消費者の生活圧迫する「値上げ」…企業が回避・先延ばしへ重ねている努力とは?
食料品や日用雑貨など身近な製品の値上げは、消費者の生活を圧迫し続けている。原材料高や輸送コスト上昇などが主な理由とされ、消費者も値上げをのまざるを得ない状況だ。一方で、消費者からは「値上げラッシュに便乗しているだけでは」という疑念の声も聞かれる。メーカーや小売りができる限り値上げを回避または先延ばしできるように、どのような企業努力を重ねているのか。各社の取り組みを調べた。(編集委員・井上雅太郎、丸山美和)
価格転嫁やむなく 原燃料高・コロナ響く
食料品や日用雑貨の価格は2023年に入り大きな値上がりはなくなったものの、値上げが話題になる前の20年に比べ軒並み10―20%高で上昇している。市場調査会社のインテージが公表した食品・日用雑貨などの店頭販売価格の値上げ調査によると、23年3月に調味料ではキャノーラ油は88%高、サラダ油は48%高、マヨネーズも35%高、マーガリンが19%高となった。小麦も10―20%高い状態。
一方、日用雑貨は食品に比べ価格上昇が遅れていたが、22年6月ごろから20年比10%を超える値上がりを始めた。ヘアケア製品は23年3月に13―14%高。洗濯用洗剤が16%高。アルミホイルは46%高に達し、ラップフィルムも20%高前後で推移している。また23年に入って紙製品の値上げが顕著になった。3月にはティッシュペーパーとトイレットペーパーがそれぞれ13%高、生理用品も15%高などと値上がりしている。
値上げの背景にはロシアによるウクライナ侵攻に端を発した原燃料コストの高騰や、コロナ禍での物流費・人件費の上昇圧力などがある。企業で吸収するのは限界として価格に転嫁する単純値上げに踏み切るケースが多くみられる。消費者側は受け入れざるを得ないが、一方で消費行動が消極化するマイナス影響の懸念が生じる。
流通・小売り 生産・調達見直し、価格維持でPB好調
全国で1万6000店以上を展開するイオンでは、22年末にプライベートブランド(PB)「トップバリュ」で扱う牛乳やチーズなどの乳製品を10%程度値上げした。それ以外のPBの主要商品は、製造コストを下げることでメーカーが作るナショナルブランド(NB)商品の70%程度の価格を維持している。
例えば、ペットボトル入りの天然水は箱買いする顧客が多い。ペットボトルに巻いていたプラスチック製のラベルをなくし、採水地などの表示を箱に記載。年間の生産計画を立て、委託製造工場の稼働率を上げた。4拠点だった製造委託先も11拠点まで増やし、物流センターまでの配送距離を短くして輸送費を下げた。
一方、さまざまな商品で原料として使うトマトペーストはサプライヤーを集約。これまでの商品ごとの調達を止めて、集約したサプライヤーから大量購入することで、工場での生産効率を上げて経費を削減した。
これらの積み重ねによるPB価格の維持によって「NB商品からのブランドスイッチが起こり、トップバリュの食品の売り上げは5%以上伸長している」(イオン広報)という。
ファミリーマートではこの1年で食品は10%強、日用品は10%弱の値上げを実施した。同社でも製造段階のコスト削減に取り組んでおり、海苔(のり)が最初から巻いてある「直巻きおむすび」は、メーカーと協力してラベルシールの貼付を止めて包材に印刷するよう変更した。年間200トン以上のシールをなくすことができ、コスト削減効果も大きい。同社は製造ラインの機械化を加速しており、人の作業負担軽減だけでなく、人件費抑制にもつながっている。
また、これまで日本のメーカー品もしくはメーカー経由で輸入していたパスタを、親会社の伊藤忠商事と連携してファミマが海外で現地調達するように変更した。「大量購入によって原材料価格を抑えて、商品価格を抑制したい」(中里聡信SCM・品質管理本部副部長)との考えだ。
セブン―イレブン・ジャパンは、セブン&アイグループの各店で購入できるPB商品「セブンプレミアム」の一部に「安心価格」を設定。カップ麺やマヨネーズ、しょうゆなど計143アイテムを対象としている。NB商品よりも価格が低めな点などが評価され、売れ行きは好調だ。
消費財メーカー 情報発信・機能アップ、付加価値高め値上げ
しょうゆなど調味料や加工食品メーカー、キッコーマンは原材料高騰などのコスト上昇を企業努力で吸収してきたが、23年4月1日納品分から値上げを実施した。値上げ幅は希望小売価格で5―11%。値上げ直後のため、同社は「まだ売り上げへの影響は分からない」とするが、販売促進の一環で「お客さまに役立つ情報発信を強化している」という。
例えば、同社レシピサイト「キッコーマン ホームクッキング」や、スマートフォンアプリケーション「ホームクッキング きょうの献立」でのレシピを拡充。さらに「店頭や会員制交流サイト(SNS)などでも季節の安価な食材と合わせたレシピを発信している」。また商品では「食生活に関わる悩みを解決できるような付加価値の開発に取り組んでいる」とし需要拡大を目指す。
「日本市場は価格改定について海外に比べて厳しい環境だ」と、指摘するのはサントリー食品インターナショナルでこのほど就任した小野真紀子社長。22年10月出荷分からペットボトルとボトル缶商品で値上げを実施した。値上げ幅は希望小売価格の6―20%。売り上げへの影響について「想定内に収まっている」としながらも、国内販売量で約4%を押し下げたという。
同社は値上げをカバーする対策を「値上げ後も引き続き『サントリー天然水』『BOSS』『伊右衛門』といったコアブランドを強化していくほか、『特茶』などの健康茶カテゴリーの高付加価値商品群で需要創造していく」方針だ。
「気が進まない習慣を前向きに楽しくする付加価値により高価格帯にシフトする」。ライオンの掬川正純会長はこう戦略を説明する。同社は「これまでコスト高を価格に転嫁する単純値上げは実施していない」という。それでもコスト増を吸収するため製品単価を引き上げていく必要がある。それを「高付加価値製品の導入・育成により実現していく」(同社)方針だ。
高価格帯シフトを推進するドライバーが22年に発表した新戦略「ポジティブ ハビット(より良い習慣)」となる。製品の付加価値により楽しくなる作業に変えると同時に、価格の引き上げを実現する。
2月に発売した洗濯洗剤(おしゃれ着用)「アクロンスマートケア」は通常2回必要な、すすぎ工程を不要にできる。洗濯時間や水の使用などを約半分にして、洗濯作業を楽にする。4月発売の新柔軟剤「ソフラン エアリス」は洗濯の面倒な作業を香りと感触の良さで楽しくする。さらに6月と12月にもポジティブ ハビットによる新商品の投入を計画している。