輸送力34%不足の可能性も…物流「2024年問題」の本質と対策|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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輸送力34%不足の可能性も…物流「2024年問題」の本質と対策

輸送力34%不足の可能性も…物流「2024年問題」の本質と対策

政府が何も対策を講じなければ、30年に輸送力が34%不足する可能性がある(イメージ)

トラックドライバーらの時間外労働上限規制の開始まで1年を切った。この規制に伴い、陸上輸送能力が不足して物流が停滞する「2024年問題」への懸念が高まっている。荷主企業や物流業界などでは問題解決に向けた取り組みが活発化してきた。ただ、24年問題は物流だけの問題ではない。全体像を知り、消費者を含めた関係者が取り組む必要がある。(梶原洵子)

2024年問題で想定される影響

荷主主導で効率化  トラック3台「リレー」輸送実証

そもそも24年問題はなぜ起きるのか。残業規制は最終的な引き金であり、実際は複数の要因が重なっている。物流業界は以前から人手不足で効率化投資も遅れていた。これを長時間労働で補い、現場を回していたが、残業規制でこれができなくなり、輸送力が不足するのが24年問題だ。

規制に対応するには物流事業者は仕事を減らすか、短い時間で多く輸送できるように効率化する以外に方法はない。仕事を減らせばドライバーの収入が減り、人材が他産業へ流出し、さらに輸送能力が減るという悪循環も起こりえる。政府は何も対策を講じなければ、30年度に輸送力が34%不足する可能性があるとしている。

これが現実になれば、企業の生産活動などに影響するほか、スーパーに並ぶ生鮮食品の鮮度低下や宅配サービスの縮小といった形で一般消費者にも影響が出る。ヤマト運輸は、一部区間を翌日配達から翌々日配達に切り替えた。最悪の事態を阻止しようと、物流事業者や荷主企業などが悪戦苦闘している。

企業や政府などが打ち出す対策は、主に「効率化」と「商慣行の見直し」の二つだ。

デンソーやアスクルなど7社は7月、関東・関西間で共同幹線輸送の実証試験を実施した

デンソーやアスクル、エレコムなどの7社は7月、関東と関西の集積拠点間の長距離輸送をトラック3台のリレーでつなぐ「幹線中継輸送」の実証実験を行った。コンテナを脱着できる車両と2次元コードによるコンテナ管理システムを使い、複数の荷主と複数の運送業者が荷物を運ぶ新しい輸送形態「SLOC」の社会実装を目指す。業種の垣根を越えた最新の取り組みだ。

宿泊を伴う長距離輸送は拘束時間が非常に長い。これを解消する中継輸送は「負担軽減の効果が大きい」(全日本トラック協会〈全ト協〉)と期待されている。また、この実証では、荷物の積み降ろしなどの荷役作業をドライバーではなく荷主企業が行う「荷役分離」や、異業種の荷主企業の荷物を同じコンテナに混載する「混載輸送」も行った。いずれも有望な効率化策だ。

トラック1台当たりの荷物の積載量を増やせる「共同輸送」も広がっている。最近では、化学業界で三菱ケミカルグループと三井化学、製薬業界で田辺三菱製薬と小野薬品工業、塩野義製薬の製薬3社と医療流通のエス・ディ・コラボ(東京都千代田区)が共同輸送を開始した。以前から共同輸送に積極的な飲料業界は、日用品や食品などとの共同輸送も拡大している。

このほかにも鉄道輸送などで代替する「モーダルシフト」、2台分の荷物を運ぶ「ダブル連結トラック」の導入促進、ロボット活用などの効率化は今後も増加が予想される。

注目すべきは、こうした取り組みを主導するのは荷主企業だということだ。物流事業者は注文に合わせて荷物を運んでおり、自ら共同輸送などの踏み込んだ提案をしにくい。荷主から変わらなければならない。

一方、警察庁が検討を開始した、高速道路での大型トラックの最高速度の引き上げも効率化策の一つ。ほかの効率化策に比べ追加投資なしに輸送時間を短縮できるが、ドライバーの労働環境改善に逆行するのではないかとの見方もある。こちらは議論が尽くされる必要がある。

商慣行見直し 荷役・荷待ち短縮/取引価格改善

また、長年の荷主企業と物流事業者の関係性の中に、効率化を阻むものがある。政府が6月にまとめた「物流革新に向けた政策パッケージ」では、3分野の施策の中で真っ先に「商慣行の見直し」をあげた。

「物流革新に向けた政策パッケージ」の具体的な施策

具体的には、荷役時間や荷物の積み降ろしの順番を待つ「荷待ち」時間の削減、物流込みの取引価格などの見直し、物流産業の多重下請け構造の是正、適正な運賃収受などが施策に盛り込まれた。「トラック出発の2―3時間前に荷物量を連絡する荷主もいる」(全ト協)。これでは効率的な車の配備などを考える時間もない。

国交省の22年度の調査によると、運賃引き上げが一部でも通った運送事業者は回答企業の43%。31%は交渉もしていなかった。適正な運賃収受の難しさがうかがえる。商慣行の見直しは継続的な取り組みが必要で、法制化を含め踏み込んだ施策が必要になるだろう。

倉庫へのトラック到着日時予約システム「ムーボ・バース」などで国内シェアトップのHacobu(東京都港区)の坂田優取締役執行役員最高執行責任者(COO)は、「国交省のガイドラインで(積み降ろし順番を待つ)荷待ちや荷役の時間を荷主企業の主導で3時間から2時間に短縮する目標を示したのは画期的だ」と話す。定量的な目標の下、改善を進めやすくなる。

荷待ちや荷役の時間が長い理由は、「トラックが物流センターに入る時間などをコントロールしていない企業が多いからだ」と坂田COO。必要な時に必要な量を供給する考えが浸透した自動車業界などは例外で、到着予定を午前・午後、1日の間、2―3日間といった広い幅で把握する業種は多いという。

Hacobuは、顧客企業の荷待ち・荷役時間の短縮のため、まず到着するトラックの台数を時間帯ごとに見える化し、集中する時間帯を見つけ、予約システムを使って到着時間を分散させる。入荷情報を事前に取得することで伝票確認や検品にかかる時間も短縮。ムーボ・バースなどの同社の物流DXツールを導入した企業は、待機時間を平均63・3分削減できた。

予約システムは、倉庫の効率化に向けた最初の一歩。24年問題に対して、今からでもできることがある。

物流の効率化ために商習慣の見直しも必要になる(イメージ)

消費者にも役割がある。まず第一は物流を知ることだ。政策パッケージには「送料無料」表示の見直しに取り組むことも盛り込まれた。無料の表記は、物流は“軽い存在”というイメージにつながってしまうからだ。実際には物流はさまざまなモノの製造や販売に欠かせない。これを知った上で、宅配の再配達削減などできるところから協力することだ。

24年問題は、物流の問題だが、物流だけでは解決できない。一人ひとりが考え、協力することが期待される。

日刊工業新聞 2023年月8月8日

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