運転資金は確保も、試練が続くジャパンディスプレイ|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

ニュースイッチ

運転資金は確保も、試練が続くジャパンディスプレイ

有機EL競争に乗り遅れると経営に致命的なダメージ
運転資金は確保も、試練が続くジャパンディスプレイ

会見する有賀社長と本間会長(右)

 ジャパンディスプレイ(JDI)の業績悪化が鮮明になっている。売上高の8割以上を占めるスマートフォン向け液晶ディスプレー事業で、米アップルや中国スマホメーカー向けの販売が減少。資金繰りが悪化し、筆頭株主の産業革新機構に成長投資に使う資金を要請した。“脱スマホ”の加速で経営を早期に安定化し、この難局を乗り切れるか。


 JDIの業績はスマホ市場の浮き沈みに翻弄(ほんろう)されてきた。2016年4―6月期の業績悪化は売上高の5割を占める「iPhone(アイフォーン)」向けの販売不振や、中国市場での価格競争の激化が主因。

 本間充会長兼最高経営責任者(CEO)は「中国での需要増と欧米向け新製品で、8月以降は回復基調だ」と自信をみせる。しかしスマホ向けの事業は市場の変化に左右されやすく、自助努力でリスクを払拭(ふっしょく)するのは難しい。

 これを安定化するべく取り組むのが、脱スマホ戦略だ。車載やパソコンといった新規領域の割合を増やしスマホへの依存度を下げる戦略で、すでに受注している案件もある。しかし業績に本格的に貢献するのは、18年3月期以降と見られる。スマホ向け事業に取って代わる規模に成長するのは、その先になる。

 業績不振に伴い資金繰りも悪化しており、成長資金を確保できない恐れが出てきた。現在、市場では有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)競争に突入している。先行する韓国サムスンディスプレーなど韓国・中国勢が国を挙げて大規模な投資を仕掛けており、成長資金の不足は競争から脱落することを意味する。

 JDIは17年春に500億円を投じて有機ELの試作ラインを立ち上げ、18年からの量産を計画しているが、投資に慎重な姿勢は崩していない。

 しかし足元ではJDIが得意とする低温ポリシリコン(LTPS)液晶ディスプレーの需要が鈍っている。有機EL競争に乗り遅れると、経営に致命的なダメージを与えかねない。

 本間会長兼CEOは「有機ELは顧客を絞って効率的に運用していきたい」と戦略を明かす。脱スマホ路線が軌道に乗るまでは革新機構の後ろ盾を受けて経営を早期に安定化し、有機ELの量産や次世代のフレキシブル技術への成長投資を積極化すべきだろう。

「(有機ELの)顧客とも量産投資について協議している。近く結論」(本間会長)


 ジャパンディスプレイは9日、2016年4―9月期の連結営業損益が24億円の赤字(前年同期は105億円の黒字)になる見通しだと発表した。業績悪化で懸念される資金調達について、本間充会長兼最高経営責任者(CEO)は「筆頭株主の産業革新機構から、全面支援するとコメントを得た」と明かした。

 16年4―9月期の連結売上高は前年同期比24・3%減の3843億円になる見通し。中国のスマホ向け液晶パネルの価格下落が響く。一方、中国での販路拡大や、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」の新製品向け需要などで回復基調を見込む。

 会見した本間会長兼CEOは「銀行から短期の融資を受けている。運転資金には問題がない」と強調した。取引銀行と新たなコミットメントライン(融資枠)の設定も検討する。有機エレクトロ・ルミネッセンス(EL)ディスプレーについては「革新機構に加え顧客とも量産投資について協議している。近い将来に結論を出せるだろう」とした。

 16年4―6月期の連結決算は営業損益が34億円の赤字(前年同期は22億円の黒字)、売上高が前年同期比29・2%減の1743億円だった。
(文=政年佐貴恵)
日刊工業新聞2016年8月10日
政年佐貴惠
政年佐貴惠 Masatoshi Sakie 名古屋支社編集部 記者
JDIの有賀社長、本間会長は「有機ELと比べて高精細やコスト面で液晶にメリットがある」と繰り返す。有機ELの供給が間に合っていないために液晶に振り替えるケースがあり、JDIの受注も急増しているという。確かに昨今の有機ELフィーバーには首をかしげたくなる部分があるが、市場予測などを見ると想像以上に有機ELシフトは進んでいる。資金、戦略、市場環境と難しい要素が山積で、厳しい局面だ。革新機構からの支援については内外で賛否があるが、経営破綻してしまっては本末転倒。支援の上で自ら稼げる体質強化を早急に進め、独立運営の道筋をつけるべきだろう。

編集部のおすすめ