人をハバナに派遣した。現在は複数の発電プラントの近代化改造工事や、新規エネルギー案件に取り組んでいる。
《前川製作所》産業用冷凍機拡大にらむ
中堅・中小企業にもキューバ進出を探る動きがある。産業用冷凍機などを製造販売する前川製作所(東京都江東区、前川正社長)は、食品・飲料の製造加工や物流倉庫向けの販売で現地事務所の開設準備を進める。「外資受け入れ態勢ができれば、現在の年間100万―200万ドルの産業用冷凍機市場が10倍に成長する」と平迫靖規グローバル販売ブロック統括部長は期待する。
ただ、国営企業相手では売掛金回収の担保が難しく、対策として「輸出保険などを活用したい」と話す。今回の安倍首相訪問については「キューバでのメードインジャパン・ブランドの再構築を産学官でやり直す指針を出してほしい」とした上で、大型の政府開発援助(ODA)の早期実施を要望している。
日刊工業新聞2016年9月22日の記事に加筆・修正