建物の「一生のCO2」大幅減…YKKグループが富山・黒部で取り組む新木造工法の全容|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

ニュースイッチ

建物の「一生のCO2」大幅減…YKKグループが富山・黒部で取り組む新木造工法の全容

建物の「一生のCO2」大幅減…YKKグループが富山・黒部で取り組む新木造工法の全容

「パッシブタウン」第5期街区の完成イメージ

YKKグループは富山県黒部市で手がけるまちづくり事業「パッシブタウン」で、同県産木材を活用した新たな木造工法に取り組んでいる。最終街区かつ最大規模の第5期街区は、2025年3月の完工に向け木造中高層集合住宅の建設が進行中だ。持続可能な地域の森林資源を使った建物の木造化と、再生可能エネルギー活用をコンセプトとする。建物の建設時から改修、解体までの二酸化炭素(CO2)総排出量「ホールライフカーボン」の大幅削減を目指す。

YKKグループは第5期街区におけるCO2削減の取り組みとして、建設時に排出するアップフロントカーボンに注目する。地域産製材の活用を掲げ、利用する木材1670立方メートルのうち87%を富山県内から調達。パッシブタウン居住者や地元高校生らと伐採跡地で植林や育林活動を継続する計画だ。

建物の使用段階でエネルギー消費に由来して発生するCO2の削減は、再生エネを最大限に活用することで推進する。第1―4期街区で培った省エネや創エネのノウハウに、蓄エネを加えてエネルギー消費量を抑制する。

蓄エネ技術の中心として、水素エネルギー供給システムのパワー・ツー・ガス(P2G)を日本で初めて集合住宅に実装する。春から秋に太陽光発電で発生する余剰電力を水素に変換して貯蓄。冬に再生エネとして活用するなどエネルギー自立型の集合住宅を目指す。

第5期街区の施工現場。木造パネルをクレーンで移動

第5期街区の基本計画・建築の基本設計は、近代木造建築に精通するオーストリア出身建築家のヘルマン・カウフマン氏が担当した。同氏にとって日本で初めての設計で、木造中高層プレハブ工法を導入した。「高い耐震性が求められる日本で、近代建築工法による中高層木造建築は非常に有意義」(カウフマン氏)と指摘。雨や湿気が天敵とされ、スピードが不可欠な木造建築では「できるだけ短期間で、現場で組み立てることが大切。多層階のプレハブ工法は大きな挑戦」(同)と見る。

構造・設備の基本設計と実施設計は竹中工務店が担当。木質構造とユニット化工法で、構造部材の木材使用量の最大化とプレハブ化による生産性向上・高品質化を構造計画のコンセプトとする。木材のプレハブ化は「『濡(ぬ)らさず・汚さず・早く』を徹底追求」(竹中工務店)している。

パッシブタウン構想はYKK不動産(東京都千代田区)が施主で、13年に発表。前期の第1―3期街区は1万6170平方メートルの敷地で、集合住宅117戸が17年に完成した。伏流水の利用や太陽熱給湯、断熱でエネルギー消費量を削減している。

後期の第4―5期街区は木造化と再生可能エネルギーの最大化で脱炭素・カーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現を図る。第5期街区は木造鉄筋コンクリートのハイブリッド構造で、1万6278平方メートルの敷地に6―7階の集合住宅3棟、64戸を建設している。

日刊工業新聞 2024年10月30日

編集部のおすすめ