「歴然と違う」成長市場狙う…日本酒が海外攻勢
京都の酒造会社が日本酒の海外需要取り込みで攻勢に出ている。宝ホールディングス(HD)は2026年3月期までの3カ年の中期経営計画で海外市場開拓のため、M&A(合併・買収)や海外工場の生産能力増強に200億円を投じる。月桂冠(京都市伏見区)も日本酒の輸出と海外生産を拡大している。日本酒の国内需要が縮小する一方、海外では日本食人気の高まりとともに需要が伸びており、両社とも海外市場への浸透を急ぐ。(京都・小野太雅)
宝HDM&A・工場増強に200億円
「日本と比べ歴然と違う」。宝HDの木村睦社長は海外市場の成長力に、こう期待感を示す。同社は26年3月期末までに、試薬製造などバイオ関連を除く売上高の海外比率を、現状の48%から60%以上に高める計画だ。
健康志向を背景に、日本食ブームが世界的に広がっている。その食中酒として、日本酒の需要も欧米を中心に拡大。宝HDでも日本食・酒の輸出、海外での酒類製造を手がける子会社、宝酒造インターナショナル(京都市下京区)の23年3月期売上高(1374億円)が、国内事業を手がける宝酒造(同)の売上高(1229億円)を初めて上回った。今後、海外市場の成長を追い風に、M&Aや生産・販売拠点の拡大、倉庫機能拡張を加速させ、北米を中心に市場シェアを伸ばす計画だ。
同社はこれまでも積極的なM&Aで海外事業を成長させてきた。最近では1月に米国で日本食材卸を手がける2社を買収し、米国の日本食材卸事業拠点を従来の8州9拠点から11州12拠点に拡大。酒類事業では5月にカナダの清酒メーカー、オンタリオを買収し、北米の酒類製造拠点を従来の2拠点から3拠点へ拡大した。カナダでの製造拠点は宝HDにとって初めてで、市場が拡大する北米での日本酒需要の取り込みとともに、同地域でニーズのある酒類の開発力獲得が狙いだ。
国内事業を担う宝酒造との連携も強化。スパークリング清酒「澪(みお)」や、吟醸酒をはじめとした高級清酒の輸出も拡大するなど、「宝酒造と宝酒造インターナショナルのシナジーを発揮し、和酒・日本食のグローバルな拡大を目指す」(木村社長)。
月桂冠輸出拡大、欧州・中南米も視野
月桂冠も日本酒の海外生産と輸出の強化を両輪で進めている。米国のカリフォルニア州フォルサム市に酒造拠点を持っており、現地の米を利用した純米酒「トラディショナル」や同「ブラック&ゴールド」を生産。米国内だけでなく、カナダや韓国などアジアに向けても供給しており、22年の製造数量は前年比2%増の約6247キロリットル。出荷実績の大半を占める米国内向けでは、卸向け実販数量が5%増と好調に推移した。横林俊樹貿易部長兼貿易課長は「日本食が普及しつつある欧州連合(EU)や中南米でも販売を強化したい」とし、中長期では同拠点の年間生産能力を1万キロリットルまで拡大する計画だ。
同時に日本国内からの酒類の輸出も強化する。足元の輸出数量は年間2400キロリットルで、国内生産する酒類の約7%に当たる。横林貿易部長は「輸出量を毎年数%ずつ上乗せしたい」と意気込む。