「当社にしかできない案件」…11月開業、森ビルが本気度試された「麻布台ヒルズ」の全容|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

ニュースイッチ

「当社にしかできない案件」…11月開業、森ビルが本気度試された「麻布台ヒルズ」の全容

「当社にしかできない案件」…11月開業、森ビルが本気度試された「麻布台ヒルズ」の全容

11月24日に開業を予定する麻布台ヒルズの森JPタワー

緑化空間の確保を優先

森ビルは東京の虎ノ門・麻布台地区で開発してきた「麻布台ヒルズ」を、11月24日に開業すると決めた。街づくり協議会の発足から約35年。計画区域の拡大・分離やバブル崩壊に伴う景気後退を乗り越え、約300件もの地権者と仕上げるのは「緑に包まれ、人と人をつなぐ広場のような街」だ。約8万1000平方メートルの区域に、オフィスや住宅、商業・文化施設、教育・医療施設などあらゆる都市機能を集積させる。(堀田創平)

麻布台ヒルズはオフィスや住宅、予防医療センターなどが入る高さ約330メートルの「森JPタワー」を核に、住宅やホテルなどの「レジデンス」、店舗や美術館を中心とした「ガーデンプラザ」やインターナショナルスクールなどで構成する。総事業費は約6400億円に達しており、建設当時の六本木ヒルズ(約2800億円)を上回る。同社の都市再生事業としても、過去最大の規模となる。

森ビルの辻慎吾社長はかねて、麻布台ヒルズを「これは当社にしかできない案件だ」と強調してきた。高台と谷地が入り組んだ地形と主要道路に接していない部分の多さ、そして地権者の数。細分化された敷地をまとめて都市基盤を更新し、職・住に遊びや学び、文化発信といった機能を重層的に配置。さらに空いた足元に緑地をつくる「立体緑園都市」構想を掲げる森ビルの本気度が試された場でもある。

敷地を東西に貫く「桜麻通り」。左の低層棟は「ガーデンプラザ」、左の高層ビルが「森JPタワー」、右が「レジデンスA」

追求したのは「都市を創り、都市を育む」という同社の理念だ。まず整備したのが、道路や公園などの都市インフラ。開発担当者は「特に最大約18メートルの高低差が交通を分断していた」と振り返る。そこで南北道路と東西をつなぐ「桜麻通り」を開通させ、防犯・防災面の弱点を解消。併せて東京メトロの「神谷町駅」と「六本木一丁目駅」も歩行者通路で結び、にぎわいを生む道筋を整えた。

麻布台ヒルズでもう一つ注力したのが、圧倒的な緑の創出だ。特に敷地中央に設けた約6000平方メートルもの広場は、人の流れに重きを置く中で核となる森JPタワーより先に配置を決めた。街づくりのセオリーとしては逆のアプローチだが、隣接する「アークヒルズ仙石山森タワー」から緑の景観を連続させることを優先。全体で約2万4000平方メートルもの緑化空間を確保した開発の柱といえる。

職住近接、外国人呼び込む

麻布台ヒルズ森JPタワー52階のオフィスフロアからは虎ノ門ヒルズが見渡せる

地権者約300件のうち、足元では9割が麻布台ヒルズに戻る意向という。オフィスや商業施設の契約も順調で、森ビルは国内外の新たな“住民”を加えた就業者約2万人、居住者約3500人と多くの来街者が行き交う街の完成を志向する。そのカギとなる仕掛けが、国家戦略特区が掲げる「外国人を呼び込む職住近接の空間づくり」に沿った「外国人にも暮らしやすい生活環境」の構築だ。

約1400戸ある住宅や高級ブランドによるホテルは、グローバル企業で活躍する人材の利用を想定した施設の一例だ。東京駐在時に家族を帯同する場合に備え、約740人が学べるインターナショナルスクールも誘致。再開発事業の強みを生かし、約900平方メートルのグラウンドも2カ所整備した。多言語対応の子育て支援施設や医療施設、食品スーパーなども、高い評価を集めているという。

「世界からヒトやモノを呼び込むことで、街を活性化させる」と話す辻社長

世界的なESG(環境・社会・企業統治)投資の高まりと、激しさを増す優秀な人材獲得競争にも対応する。森JPタワーは建築物の環境性能を評価する国際認証「LEED」で、建物を対象とする「BD+C」で最高位のプラチナ予備認証を取得した。健康への配慮を示す「WELL」でもプラチナ予備認証を取得。エリア全体が対象のLEEDの「ND」でもプラチナ予備認証を取得済みだ。

辻社長は「世界からヒトやモノを呼び込むことで、街を活性化させる。そうして都市の“磁力”を高めることによって、さらに別のヒトやモノを引きつける好循環が生まれる」と説く。麻布台ヒルズ単体だけでなく、他のヒルズや他社の再開発プロジェクトとも連携させることでエリア全体の付加価値を向上。英ロンドンや米ニューヨークに対抗し、東京の国際競争力をさらに引き上げる絵を描く。

日刊工業新聞 2023年08月15日

編集部のおすすめ