「電工」で快挙目指す、九電工技術者が磨いた腕
世界の若き匠が持ち前の技能を競う第47回技能五輪国際大会が9月10日―15日にフランスのリヨンで開かれる。隔年開催だが前回はコロナ禍の影響で15カ国の分散開催だった。久々に1国に技能者が集う大会へ「モノづくりニッポン」代表で臨む主な選手を紹介する。
「日本の力、自社の力を全世界にアピールできる場」。九電工の木原夢叶(ゆうと)選手は夢の舞台をこう言い表す。高校時代に定めた、技能五輪の頂点という目標をフランス・リヨンでかなえる。
「電工」は建築物の電気設備工事を想定した競技だ。配管や配線、制御機器などの施工の正確性を競う。木原選手は「金」獲得を公言。優勝すれば日本選手として5大会ぶり、九電工としては1977年以来の快挙だ。
会社主催の壮行会で石橋和幸社長は「競技を楽しめるくらいベストを尽くして」と激励した。同社にとって2024年は“フランスの年”だ。パリオリンピックには同社所属の3選手が出場し、男子マラソンで赤崎暁選手が6位に入賞して日本を沸かせた。
「(九電工として)良い波をつくってくれた。陸上に負けない」と木原選手。淡々とした口調ながら、言葉にこもる意思は強い。寄せられる声援にも「期待は(相手の)思い。プレッシャーではなく後押しと感じるようになった」と力にする。
木原選手は高校での第二種電気工事士の資格取得を通じて電工に目覚め「せっかくなら九州一の会社に」と九電工を志望。企業紹介パンフレットで、15年ブラジル・サンパウロ大会の銅メダリスト・瀬戸一輝選手(現指導員)の勇姿を目にし、入社後の道を決めた。
技能五輪への参加を直訴し、約3年で腕を磨いて国内トップに登り詰めた。九電工アカデミー技能五輪チームの広渡和樹主任は「多くの選手を見てきたが、頭の処理能力の速さはトップクラス」と太鼓判。「速さ故に間違えた時の後戻りが大変」だが、「うまくはまれば飛躍する」。
他方、世界で勝つには次元の異なる戦い方が必要になる。材料は現地仕様で品質が違い、工具は大ぶりで扱いにくく制限もある。さらに競技の運用がその場で変わる、あるべき材料がないなど試練の克服が不可欠だ。
憧れの瀬戸指導員からは「日本のように思った通りにはいかない。イレギュラーが起き続ける」と世界の厳しさを教わった。
5月の豪州での前哨戦では振るわず「悔いが残った」。だが「海外選手は部品が足りなくてもつまずかない。自分は形にとらわれていた。新しい視点を得た」と思考を世界仕様に切り替えた。「技能五輪人生の最後。技術を出し切り、最高の作品をつくってリヨンから帰る」と闘志を燃やす。(西部・三苫能徳)
【電工】住宅やビル、工場といった建築物を想定して電気設備を施工する競技。正面と左右、天井の4面に、照明やスイッチ類を安全で正確かつ美しく施工することが求められる。配管や配線、結線の作業のほか、制御機器のプログラミング、故障診断といった作業を含めて4日間計20時間で競う。課題となる図面を読み解いて形にする技能だけでなく、国内でなじみのない装置や資機材に対し、いかに臨機応変に対応できるかが勝負を決める。