乗用車や軽自動車とは事情が違う…建設機械、電動化の道筋は?|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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乗用車や軽自動車とは事情が違う…建設機械、電動化の道筋は?

乗用車や軽自動車とは事情が違う…建設機械、電動化の道筋は?

コマツの20トン電動ショベル

乗用車や軽自動車とは違う、建設機械特有の事情に配慮してほしい―。日本建設機械工業会(建機工)が8月にまとめたカーボンニュートラル温室効果ガス排出量実質ゼロ)実現に向けた国への要望では、こうした思いが行間の随所ににじむ。カーボンニュートラルの推進は地球温暖化対策のためにもちろん重要だが、実施には建機特有のハンディキャップと悪条件が付きまとう。世界的な脱炭素の流れに乗り遅れないためにも、国を挙げた支援が不可欠だ。(編集委員・嶋田歩)

欧米や中国では、すでにかなりの勢いで乗用車の電気自動車(EV)化が加速している。北米では米ゼネラル・モーターズ(GM)、米フォード・モーターに続いてスウェーデンのボルボが充電器に米テスラの充電設備「スーパーチャージャー」を採用した話も伝わる。スーパーチャージャーは北米に1万2000基近く設置済みとされ、こうした充電設備が一般メーカーも使えるようになることでEVの汎用性、利用性が一層高まる。車や電池価格の低下にも追い風になりそうだ。

「EVで使われているリチウムイオン電池(LiB)を、油圧ショベルや鉱山ダンプにそのまま利用するわけにはいかない」。建機大手の社長らは、こう口をそろえる。建機は乗用車と比べて、車体重量や駆動に必要なパワーが桁外れに大きい。大型電池を多く搭載する必要があり、車体の高額化に加えて充電時間がどこまで延びるのか計り知れない。充電に半日や丸一日もかかっていては、とても工事現場で使えないからだ。

充電インフラそのものの問題もある。乗用車なら充電設備は都市部や高速道路要所にあるステーション設備で対応できるが、建機は山奥のダムなど、交通の不便な場所で使うケースが多い。災害現場の復旧工事のような足場の悪い場所も、建機の活躍場面となる。

建機工が8月に「カーボンニュートラル実現に向けた要望」をまとめたのは、2021年版と22年版に続いて3回目となる。「会員各社からの広範かつ具体的なコメントに加え、今回は購入者やユーザーである建設業者や建機レンタル会社からの要望も多く盛り込んだ」。建機工の小山智専務理事は自信を持って語る。

ボルボは電動建機で既に欧米で販売実績を持つ

結果的に、今回の要望では従来まではなかった、複数建機を同時充電可能な大容量急速充電設備の開発と整備支援や、可搬式充電設備の制度整備、大規模工事現場の夜間大量同時充電への対応などを盛り込んだ。電力需要が多い夏冬期間の安定的な電力供給も求めている。

ユーザー・建設業支援/導入補助金・税優遇求める

湾岸工事や駅前再開発のような大規模工事現場では、数十トンクラスの油圧ショベルやダンプトラック、ローラー、ブルドーザーなどが多数行き交う。これらの多くの建機が電動になった場合、充電のための待ち行列は許されない。数台の立ち往生が工事全体の遅れなどにつながる。また家庭用電力なら電気料金が安い昼・夜間に使用をシフトする価格戦略が可能だが、納期や工事現場の制約に左右される建機はそうはいかない。道路工事・鉄道工事は利用客や交通渋滞影響が少ない夜間に集中工事を行うなど、取れる行動が制限される。今回の要望ではこうした現場実態も盛り込んだ。

建機ユーザーの支援では、建機本体への思い切った補助金や税制上支援、大容量電源の設置に対する支援、二酸化炭素(CO2)削減量に応じたインセンティブ補助、電池リサイクルを進めやすくする制度の整備項目を盛り込んだ。

ノルウェーなど北欧の一部では、電動建機を使った場合、コストの半額を行政側が援助するとされる。電動ショベルの価格はおおむねディーゼルエンジンショベルの3、4倍。半額補助でユーザーにとってのコスト差が2倍以内に縮まれば、「夜間工事での活用や、排ガスが許されない地下工事や閉鎖空間工事での活用、オペレーターの操作負担が少ないことなど、電動建機ならではの長所に目を付けて利用しようとするユーザーも増えるのでは」(小山専務理事)と見通しを立てる。摩耗部品なども電動はディーゼルエンジンより少なくできるため使用寿命が長くなり、長期間で出費の元が取れるはずだと指摘する。

公共工事入札における有利な取り扱いの視点も重要だ。そもそも入札時に、カーボンニュートラル対応のために電動建機による工事しか認めないのであれば、建設会社は価格が割高でも電動建機を使わざるを得ない。普及が進む乗用車のEVと対照的に、建機の分野で電動建機の占める比率は1%未満と低い。比率を高めるには、時としてこうした荒療治も必要になる。

欧州の一部は、すでにこちらの制度も発動している。考えなければならないのは、同じ制度を日本が採用できるかの問題に加え、普及に必要な電池容量やサイズ、部品の規格化、充電方式などの標準策定が欧米諸国によってすでに進められつつある点だ。

規格化や標準化が国内で統一されれば理想ではある一方で、世界市場の中で日本でしか使えない「ガラパゴス規格」になりかねない。電池開発にしても、規格化・標準化の問題にしても国内統一と並行して海外との協調、整合性を考えることが必要となる。


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日刊工業新聞 2023年08月11日

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