村田製作所、ラミネート型二次電池を量産。センサー端末などへの採用見込む
ソニーの電池事業を買収へ
村田製作所はワイヤレスセンサーの蓄電などに適したラミネートタイプの薄型二次電池「UMAL」を商品化し、7月から量産する。薄型で大容量を実現したのが特徴。エネルギーハーベスト(環境発電)を電源とするセンサー端末や、各種ウエアラブル機器などへの採用を見込む。
厚さ2・2ミリメートルで容量は12ミリアンぺア時。内部抵抗は200ミリオームに抑えた。電力損失が少ないリチウムイオン電池の利点と、サイクル特性(充放電による劣化の少なさ)が高い電気二重層キャパシターの利点の両方を併せ持つ。シリンダータイプの二次電池は2015年10月から量産しており、今回のラミネートタイプは第2弾。
屋内外のあらゆる場所に配置するワイヤレスセンサーネットワークでは、電池交換が不要な環境発電との組み合わせが期待される。だが発電量が微小なため、確実に充電し長時間保持できる性能が求められているという。
電子部品業界でM&A(合併・買収)や戦略的提携が活発化している。稼ぎ頭だったスマートフォン市場の成長鈍化が鮮明になり、自動車やIoT(モノのインターネット)など次の有望市場を攻める上で、他社と手を組み足りない有力技術や商材を補完することが攻略に不可欠となってきているからだ。成長市場を巡る競争が激化する中、業界を超えた合従連衡が起きる可能性もあり、部品各社は近年で最も大きい潮目の変化を迎えている。
「最後まで迷ったが今しかないと思った」。TDKの上釜健宏社長は収益源の一つだったスマホ向け高周波部品事業を手放すことを決めた当時をこう振り返る。同社は2016年1月、米半導体大手クアルコムと業務提携し、スマホ向けで好調な高周波部品事業をクアルコムとシンガポールに設立する合弁会社に移管することを決めた。
合弁設立から30カ月後にTDKの持ち株分をクアルコムに売却できるオプションをつけており、行使すれば最大約30億ユーロ(約3600億円)を手にすることになる。これは事実上の事業売却を意味する。行使した場合、自動車をはじめとする成長分野に取得金を充てる考えだ。
TDKはクアルコムのほかスイスの車載センサーメーカー、ミクロナスセミコンダクタホールディングを買収するなど、15年下期だけで複数の戦略的提携策を打ち出した。TDKだけでなく、村田製作所やアルプス電気、太陽誘電といった競合他社も「M&Aや業務提携は次の成長ステップに向けて必要な戦略の一つだ」(登坂正一太陽誘電社長)と口をそろえる。
各社がこうした戦略的提携策を打ち出す最大の理由は、スマホ市場の成長鈍化が本格化してきたことにある。ここ数年、日本の部品メーカーは小型・薄型の高機能部品を安定供給できる力を武器に、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」をはじめとする高機能端末向けで需要の取り込みに成功。15年3月期は村田製作所、TDK、日本電産の大手3社が売上高1兆円の大台に達するなど、各社は軒並み好業績をたたき出した。
だが、近年は先進国やスマホ最大市場の中国で端末の普及が一巡したことや、機能面でも目新しさがなくなり成長が一段と鈍化。電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した日系部品メーカーによる15年12月の世界出荷額は、2年10カ月ぶりにマイナス成長に転じた。
「ここ2―3年はスマホで食べていけるが、そこからは先はどうなるか分からない」(大手部品メーカー首脳)。すでに多くの企業が部品が多用される自動車やIoTといったスマホ以外の成長分野に経営資源をシフト。特に車分野は先進運転支援システム(ADAS)の進化はもちろん、自動運転車の実用化が現実味を帯びてきており、「スマホなどで培った技術をうまく生かせれば、次世代車で我々がやれることは大きい」(栗山年弘アルプス電気社長)。
ただ、いくら有望市場とはいえ限られた市場。競合他社との競争が激しさを増していく一方だ。こうした環境の中で勝ち残るには、他社と差別化した製品や技術を提案する力が試される。特に最近はセットメーカーが顧客のニーズに迅速に応えるため設計開発を効率化したり、エレクトロニクスの知見を持たない異業種やベンチャーがモノづくりに乗り出す動きが活発化。
このため部品メーカーには自社が持つ部品を単品で供給するだけでなく、複数の部品を組み合わせてモジュール化、システム化して提案できる力も問われている。こうした顧客ニーズの変化も業界の再編機運を高める要因になっている。
今後、M&Aや提携先は必ずしも同じ業界のメーカーとは限らない。ミツミ電機はミネベアと17年3月に経営統合する契約を結んだ。ミツミ電機の森部茂社長は「ゲーム機器用部品は依然として厳しいが、車載向けなどは堅調。ミネベアの製造技術を生かし競争力を底上げしたい」とミネベアとのシナジーに期待する。
日本電産は車載市場攻略に向け、車載電子制御ユニット(ECU)メーカーのホンダエレシス(現日本電産エレシス)や独車載ポンプメーカーのゲレーテ・ウント・プンペンバウを買収。永守重信会長兼社長はかねて「独ボッシュのような企業を目指す」と断言しており、自社技術と買収企業の技術を融合させ、世界有数の車載機器メーカーへと脱皮しようとしている。
世界シェア約4割と依然として競争力が高い日本の部品メーカー。部品メーカーがしかける異業種を巻き込んだ合従連衡がいつ起きても不思議ではない。
(文=下氏香菜子)
※肩書き内容は当時のもの
厚さ2・2ミリメートルで容量は12ミリアンぺア時。内部抵抗は200ミリオームに抑えた。電力損失が少ないリチウムイオン電池の利点と、サイクル特性(充放電による劣化の少なさ)が高い電気二重層キャパシターの利点の両方を併せ持つ。シリンダータイプの二次電池は2015年10月から量産しており、今回のラミネートタイプは第2弾。
屋内外のあらゆる場所に配置するワイヤレスセンサーネットワークでは、電池交換が不要な環境発電との組み合わせが期待される。だが発電量が微小なため、確実に充電し長時間保持できる性能が求められているという。
電子部品業界、異業種を巻き込んだ合従連衡へ
日刊工業新聞2016年4月15日「深層断面」から抜粋
電子部品業界でM&A(合併・買収)や戦略的提携が活発化している。稼ぎ頭だったスマートフォン市場の成長鈍化が鮮明になり、自動車やIoT(モノのインターネット)など次の有望市場を攻める上で、他社と手を組み足りない有力技術や商材を補完することが攻略に不可欠となってきているからだ。成長市場を巡る競争が激化する中、業界を超えた合従連衡が起きる可能性もあり、部品各社は近年で最も大きい潮目の変化を迎えている。
「最後まで迷ったが今しかないと思った」。TDKの上釜健宏社長は収益源の一つだったスマホ向け高周波部品事業を手放すことを決めた当時をこう振り返る。同社は2016年1月、米半導体大手クアルコムと業務提携し、スマホ向けで好調な高周波部品事業をクアルコムとシンガポールに設立する合弁会社に移管することを決めた。
合弁設立から30カ月後にTDKの持ち株分をクアルコムに売却できるオプションをつけており、行使すれば最大約30億ユーロ(約3600億円)を手にすることになる。これは事実上の事業売却を意味する。行使した場合、自動車をはじめとする成長分野に取得金を充てる考えだ。
M&Aは成長に向けての重要なステップ
TDKはクアルコムのほかスイスの車載センサーメーカー、ミクロナスセミコンダクタホールディングを買収するなど、15年下期だけで複数の戦略的提携策を打ち出した。TDKだけでなく、村田製作所やアルプス電気、太陽誘電といった競合他社も「M&Aや業務提携は次の成長ステップに向けて必要な戦略の一つだ」(登坂正一太陽誘電社長)と口をそろえる。
各社がこうした戦略的提携策を打ち出す最大の理由は、スマホ市場の成長鈍化が本格化してきたことにある。ここ数年、日本の部品メーカーは小型・薄型の高機能部品を安定供給できる力を武器に、米アップルの「iPhone(アイフォーン)」をはじめとする高機能端末向けで需要の取り込みに成功。15年3月期は村田製作所、TDK、日本電産の大手3社が売上高1兆円の大台に達するなど、各社は軒並み好業績をたたき出した。
だが、近年は先進国やスマホ最大市場の中国で端末の普及が一巡したことや、機能面でも目新しさがなくなり成長が一段と鈍化。電子情報技術産業協会(JEITA)が発表した日系部品メーカーによる15年12月の世界出荷額は、2年10カ月ぶりにマイナス成長に転じた。
「ここ2―3年はスマホで食べていけるが、そこからは先はどうなるか分からない」(大手部品メーカー首脳)。すでに多くの企業が部品が多用される自動車やIoTといったスマホ以外の成長分野に経営資源をシフト。特に車分野は先進運転支援システム(ADAS)の進化はもちろん、自動運転車の実用化が現実味を帯びてきており、「スマホなどで培った技術をうまく生かせれば、次世代車で我々がやれることは大きい」(栗山年弘アルプス電気社長)。
ただ、いくら有望市場とはいえ限られた市場。競合他社との競争が激しさを増していく一方だ。こうした環境の中で勝ち残るには、他社と差別化した製品や技術を提案する力が試される。特に最近はセットメーカーが顧客のニーズに迅速に応えるため設計開発を効率化したり、エレクトロニクスの知見を持たない異業種やベンチャーがモノづくりに乗り出す動きが活発化。
モジュール化、システム化の力が試される
このため部品メーカーには自社が持つ部品を単品で供給するだけでなく、複数の部品を組み合わせてモジュール化、システム化して提案できる力も問われている。こうした顧客ニーズの変化も業界の再編機運を高める要因になっている。
今後、M&Aや提携先は必ずしも同じ業界のメーカーとは限らない。ミツミ電機はミネベアと17年3月に経営統合する契約を結んだ。ミツミ電機の森部茂社長は「ゲーム機器用部品は依然として厳しいが、車載向けなどは堅調。ミネベアの製造技術を生かし競争力を底上げしたい」とミネベアとのシナジーに期待する。
日本電産は車載市場攻略に向け、車載電子制御ユニット(ECU)メーカーのホンダエレシス(現日本電産エレシス)や独車載ポンプメーカーのゲレーテ・ウント・プンペンバウを買収。永守重信会長兼社長はかねて「独ボッシュのような企業を目指す」と断言しており、自社技術と買収企業の技術を融合させ、世界有数の車載機器メーカーへと脱皮しようとしている。
世界シェア約4割と依然として競争力が高い日本の部品メーカー。部品メーカーがしかける異業種を巻き込んだ合従連衡がいつ起きても不思議ではない。
(文=下氏香菜子)
※肩書き内容は当時のもの
日刊工業新聞2016年6月29日