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最新の研究手法を中小・中堅企業に、産総研・公設試が果たす役割

基盤モデルと研究自動化(7)
最新の研究手法を中小・中堅企業に、産総研・公設試が果たす役割

産総研中国センター有機・バイオ材料拠点のプロセス装置

基盤モデルと現場との接続問題は産業界にも当てはまる。大学などで生み出された最新手法が中小・中堅企業に浸透するまでにはいくつものハードルを越える必要がある。ただ日本の産業競争力は中小・中堅企業のきめ細かな研究開発力に支えられてきた。研究開発のサービス産業化が進む中、人工知能(AI)活用による開発加速は欠かせない。ここで産業技術総合研究所と公設試験研究機関の役割が増している。

「我々の地域センターを最も有効活用しているのは中堅企業かもしれない」と産総研の石村和彦理事長は目を細める。地域の企業が地域センターに人材を送り込んで技術や研究手法を学んでいる。

産総研の地域センターではデータ駆動型材料研究開発を進めてきた。中部センターのセラミックス・合金拠点、中国センターの有機・バイオ材料拠点、東北センターのナノマテリアル試作・評価拠点と、つくばセンターの先進触媒拠点が連携しながら知見を蓄えてきた。石村理事長は「材料分野はほぼカバーできている。AIをどう使うかサポートするのが地域センターの特徴」と説明する。

大学などで開発された手法が地域の企業に浸透するまでには何年もかかる。自社のデータに合わせてAIモデルや手法を選ぶ必要があり、論文の成功例を読むだけでは導入できない。試行錯誤は必須だが、人を割いても空振りするリスクがある。中小・中堅企業にとってはなかなか踏み切れなかった。

そこで産総研に人を送る。産総研は材料を広くカバーしており、各分野で失敗した経験を持つ。これが中小・中堅企業にとっては宝になる。同じ轍(てつ)を踏まなくて済む。

中小・中堅企業での研究開発業務は顧客の要求仕様に製品を合わせる応用開発が大部分を占める。製造条件の微調整で要求性能を満たし、コストを抑えて供給している。この最適化業務とAIは相性がよい。産総研の村山宣光副理事長は「最適化はAIの得意技。効果を実感しやすい」と説明する。開発期間の短縮や開発コストの低減につながる。

課題は公設試への浸透だ。従業員301―2000人の中堅企業だけでも約9000社あるとされ産総研だけでは支援しきれない。地域企業の技術開発を支えてきた公設試の支援メニューとして提供していく必要がある。

連携の土台はある。産総研と公設試で作る産業技術連携推進会議では工場の機器からデータを集めるIoT(モノのインターネット)構築などの連携事業を進めてきた。IoTやデータ駆動は製造業にとって共通言語になりつつある。濱川聡材料・化学領域長は「特別な装置を使わずとも効果が出る。まずは産総研で体験してみてほしい」と技術移転を歓迎する。

日刊工業新聞 2024年5月23日
小寺貴之
小寺貴之 Kodera Takayuki 編集局科学技術部 記者
研究開発のDXやデータ駆動は中堅企業に広げる普及フェーズにあります。修士一人、大卒一人、高卒二人のような小さな研究チームでも動かせる手法が必要です。実際にやるべきことはかたまってきていて、産総研ではマニュアル化とはいかないまでも処方箋はそろってきました。スクールの形式で普及をはかります。ほとんどの材料分野をカバーできたことも大きいです。どの分野も肌感覚のある研究者がいるので、相談してまったくの空振りで終わることはないのではないかと思います。とはいえ企業の抱える課題は千差万別で、伴走するには人数が足りません。ここは地域に根ざした公設試の出番です。DXはどの企業も困っていて、名刺代わりに配れるので、顧客開拓のネタに使えるのではないかと思います。

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