物流の2024年問題克服できるか…「運びきる」改革の現在地
酒類・飲料の大手メーカー各社にとって飲料製品を消費者に届ける物流は事業の「要」だ。2024年4月には「働き方改革関連法」の猶予期間が終わり、トラックなど物流業者にも残業の上限規制が掛けられる。需要量が減らない中で輸送能力が制限されるため、運びきれない可能性が出てくるのが「物流の2024年問題」の一つ。メーカー各社はこの立ちはだかる壁を乗り越えるため、すでに多様な手法で物流の効率化に挑んでいる。
経済産業省などが22年に開いた「持続可能な物流に向けた検討会」で公表した試算は、19年度データを基にドライバーの残業規制を踏まえて24年の輸送能力を推計した。これによるとトラックの輸送能力は14・2%不足し、これは輸送トン数で4億トンに相当する。さらに30年には輸送能力の19・5%(5・4億トン)が不足すると推計し、24年影響と合わせ輸送能力不足は34・1%(9・4億トン)に拡大するという。
この影響は全国にビールや清涼飲料水などを供給している酒類・飲料メーカーの物流にも及ぶことは間違いない。ただ同業界における24年問題の対応は今あわてて始まったわけではない。
キリンビールの松井志成SCM部主幹は「働き方改革関連法が18年に成立した時点で24年問題の到来は意識していた。それ以外にも、この年は猛暑や集中豪雨といった自然災害が起き、『運びきる』ための物流改革が喫緊の課題となった」と、その段階からすでに対応が始まっていたと指摘する。
また、サントリーホールディングスは酒類と飲料の物流で年間約6億ケースと国内最大級のボリュームを持つ。大泉雪子物流部部長は「製品をきちんと届けることが事業の要だ。それと同時にドライバーと倉庫作業者らの負担がないように環境改善や働きやすくすることが使命。このために私たちが取り組んできたことが成果を発揮すれば、この問題にも対応できる」と自信をみせる。
しかし物流の問題はこれですべて解消できたということではない。大泉部長は続けて「24年以降もトラックドライバーの高齢化と不足は進行していく。これからも対応を強化していく必要がある」と課題を挙げる。
特に問題になるのがトラックによる長距離輸送。1日当たりに1人で輸送できる範囲も制限が出てくる。その部分を単純にトラック以外の鉄道や船舶などのモーダルシフトに転換すれば良いわけではない。サッポログループ物流の井上剛ロジスティクスソリューション部長は「モーダルシフトはコストがかかる。輸送枠を確保しなければらないほか、事業継続計画(BCP)の観点で複線化も検討する必要がある。複雑な課題だ」と指摘する。物流の効率化には取り組むべき課題が山積している。