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「ゼロカーボン火力」実現へ…関西電力、火力戦略が迎えた岐路

姫路皮切りに脱炭素シフト
「ゼロカーボン火力」実現へ…関西電力、火力戦略が迎えた岐路

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関西電力の火力発電所戦略が岐路にある。重油・原油を燃料とする赤穂火力発電所(兵庫県赤穂市)の1、2号機を2025年7月末に廃止すると決定。一方、二酸化炭素(CO2)排出量が少ない液化天然ガス(LNG)を燃料とする姫路第二火力発電所(兵庫県姫路市)では、同じ25年に水素混焼の実証を始める。50年までの水素・アンモニアの専焼化という「ゼロカーボン火力」の実現に向けて、周辺インフラの整備も急がれる。(大阪・園尾雅之)

関西電力は廃止後の赤穂火力発電所の敷地で、水素燃料の活用やCO2の回収・利用・貯留(CCUS)技術の導入などを検討中。ただ詳細を詰めるのはこれからで、目下のところ地元雇用への悪影響は避けられない。

赤穂市の牟礼正稔市長は「実際問題として、さまざまな雇用に影響するだろう。補助金の拡充などで雇用の促進を図りたい」と懸念を示す。そのため、関電は廃止発表後すぐに赤穂市と連携協定の締結に動いた。同市内の製造業に対し、保有設備の電化やPPA(電力販売契約)の導入などを支援するという。

一方、姫路第二火力発電所での水素混焼実証は、25年大阪・関西万博の会場にも電力供給し、大々的にアピールする考え。関電の森望社長は「水素混焼は脱炭素化に向けた第1歩になる」と期待を込める。30年ごろに本格運用へ移行し、50年までに水素専焼化を目指す。

水素は、水電解装置による製造やトレーラー輸送などで調達する。ただ本格運用に向けては、海外からの船舶輸送による調達も検討している。今後は周辺地域への輸送も想定する。関電は現在、姫路地区を起点としたグリーン水素の大規模輸送・利活用に向けて、JR西日本、JR貨物、NTTパナソニックらと調査・検討中。その続報が待たれる。

普及拡大が期待される再生可能エネルギーは、季節や天候による出力変動が大きいのが課題。燃料投入量の変化で出力制御できる火力発電は、需給調整に大きな役割を果たせる。それだけに、火力発電での脱炭素化の戦略が問われる。

関電はLNGの堺港火力発電所(堺市西区)にて、CO2の回収・貯留(CCS)事業の設計作業をエネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)から受託。同じくLNGの南港火力発電所(大阪市住之江区)でも高効率な新設備を29年度以降に稼働させ、30年代後半以降にCCS技術の導入または水素混焼を始める計画だ。

重油・原油の御坊火力発電所(和歌山県御坊市)や石炭の舞鶴火力発電所(京都府舞鶴市)が、赤穂と同様の流れをたどるかどうかも注視される。森社長は「それぞれ特徴があるので総合的な検討が大事」と明言を避けつつ、あらゆる可能性を排除しないとした。

政府が進める次期エネルギー基本計画の議論では原子力比率の設定が大きな焦点だが、火力の脱炭素化や再生エネとのバランスも重要だ。与党の過半数割れで政局の見通しが不透明な今、議論の動向があらためて注目される。

日刊工業新聞 2024年11月12日

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