中国EV攻勢…日本車メーカーはASEAN市場を守り抜けるか|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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中国EV攻勢…日本車メーカーはASEAN市場を守り抜けるか

東南アジア諸国連合(ASEAN)市場は日本の自動車メーカーが1960年代から事業を展開し、シェアを独占してきた“金城湯池”。しかし足元では世界的な脱炭素の潮流を受け、中国車メーカーが投入する電気自動車(EV)の攻勢にさらされている。日本車メーカーはASEAN市場を守り抜くことはできるのか。(編集委員・錦織承平)

現地生産で普及支援、日系メーカーの逆風に

マークラインズのデータを基に集計すると、ASEANの主要5カ国(インドネシア、タイ、マレーシア、ベトナム、フィリピン)の2022年の販売実績の合計は約337万台。コロナ禍前の18年の約343万台という水準近くまで回復してきた。ただ、23年は1―10月の実績から推計すると年間約335万台程度と見られ、横ばいの見通し。インドネシア、マレーシア、ベトナムでコロナ禍以降に導入された減税措置の打ち切り、米国の金利高の影響による自動車購入ローン審査の厳格化、車両価格の引き上げなどで足元は伸び悩む傾向にある。

市場の成長性は主要5カ国でそれぞれに異なるが、比較的成熟しているタイやマレーシアに対し、残る3カ国は自動車普及率も低い。東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは「ASEANという一塊の市場としては規模が大きく、成長性もある」とする。

ASEAN市場では日本車メーカーのシェアがタイで8割、インドネシアで9割を超え、独占的な地位を築いてきた。タイでは22年の市場シェア上位10社のうち、日本メーカーが8社を占めた。日本車メーカー各社の23年4-9月期の世界販売台数に占めるインドとASEANを合わせたアジア市場の比率は三菱自動車が約30%、トヨタ自動車で約13%、ホンダが約11%と一定の割合を占める。

ただ、コロナ禍が収束した23年は、この状況に変化が生じている。マークラインズによるとタイでは1―10月の累計販売台数で、中国・比亜迪(BYD)や上海汽車傘下のMG、長城汽車、哪吒汽車(NETA)といったEVメーカーが日産自動車スズキなどを上回って、合計10%程度までシェアを伸ばし、日本メーカーの独占を崩しつつある。

中国EVメーカーが攻勢を強める背景には、タイやインドネシア政府によるEV普及支援策がある。タイは現地生産を条件とする補助金を支給しており、BYD、NETA、長安汽車、広州汽車傘下の「AION」、奇瑞汽車といった中国メーカーが相次いで工場建設計画を表明。各社のEV現地生産が24年以降に本格化する見通しだ。インドネシアでも一定の国産比率を満たすEVについて、購入時の付加価値税を大幅に減免する支援策を導入している。

南ア・中東・豪向け輸出に活路

日本車メーカーはASEAN市場よりも先に、中国市場で現地メーカーとの競争で足元の販売を大幅に減らしており、三菱自が生産撤退を決めたほか、トヨタ、ホンダも工場の人員を削減するなど、苦戦を強いられている。中国市場は新興メーカーの参入も多く、需要を供給が上回り、激しい価格競争に陥っており、現地メーカーでも利益を確保するのが難しいとされ、各社が新たな市場を求めて、東南アジアや欧州への輸出を増やしている状況だ。

タイでは1―10月に中国メーカーがシェアを伸ばした一方、三菱自が前年同期比33・8%減、いすゞが同26・1%減、トヨタが同5・9%減となった。三菱自は10月の販売が前年同月比49・2%減の1728台と激減。「危険水域にある」(三菱自)として、現地に販売回復の施策を検討する緊急対策チームを設置した。ホンダは23年12月上旬に現地でEV「e:N1」の生産を開始し、24年1―3月中の発売を予定する。トヨタも幹部が「戦う場所がはっきりした」と語っており、日本メーカー各社は、長年にわたって足場を築いてきたASEAN市場で、中国メーカーを迎え撃つ構えを鮮明にしている。

一方、中国メーカーが攻勢をかけるEV市場について、杉浦シニアアナリストは「充電インフラや雨期の洪水といった不安がある。2輪車しか購入できない層も多く、富裕層のEV需要が一巡すれば、ハイブリッド車(HV)やガソリン車の優位性が必ず出てくる」と指摘する。当面は各国政府の方針に合わせてEVを投入しつつ、中国勢の攻勢に耐えていけば状況が好転する可能性もある。

また、日本メーカーはASEANで生産能力を増やして、コスト競争力を磨き、南アフリカ、中東、豪州などASEAN域外へ輸出するビジネスも展開している。ASEAN域内だけでなく、そこから広がる成長市場を視野に入れたビジネスモデルによって中国勢との競争を優位に進めることも可能だ。これまでASEANで積み上げてきた競争力の真価を発揮するべき局面を迎えている。

日刊工業新聞 2023年12月28日

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