なぜ海運大手の日本郵船が宇宙を目指すのか|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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なぜ海運大手の日本郵船が宇宙を目指すのか

なぜ海運大手の日本郵船が宇宙を目指すのか

宇宙事業開発を提案した3人。左から日本郵船の寿賀大輔氏、オーシャンネットワークエクスプレスの今井豪氏、MTIの山口真氏

日本郵船が宇宙事業の開発に挑んでいる。異業種と連携し、洋上でのロケットの打ち上げや回収を目指す。日本のロケット打ち上げ能力を政府目標の年30件に引き上げるには打ち上げ場所の拡充やコストの削減が必要で、洋上打ち上げ・回収はこれにつながる。海運会社の新ビジネスを探る。(梶原洵子)

なぜ海運大手の日本郵船が宇宙を目指すのか。背景にあるのは世界の宇宙産業のトレンドの変化だ。上空3万5000キロメートル以上を飛ぶ気象衛星「ひまわり」などに対し、最近は米スペースXの「スターリンク」をはじめ小型の低軌道衛星を高頻度で打ち上げることが重要になっている。だが、日本で半径3キロメートル以内に全く人が立ち入らない条件を満たす発射場候補地を確保することは難しい。

そこで「海に射場をつくれば、季節や地理的な制約がなく、打ち上げ回数を増やせる」と、子会社のMTI(東京都千代田区)で宇宙技術を担当する山口真氏は狙いを語る。射場機能を備えた船舶をつくり、台風などを避けて条件のよい場所で打ち上げるというアイデアだ。「船を地上の環境に近付けつつ、大幅な設備変更にならないように開発ポイントを検討している」(山口氏)。

日本政府は2030年代前半までに年30件のロケット打ち上げ能力を確保する目標を掲げる。「目標達成には洋上での打ち上げが必要になる」とイノベーション推進グループ先端事業・宇宙事業開発チームの原岡哲也チーム長はみる。今後の日本の宇宙産業に海は欠かせないのだ。

同社の社内の宇宙プロジェクトは洋上打ち上げからスタートしたが、現在は宇宙航空研究開発機構(JAXA)や三菱重工業との再使用型ロケット洋上回収の共同研究が先行している。洋上射場船と洋上回収船は技術的に共通点があるという。

現在、ロケットは一定の高度で分離し、2段目は宇宙へ行き、1段目は海上に落下して破棄される。この1段目をエンジンの逆噴射によって船の上に着陸させて再使用し、打ち上げ費用を大幅に圧縮する。23年に公表された大型プロジェクトに日本郵船も参加し、30年頃に初号機を打ち上げる次期基幹ロケットでの実現を目指す。

ただ、洋上回収もスペースXが先行しているほか、日本の宇宙産業の競争力は米国や中国、インドに大きく水を開けられている。「海の特性を利用して多頻度打ち上げを実現し、新しい価値づくりに挑戦したい」(原岡チーム長)とする。

日本郵船の宇宙事業開発は、社内の教育機関「NYKデジタルアカデミー」のグループワークから始まった。「宇宙を知らないところから、約40社の門戸を叩き、有識者の意見を聞き、プロジェクトの解像度を高めていった」(山口氏)。山口氏を含め当時は全員が海外駐在という3人のチームで、このうち寿賀大輔氏は現在JAXAに出向している。

今、海運会社各社は洋上風力発電や二酸化炭素の回収・貯留(CCS)などの新たな事業の柱を育てている。「将来は宇宙事業を日本郵船のコア事業にしたい」(同)とし、異業種と協力し、新たな海の可能性に挑む。

日刊工業新聞 2024年8月21日

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