TSMCに決定的な差…インテル「微細化」惨敗、ファウンドリー事業苦渋の分社化
米インテルの経営が転換期を迎えた。半導体受託製造(ファウンドリー)事業を分社化し、外部資本の受け入れを可能にした。長らくIDM(垂直統合型)のビジネスモデルで中央演算処理装置(CPU)の“王者”として君臨した同社だが、事実上ファウンドリーでは敗北を宣言し製造領域を切り出す。苦杯をなめさせたのは、先端半導体製造の雄、台湾積体電路製造(TSMC)。インテルの苦渋の決断はファウンドリー事業の難しさがかすむ。(小林健人)
インテルが発表した再建策はファウンドリー事業の分社化に加え、米国政府からの補助金受給、ドイツとポーランドの工場建設計画の中断などが並ぶ。パット・ゲルシンガー最高経営責任者(CEO)が「過去40年間で最も重要な変革」とコメントするように大規模なものとなった。
中でも影響が大きいのは同事業の分社化だ。業績回復の一手としてゲルシンガーCEO自らが旗を振り、2021年に参入を宣言。経営資源を重点投入し、TSMCの牙城に挑む肝いり事業だった。再興に向けた象徴的なビジネスだっただけに、今回の経営判断は業界内に衝撃が走った。
半導体産業は回路の微細化とともに進化してきた。インテル共同創業者の一人、故ゴードン・ムーア氏が提唱した「ムーアの法則」が、まさに産業の歴史を物語る。半導体の集積度が約2年で倍増するとの予測を旗印に各社が微細化競争を繰り広げ、いち早く微細化にこぎ着けた企業が勝ち残り、後塵(こうじん)を拝した企業は淘汰(とうた)された。
先手必勝、利益創出の好循環
ファウンドリー事業でも同様に、最新の微細化技術を競合より早く確立するアドバンテージは大きい。理由は資金の創出力だ。競合よりも早く先端半導体の製造設備に投資することで、いち早く減価償却を終えられ、利益を生み出せる。
仮に競合が先端技術に追い付いたとしても、減価償却を終えた設備であればコスト競争力を持って対抗できる。こうして生まれた資金を他社に先駆けて次の微細化投資に回す。この一連の好循環に突入した企業だけが、最先端の微細化競争で生き残る。
実際、台湾の聯華電子(UMC)や米グローバルファウンドリーズは10年代まで微細化競争に参加していたが、相次いで脱落。インテルも回路線幅10ナノメートル(ナノは10億分の1)世代への移行が遅れ、TSMCに技術的優位を付けられる遠因となった。
対するTSMCは技術開発で先頭を走り、資金創出と先行投資を繰り返す好循環に突入。ファウンドリーで不動の地位を築き上げた。営業力にも磨きをかけ、米アップルという超大口顧客をつかんで離さない。ある業界関係者は「TSMCのビジネスはサービス業」と説明し、きめ細かな顧客対応と製造技術に舌を巻く。
インテルの凋落は、新たにファウンドリーを興すラピダス(東京都千代田区)にとっても人ごとではない。同社が目指す線幅2ナノメートルの次世代トランジスタ構造「ゲートオールアラウンド(GAA)」は世界中で開発競争が本格化している。ラピダスの小池淳義社長は「必死で研究開発を続けており、自信はある」と力を込めるが、いち早く3ナノメートルのGAAの量産を始めた韓国サムスン電子も歩留まり向上には苦戦しているとされ、その難易度は計り知れない。
先端ファウンドリーの性質は「常にトップランナー」であることが求められる。そのためには事業で生み出した資金を次の世代に再投資し、競合よりも早く実用化するサイクルを続けることが大前提だ。ラピダスも同様に、開発に成功するだけでなく、大口顧客を獲得して収益を生み出し巨額投資につなげられるのか―。インテルが抱いた夢の結末は、ラピダスにとって他山の石となる。
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