持続可能な水産業の未来を、高知から ―水産資源を守り価値を高める函館・道水グループの挑戦|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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持続可能な水産業の未来を、高知から ―水産資源を守り価値を高める函館・道水グループの挑戦

道水(北海道函館市)は、水産物の卸売業や冷凍冷蔵庫事業、加工品の製造販売を手掛ける、道内有数の企業だ。事業の範囲は日本にとどまらず、北米や地中海、アフリカにまで及ぶ。2011年からは新たに国内でマグロの養殖事業に取り組み、事業エリアも業容も広げる中、髙野元宏社長は「これからは中小企業もサステナビリティの取組みがこそが重要になる」と強調する。

「食のフロンティア企業であれ」

同社は水産物製造業として1947年に創業。国指定の水産物集出荷機関として、日本の食卓を支えてきた。93年に函館に本社を移転する際に現在の社名に変更した。

主力商品はマグロ。モロッコでは置網漁を展開するほか、マルタ島やメキシコでは捕獲した魚を育てて出荷する畜養ビジネスを手掛ける。北海道発のグローバル企業として品質の高いマグロを育てるユニークな取組みからもグループの企業理念「食のフロンティア企業であれ」を実践していることがうかがえる。

国内では高知県近海の暖かな黒潮をいかして、クロマグロとブリの養殖に取り組んでいる。「黒潮本まぐろ」のブランドで年間に約1万5000匹を出荷。21年には「全国養殖クロマグロ品評会」で最優秀賞を受賞している。

日本は天然クロマグロの世界一の消費国だ。ただ、90年代から資源量の減少が指摘され、2014年には太平洋クロマグロが絶滅危惧種に指定された。近年は資源回復が進み(21年にクロマグロは‘準’絶滅危惧種に引き下げられている)、資源量も直近のピークである90年代半ばに近づきつつあるが、予断は許さない状況が続く。
 こうした天然の水産資源が減少している日本において、漁業を支える大切な産業が養殖業だ。

70年代から日本ではマグロの養殖が始まり、最近の出荷量は天然のマグロの漁獲量を上回っている。道水グループでは養殖した魚を鮮魚として出荷するだけでなく、切り身などにも加工して販売している。北海道の企業が道外で養殖の魚の生産から加工までを一貫して手掛けるのは珍しい。髙野社長は「生産だけでなく食品加工や販売なども手掛ける『6次産業化※』で付加価値を高めることで安定した生産と供給につなげたい」と語る。

※6次産業化~農林漁業者(1次産業)が、農産物などの生産物のもともと持っている価値をさらに高め、農林漁業者の所得(収入)を向上していくこと

サステナビリティが水産業にも不可欠な時代に

同社は、環境問題でも「フロンティア企業」を実践する。
 「食のフロンティアであり続けるためには、サステナビリティが非常に重要な時代になっています。特に環境負荷の低減は不可欠で海を守らなければ私たちの事業も危うくなりかねません」(道水、髙野社長)。
 グループ内でマグロ養殖を手掛ける道水中谷水産(高知県大月町)。同社は2022年8月には環境にやさしい漁業や養殖業を認証する「マリンエコラベル」を取得。ブリの養殖場では海をできるだけ汚さないように生き餌ではなく、食べかすが出にくい練り餌を使用する。クロマグロ養殖でも生き餌から練り餌に換える取組みに着手している。

餌の保管時に乾燥や荷崩れを予防するために使うラップも25年までに再生可能なビニールに変更する。再生可能なビニールを使うことで1日40パレット相当のごみ削減になるという。

労働環境や雇用への目配りも忘れない。
 道水中谷水産は企業理念に「人を大切にする会社・人を育てる会社」を掲げる。
 「水産業界は3Kの職場とも思われがちで、人材が集まりにくい業界です。日本社会は少子高齢化で、特に地方は東京一極集中の影響でどう人材を確保するかはこれまで以上に課題になります。職場環境を改善すると同時に地域活性化のために地元採用も力を入れています」(道水中谷水産、唐澤社長)

道水中谷水産 唐澤社長

若年層の採用は事業拠点の高知県と長崎県で地元の高校から毎年新卒を採用している。今後10年間で計20人を採用予定だ。インターンシップも強化し、同じく10年で計100人を受け入れる方針を掲げる。
 雇用の継続にも力を入れる。65歳時点で再雇用を希望する従業員には作業内容を考慮しながら必ず再雇用を実施する。働きやすさも充実させ、船舶免許など業務上必要な資格取得の費用を補助している。

若年層の採用に力を入れる

すべては意識改革とモチベーション向上のため

道水中谷水産では、環境対応や採用体制の見直しのほかにもBCPの策定や人事評価制度の刷新など急ピッチで体制整備が進む。具体的な制度づくりは決してハードルが低くないが、商工中金のポジティブ・インパクト・ファイナンス(PIF)の存在が大きい。
 PIFはSDGs(持続可能な開発目標)の三つの柱(環境・社会・経済)への企業の前向きな取組みを評価し、サポートする枠組みだ。環境負荷低減と企業の収益向上で社会面、環境面、経済面でKPI(重要業績評価指標)を設定することで取組みを促進させる狙いがある。

道水 髙野社長

「PIFへの取組みは社員のモチベーションをあげたい、意識を改革したいというのが大きな理由です。取組みを外部から評価されることで、自社の方向性が間違っているのか間違っていないかを誰もが確認できます。対外的にも多くの人に自社の取組みが認識してもらえて、社員の意欲向上にもつながります。社会が大きく変わる中、中小企業も変わらなければいけません。全国にネットワークのある銀行でありながら、地域に密着する商工中金さんならではの視点で、これからもサポートしていただきたいです」

「マグロの情報発信とともに、新たなビジネスの創出を」 商工中金 函館支店 友松さん

道水グループはホームページに「全社員の幸福を追求すると同時に社会の発展に貢献する」という理念を掲げておられ、PIFと親和性があると考えていました。また当初より環境への配慮や社会への影響に関する取組みが、今後の企業活動に必要不可欠だという認識を髙野社長と共有していました。
 サポートに際しては現状の取組みから確認し、具体的に目標を定めて取組みを促進させるKPI設定などをお手伝いしました。食物、水産資源に関するもの以外についても道水グループの考えである「全社員の幸福を追求する」ことを念頭に、地域貢献、社員教育面に関する目標も設定し、対話を通して実現可能かつ具体的な目標設定を意識しました。
 今後は設定した目標に関して「お客さまの成長こそが商工中金の成長である」ことを忘れずに、当金庫の連携機関や別のお客さまと御縁結びをすることも含め伴走支援してまいります。適切な管理環境のもと生育された美味しいマグロの情報を発信し、新たなビジネスを創出したいです。

商工中金:https://www.shokochukin.co.jp/
 PIFについて詳しく知りたい方はこちら:https://www.youtube.com/watch?v=ilDB68GTQzU
 「ニュースイッチ×商工中金 フリーペーパー」でも紹介中。ダウンロードはこちら

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中小企業が描く、持続可能な未来
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