有機EL、量産間近。日本企業は「主役」になれるか。
アイフォーン前倒し採用も。先行する韓国2社、追撃なるか「鴻海・シャープ連合」とJDI
素材メーカー、供給体制の構築急ぐ
素材メーカー各社は中小型有機ELパネル部材の供給能力増強や技術開発を急ぐ。電子部材向けでも攻勢を強める中国など新興国の化学メーカーと差別化する。
住友化学は16年10月に、スマホに使う中小型有機ELパネル向けタッチセンサーパネルの生産能力を4割増強する。タッチセンサーパネルはガラス表面に微細な回路を作り込むことで、画面を指先で触れて入力できる。韓国子会社の東友ファインケム(平沢市)に約200億円を投じ、生産設備を増設する。
スマホ用の中小型有機ELパネルをほぼ独占する韓国サムスングループを中心に納入している。韓国勢が相次ぎ有機ELパネルの増産投資を打ち出すなか、需要増に対応した供給体制を整える狙いだ。
住友化学は、折り曲げ可能な中小型有機ELパネルを実現する次世代部材も開発している。ガラスではなくフィルムを使って折り曲げ可能にしたタッチセンサーやウインドーフィルム、偏光フィルムだ。サムスングループは16年にも折りたためるスマホを発表する見通し。広げればタブレット、折りたためばスマホとして使用できる次世代スマホ向けの材料供給に向けた準備も進める。
発光効率向上急ぐ。技術力で競争優位に
機能化学各社も中小型ディスプレー向けに、有機EL材料の技術開発を加速させている。スマホ用などの伸びを受け、発光効率の向上やバッテリー消費の低減に寄与する材料を求めるニーズが拡大。「何層もの材料を重ねて形成するため、まだ“正解”がない」(関係者)だけに、技術力で競争優位に立てる可能性が高い。
青色の発光材料を手がけるJNCや、緑色と赤色の材料を供給する新日鉄住金化学(NSCC)。両社は東アジアで中小型ディスプレー向けの需要が増した13年に、相次いで能力増強に乗り出した。当面の課題は、発光層や電子輸送層などの改良だ。NSCCは特に、エネルギー効率が高いリン光型方式で発光効率を引き上げる「ホスト」の開発にも力を注いでいる。
材料の使用量がもう一段増える大画面のテレビ用となると「次なる技術が不可欠」(関係者)と言われる。現在の真空蒸着方式では大型化が技術的に難しいとされるためだ。そこで、材料を液状にして塗布する方式の確立が求められている。独メルクはJNCやNSCCに先行し、12年に塗布方式の実用化にこぎ着けた。
インク化技術を持つセイコーエプソンと提携し、独本社で開発した粉末状の材料を液状にする手法を完成。日本法人の厚木事業所(神奈川県愛川町)に新設した専用設備で、カートリッジへの充填も始めた。
課題は高精細化、液晶にも勝ち目
中小型有機ELパネルの弱点は高精細化が難しい点だ。画素密度は1インチ当たり400画素が限界とされており、FHD(フルハイビジョン)の4倍の解像度を持つ「4K」パネルなどを中小型で実現するのは難しい。
低温ポリシリコン(LTPS)技術を使った既存の液晶技術は高精細化できる。スマホでは、より一層きれいな画面へのニーズは今後も底堅いとみられている。有機ELの本格普及が始まると、高精細化に向かない古い技術であるアモルファスシリコン(a―Si)液晶は衰退するが、LTPS液晶は当面、伸びを維持する見通し。
LTPSは16年以降、台湾、中国メーカーが相次いで新工場を立ち上げ競争が激化する。そうした中、先行優位を生かし高精細のLTPS液晶を低価格で量産できる体制を構築できれば、JDI、シャープの2社は液晶でも継続的な成長を実現できる。
(文=後藤信之、水嶋真人、堀田創平)
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