期限30年へ折り返し、SDGs推進役が指摘する日本企業の課題|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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期限30年へ折り返し、SDGs推進役が指摘する日本企業の課題

グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事の有馬利男氏に聞く

2016年にスタートした持続可能な開発目標(SDGs)は、期限である30年に向けて折り返しに入った。国連からSDGs推進の役割を託されたグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンの有馬利男代表理事に前半の評価を聞いた。日本ではSDGsの認知度が高まったが、有馬代表は「本質の理解と戦略性が遅れている」と日本企業の課題を指摘する。

―日本の温室効果ガス排出量は20年度まで7年連続で減少しました。気候変動対策は進展したように思います。
 「数字だけを見ると進んだと言って良いだろう。だが、再生可能エネルギーの導入量やコストは、ほかの先進国と差がある。再生エネの供給を支える送電網の増強が遅れ、石炭火力からの撤退を表明しないなど、日本は政策面で思いきりの悪さがある」

―ほかの分野はいかがでしょうか。
 「ビジネスと人権をめぐる課題への取り組みも進んだ。国連が各国に求めていた行動計画を日本政府が20年10月に策定すると、多くの企業が人権方針を打ち出した。しかし、実際の活動への落とし込みは少ない」

グローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン代表理事の有馬利男氏

―ジェンダー平等(性差解消)は、国際社会から遅れが指摘されている課題です。
 「私たちの会員調査では8割がジェンダー平等にかかわる方針を掲げていた。役員の女性比率や男女の賃金格差の開示など、規制があると取り組みやすい。だが、なぜ、格差解消が必要かという根底にある価値観の変革が遅れている。本質を押さえないと、女性比率などの数字を追うだけになるのではないか」

―SDGsの認知度は高まりましたが、意識という面ではいかがでしょうか。
 「認知度は十分に高まったが、実態を伴わない面がある。何を行い、どこまで進め、どう変革させるかという本質が十分に理解されていない。欧州企業には新しいビジネスモデルを創造し、成長につなげる戦略性がある。我々の反省でもあるが、本質の理解に加え、戦略性でも日本の遅れを感じる」

―後半の課題や必要となる取り組みは。
 「日本企業にも戦略的に取り組む意識を醸成したい。SDGsはビジョンに繁栄も掲げており、企業で言えば収益に知恵を絞る必要がある。政府にはSDGs目標を示してほしい。進捗(しんちょく)は評価しているが、目標もあれば戦略を立てやすい」

―大企業、中堅・中小企業にそれぞれ求められることは。
 「日本の大企業は欧米を参考に水準を高めてほしい。そして中堅・中小企業は大企業を目標に推進してほしい。大企業の経験を中堅・中小企業が学べる仕掛けを、我々も作りたい」

―上場企業はSDGsの取り組みが投資家から評価さるようになりました。非上場の中小企業のメリットは。
 「私が勤めていた富士ゼロックスでの経験で言えば、CSR(企業の社会的責任)に取り組んだ調達先は従業員の意欲が高まり、不良品の発生による損失が減った。SDGs活動によっても従業員が働きがいを持つと退職者が減り、新人教育の費用を抑えられる。また、優秀な人材が定着して企業も成長する。従業員満足度は長い目でみると経済的インセンティブであり、こうした成果を可視化して中小企業を後押ししたい」

【記者の目/利益生み出す戦略性を】
 「SDGsはビジネスチャンス」と盛んに言われたが、SDGsでビジネスを獲得した企業は多いのだろうか。欧州連合(EU)は域内企業の競争力とSDGsを結び付けており、再生エネ導入も化石燃料のロシア依存脱却である、との戦略を明確にしている。有馬氏は「良いことだからという理由だけでは、SDGsは続かない」とも指摘する。30年に向けて利益を生みだす戦略性が求められる。(編集委員・松木喬)

日刊工業新聞 2023年02月17日
松木喬
松木喬 Matsuki Takashi 編集局第二産業部 編集委員
有馬代表から指摘がありましたが、ここまでの取り組みの成果を可視化するのが良いと思いました。「言われたから」や「雰囲気で」やっているのか、それとも経営にメリットがあったのか、振り返ってみるタイミングかと思いました。

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