日本版「つながる工場」産学フォーラムはどんな議論を進めてきたのか|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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日本版「つながる工場」産学フォーラムはどんな議論を進めてきたのか

インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブのシンポジウムより
日本版「つながる工場」産学フォーラムはどんな議論を進めてきたのか

実証の実例(IVI提供)

 インダストリアル・バリューチェーン・イニシアチブ(IVI)は、モノづくりとITが融合した新しい社会をデザインし、多くの企業が等しくイニシアチブをとるためのフォーラムだ。“人”が中心となったモノづくりが、IoT時代にどう変わるべきかを議論し、バリューが世界の隅々に行きわたるしくみを目指して活動している。

 デジタル化が進んだ時代では、多くの工場、現場が「つながる」しくみが必要だ。そこで、デジタルとアナログ、競争領域と協調領域という境界について、それぞれの企業で再定義する。同じ課題を抱える他の企業とすり合わせして、つながるためのリファレンスモデルを作る。ここでの考え方が、共通部分を取り出し個別の差異を認める「ゆるやかな標準」だ。

 モデル作りは、まずどんな業務があるのかシナリオを描く。シナリオはどんな場面なのか、その場面で誰がどんな活動をするのか、その活動はどんな作業がなされていくのか。作業に必要な情報、作業から生じる物事や情報はどうなっているのか。具体的な事例をいくつも見ていくと、共通する作業や情報があることが分かってくる。

 業務シナリオに取り組んだのは20の作業グループ(WG)。今回、複数シナリオがつながった超シナリオをセッションとし、16WGが実証実験を行った。各セッションをナビゲーターが紹介する。

introduction ゆるやかな標準化


《茅野眞一郎IVI標準モデル委員長=三菱電機
 「ゆるやかな標準」とは、IVIが提唱する「つながる工場」の実現手段だ。この“ゆるやか”の実現には、さまざまな環境下において適用可能な仕様の作成、実装に関する自由度の付与の2点が必要だ。これらをリファレンスモデルとして定義していく。

 接続仕様「に」合わせるのが標準仕様による規定だが、接続仕様「を」合わせるのがリファレンスモデルによる規定だ。さまざまな実装を許容し、利用時は提供モデルのままでも、一部変更しても構わない。

 業務シナリオの作成手順は、現状(AS-IS)の業務シナリオを作成し、あるべき姿(TO-BE)の業務シナリオをデザインする。この過程でライブラリーを利用する。

 まず、現状と課題、解決手段、目指す姿を記述し、業務シナリオを定義する。シナリオを場面へ展開し、「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「どうする」と活動を定義し、場面ごとのモノと情報の流れを明らかにする。

 次に、あるべき業務の流れをデザインし、IoTによって得られる新たなデータをもとにモノと情報の一部を再デザインする。モノと情報の項目を定義して、業務全体のシステムをデザインする。

 「ゆるやかな標準」モデル辞書は業務シナリオWGから収集したモデルを標準化に向けた整理を進めている。また、「ゆるやかな標準」を活用するためのモデリング方法などを記載した手引書も発行する。

session1 つながる工場のネットワークによる企業間連携


《セッションナビゲータ 古賀康隆氏=東芝
 つながる工場とはどういうものなのか。五つのWGでは、つながる工場のネットワークが実現できれば、それぞれのバリューチェーンでどんなことができるのか、実証実験に取り組んだ。

 設備トラブル情報をグローバルにつなぐことで、一つの企業のように経験値を共有して改善アクションを素早くしたい。遠隔地のアフターサービスをリモート化、充実させ、スピードアップしたい。中小企業同士があたかも一つの企業のようにつながり、モノづくりサービスを充実させたい。物流情報を製品倉庫情報のように活用することで、グローバルサプライチェーンの在庫をコントロールしたい。サプライチェーンでつながる企業を隣り合う工程のように反応させたい。

 これらのことが一度に実現されればどうなるのか。設備の改善アクションはスピーディーになり、遠隔地のアフターサービスもスピードアップが実現される。中小企業同士がつながってモノづくりサービスを提供できるようになる。物流情報クラウドサービスで安く、早く在庫を適正化できる。サプライチェーンのトラブルに各企業が一気に対応できるようになる。

 五つのWGが連携すると、設備、調達、生産、販売、物流、サービスというすべてのバリューチェーンがつながる姿が見えてくる。つながる工場、つながる企業によって、新しい顧客価値を生み出せる可能性が広がっていくだろう。
WG=遠隔地の工場の操業監視と管理(NECほか)、遠隔地のB2Bアフターサービス(ニコンほか)、中小企業を中心とするつながる町工場(今野製作所ほか)、サイバーフィジカルな生産&物流連携(東芝ほか)、国内外企業間の生産情報連携による変動への対応(富士通ほか)

session2 IoT活用による新たな生産ラインマネジメント


《セッションナビゲータ 小南泰三氏=パナソニック
 このセッションは工場内の生産ライン、設備にフォーカスし、現実課題の解決を図るため、つながるメリットを追求した。解決策を模索する中でWGが分化していった。

 生産ラインマネジメントについては各社に共通する課題がある。設備の生涯生産のトータルコストパフォーマンスを考慮したライフサイクルマネジメントができていない。「設備と設備」「設備と人」の連携活動における変化点データ収集ができていない。既存設備への情報収集機器取り付けは設備安定稼働や導入コストの観点からハードルが高い。設備故障や不良品発生の予兆が捉えきれていない。設備トラブル発生時に対策決定まで時間がかかり、ベストかどうかが分からない。

 IoTがどう活躍するか、これまでいろいろ描かれてきたが、生産ラインの理想とする効率運用と現場実態にはギャップがある。WGは、設備のライフサイクルマネジメント、設備・製品の変化点データ収集、簡易なデータ取得と人への通知、予知保全につなげるデータ解析、トラブル発生時の動的管理をテーマに取り組んだ。

 5WGの成果を組み合わせれば、より効率的な生産活動実現に踏み出せる。将来の可能性に向けて、製造業各社、ベンダーがIoTで共創し、協調領域を広げながら、より高レベルな競争領域に進めるだろう。
WG=設備ライフサイクルマネジメント(矢崎部品ほか)、設備連携によるリアルタイムな保全管理(オムロンほか)、保全データのクラウド共有とPDCA(NECほか)、リアルタイムなデータ解析と予知保全(オークマほか)、現物データによる生産ラインの動的管理(パナソニックほか)

session3 設計・製造、顧客をつなぐプラットフォーム


《セッションナビゲータ 前田智彦=富士通》
 このセッションでは設計、製造、サプライヤー、顧客をつなぐプラットフォームについての課題解決に取り組んでいる。設計から製造に至るECM軸は製品のバリューを設計するプロセス、サプライヤーから生産を経て顧客に至るSCM軸は設計されたバリューを利益に変換するプロセスだ。個々の要素システムは既に開発され、業務もツールにコンバートされてきているが、各プロセス間はうまくつながっていない。

 変種変量生産/変動ライフサイクルの時代となり、従来のシステムは追いついていない。プロセス間連携の課題だけでなく、業務とシステムの間もつながっていない。これをコンカレントに解決しようというのがIVIのアプローチだ。

 ここでは、企画設計と生産準備の間の「BOM連携」、生産準備と生産の間の「設計変更」、販売・物流と顧客の間の「個別受注」、サプライヤーと調達の間の「需要と調達」、調達と生産の間の「生産連携」の5テーマに取り組んだ。

 5WGがまとまることで、今までつながらなかったプロセスがつながるようになった。こうしたプラットフォームを活用してもらい、一つの大きなプラットフォームとしてさらにつながり、世界の設計、製造、顧客をつなぐプラットフォームへと広げたい。
WG=設計&製造BOM連携とトレサビ管理(豊田中央研究所ほか)、想定外の状況に対応可能なMES-量産直前での仕様変更(デンソーほか)、ユーザ直結のマス・カスタマイゼーション(マツダほか)、生産技術&生産管理のシームレス連携-ロケーションフリーなものづくり(川崎重工業ほか)、企業を超えて連携する自律型MES(小島プレス工業ほか)

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明豊
明豊 Ake Yutaka 取締役ブランドコミュニケーション担当
製品も企業もつながらないのは技術的要因ばかりでなく、企業文化の違いや利害関係などある。IVIはつながるための場を提供することを目的としたフォーラム。つながるしくみを整えるため、IoT現場ツール、データ管理ツール、通信サービス、クラウド管理といったITインフラ支援ツールを公募した。プラットフォームの選定には複数企業がそれぞれ利害関係が対立する形で参画することが必要で、個別の競争力の源泉はしっかり隠す「オープン&クローズ戦略」も欠かせない。16年度のIVIは「設備保全ビッグデータ」「人と現場の見える化」「企業間MES連携」「設計製造連携」など10のプラットフォームを候補としている。IVIの西岡理事長によると、IVIプラットフォームは「『ゆるやかな標準』『しなやかなインフラ』『したたかな実装』がキーワード」という。海外とのネットワークも進めて欲しい。

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