「おいしい」の一歩先へ 「ばかうけ」を手がける栗山米菓のフィロソフィとSDGs|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

ニュースイッチ

AD

「おいしい」の一歩先へ 「ばかうけ」を手がける栗山米菓のフィロソフィとSDGs

「ばかうけ」「星たべよ」などの米菓を食べたことがある人は多いだろう。これらの米菓を手がける栗山米菓は、消費者に身近な存在でありながら従来の枠にとらわれない挑戦を重ねている。その姿勢の原点にある同社の経営方針はSDGsの精神とも重なるところが大きい。

環境に配慮した製品づくり

栗山米菓の歴史は1947年にジャガイモを加工するでんぷん製造工場を立ち上げたところから始まる。49年には現在の栗山米菓の前身となる栗山食品加工所を設立している。

同社を代表する「ばかうけ」は1989年に発売を開始。累計出荷数190億枚以上の基幹商品に成長した。季節限定やご当地ものなど、これまで300種類近い味を展開している。

「ばかうけ」発売25周年を迎えた2015年2月には新工場「ばかうけファクトリー」を竣工した。屋上設置では新潟県最大規模の太陽光発電システムを設置。656枚のパネルを敷き詰めており、発電容量は1001.04kW(1MW)で、年間発電量は、一般家庭約300世帯分の91万kW/hにもなる。栗山敏昭社長は「季節によっては(設置している工場の)月の電気の約半分をまかなえます。今後は他の工場にも太陽光の取り組みを展開する予定です」と語る。

太陽光発電システムは地域の電力供給にも貢献している

既存商品を強化すると同時に、近年はSDGsを意識した新商品を相次いで投入している。これまで捨てられていたものに新しい価値をプラスする「アップサイクル」商品だ。
 例えば、国産サツマイモの皮とおからを米菓の生地に使用した「ろっから堂」を製品化。六角形の形状にすることでせんべいの生地をとる際に隙間なく型を抜くことができる。形状を工夫することで、生産時の廃棄ロスを最小限にとどめられ、包装も環境に配慮した紙パッケージを採用している。

国内の米菓市場はここ10年ほど生産量、売り上げともほぼ横ばいで推移している。市場規模は大きく変わらないが、中小零細事業者が淘汰され、大手は売り上げを伸ばす傾向にある。同社も1991年度に100億円程度だったが売上高が、2019年度には200億円を突破した。

順風満帆に見える業績だが、これまでの道のりは平たんではなかった。

転機となったのは1996年。1993年の記録的冷夏による米不足から赤字に転落し、栗山社長は自身の経営者としての考え方や会社のありかたを一から見直した。
 そこで生まれたのが栗山フィロソフィだ。「社員一丸となって働き、熱く戦う有言実行の集団を目指します」という方針を掲げ、行動指針を定めた。朝型の推進や朝礼でのベクトル合わせ、自己啓発勉強会の開催など会社全体の意識変革を目指した。

「小手先のテクニックではなく、根本的なところからみんなで考えることで会社の雰囲気も少しずつ変わり、笑顔が増えました」。(栗山社長)

栗山米菓 代表取締役社長 栗山敏昭氏

SDGsという言葉が世の中をにぎわす前から、環境や従業員の働きやすさなどを考えていた同社にしてみれば、商工中金からのPIFの提案にも「特に違和感はなかった」(栗山社長)のも当然だろう。

PIF(ポジティブ・インパクト・ファイナンス)は商工中金がSDGs(持続可能な開発目標)の三つの柱(環境・社会・経済)への企業の前向きな取り組みを評価し、支援する枠組みだ。環境負荷低減と企業の収益向上で社会面、環境面、経済面でKPI(重要業績評価指標)を設定することで積極的な取り組みを促す。

栗山米菓の場合、すでにSDGsに関連する取り組みを実施していたので、KPIは従来の取り組みの延長線上に設定した。

従業員の健康や安全面では、健康診断のみならずストレスチェックも100%実施し、産業医と連携したフォロー体制を今後も継続する。時間外労働時間を2026年度までに10時間に短縮(2022年度14時間)を目指すなど働きやすさを追求する。重大な労働災害は過去10年間発生しておらず、引き続きその防止に務める。

ダイバーシティ経営の推進もKPIに盛り込んだ。
 同社は従業員の60%超が女性で、上位階級(係長級)も25%を占める。仕事と家庭の両立ができる環境整備をさらに加速し、25年度までに30%程度まで引き上げる。

工場の現場では多くの女性社員が活躍

省エネルギーの推進でも目標を定めている。
 各事業拠点での照明をエネルギー消費量の少ないLEDに転換し、CO2(二酸化炭素)の排出削減につなげる。現在の導入率15.3%を2026年度までに20%まで高める。

PIFは毎年外部から評価を受け、評価結果が公表されるのも特徴だ。
 栗山社長は「環境重視や従業員の健康や安全などにはかなり意識的に取り組んできましたが、PIFを提案いただくまでは、外部から評価されることは意識していませんでした。取り組みを外部から評価されることで、自社の方向性が間違っていないことも確認できます。うれしいですね」と語る。

工場内全景

企業経営を通じ地域振興に貢献

新潟県は米菓の一大生産地で、国内生産量の約6割を占める。同社も本社の旧工場跡地にテーマパーク「新潟せんべい王国」を開設。製造工程を間近で学べるだけでなく、「せんべいの手焼き体験」「ばかうけ味付け体験」など体験コーナーを設けている。来場者は年間18万人に上るなど人気観光スポットとなっており、米菓産業への理解を深められる体制を整えるなど、地域産業への貢献意識は強い。
 栗山社長は「企業経営を通じて地域を盛り上げていきたい」と地域への貢献を強調する。最近では地元のホテルの再建を引き受けたり、バスケットボール協会の会長を務めたりと、地元振興に汗を流す。

事業経営や地域振興には資金が必要となるが、栗山社長は「振り返ってみると常に横にいたのが商工中金さんでした。金融機関は雨の日に傘を取り上げるとよく皮肉られますが、商工中金さんは雨の日に傘を差しだしてくれた。常に寄り添って、きめ細かくフォローしてくれました。地域とともに歩む企業にとっては心強いです」。

変化が速く大きい時代だからこそ、信頼できるパートナーが不可欠な時代になっている。地域に根ざし、伴走してくれる金融機関の存在感も増している。

「可視化と提案によって伴走を」商工中金 新潟支店 日比野晃さん

「ファイナンス以外の分野でもサポートしてまいりたい」と日比野さん(左)

SDGs対する取り組みは企業にとってもはや必要不可欠です。ただ、その取り組みが開示され、評価される機会はあまり多くありません。
PIFは第三者からの評価を受けることが前提となっています。栗山米菓さんはSDGsに関連する事業に以前から取り組まれていました。今回の融資をきっかけに同社のさまざまな取り組みが可視化されることが、経営に大きくプラスになっていただけたら担当者としては非常に嬉しいです。
 同社の商品ラインナップは魅力的で、売り上げは拡大傾向にあります。更なる販路拡大や経費削減等、ファイナンス以外の分野においても引き続き伴走してサポートしていきたいです。

商工中金:https://www.shokochukin.co.jp/
 PIFについて詳しく知りたい方はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=ilDB68GTQzU
 「ニュースイッチ×商工中金 フリーペーパー」でも紹介中。ダウンロードはこちら

特集・連載情報

中小企業が描く、持続可能な未来
中小企業が描く、持続可能な未来
中小企業の環境・社会・経済への前向きな取り組みを評価・サポートする、商工中金の「ポジティブ・インパクト・ファイナンス( PIF )」。企業事例から、その取り組みに迫ります。

編集部のおすすめ