「SiC半導体」「量子コンピューター」…23年注目の新技術はこれだ!|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

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「SiC半導体」「量子コンピューター」…23年注目の新技術はこれだ!

「SiC半導体」「量子コンピューター」…23年注目の新技術はこれだ!

理研の量子コンピューター(理研提供)

脱炭素、デジタル変革(DX)、持続可能な社会の実現…。2023年も産業界は多くの課題を抱える。ただ、それらを解決に導く技術の種は育っている。多様な産業に変化をもたらしそうな注目技術をまとめた。

SiCパワー半導体 EV向け採用拡大

富士電機の産業分野向けSiC半導体モジュール

脱炭素社会を目指す世界の潮流を背景に、産業機器の消費電力を削減できる炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の需要が拡大している。鉄道や産業機器向けが中心だったが、23年以降、国内外の電気自動車(EV)による採用が本格化する。

パワー半導体は電気をオン・オフするスイッチの役割を果たし、交流から直流への変換や、電圧の調整に使われる。SiC製のパワー半導体は、主流のシリコン(Si)製に比べ、電力変換時の損失が少なく、高電圧や高電流に耐えられるのが特徴。車載インバーターを小型化でき、EVの航続距離を伸ばすことも可能になる。

自動車向けは米テスラが主力EV「モデル3」などに採用しているほか、トヨタ自動車も20年発売の新型「MIRAI」にも搭載されている。トヨタは23年に発売する高級EV「レクサス RZ」にもSiCを採用する。

需要の高まりを受けローム富士電機、日立パワーデバイス(茨城県日立市)といった国内メーカーも増産投資に動いている。各社はEV向けの受注を獲得しており、搭載車種数は24年前後から増え始める見通しだ。自動車の電動化が進むのに合わせて、SiCパワー半導体が本格的な普及期を迎えようとしている。

IOWN 3月提供開始

IOWNで自動運転の高度化も期待されている(イメージ)

NTTは、次世代光通信基盤の構想「IOWN(アイオン)」の第1弾のサービス「オールフォトニクス・ネットワーク(APN)」の提供を3月に始める計画。

従来、ネットワークは電気と光の変換を継続的に行いながら、データ伝送を行っていた。APNはネットワークから端末まで、電気信号へ変換することなく、光でデータを伝送。通信の遅延を従来比200分の1に低減するほか、光ファイバー1本当たりの通信容量を同1・2倍にする。遠隔手術やスマートファクトリー(つながる工場)、eスポーツ、データセンター(DC)間接続などでの活用を見込む。

ただ忘れてはいけないのが、今回のAPN始動はIOWN実現に向けた序章に過ぎないということ。IOWNでは半導体チップの信号処理を電気ではなく光で行う「光電融合」の実現をうたっている。30年度以降に半導体チップ内の光化を行い、電力効率を従来比100倍に高める方針だ。島田明社長は「今回発表したAPNサービスは、低遅延に着目したサービスだが、IOWNの最大の特徴は電力効率の向上」としている。

量子コンピューター 理研、国産初号機公開

量子コンピューターは現行の計算機を凌駕する計算性能を期待されている。23年は理化学研究所で開発中の国産機の初号機が公開される予定。企業は研究に活用できる。将来、新薬や材料の開発、自動運転の実現など幅広い産業の発展に役立つと期待される。

国産初号機は超電導方式で量子ビット数は64個。このうちで実際に計算に使える量子ビット数が焦点となる。例えば米IBMは433量子ビットのプロセッサーを発表済み。ただ量子ビットにエラーが乗る。量子ビットのエラー率が高いと、計算に使える量子ビット数は一部になる。量子ビットの数と質がともに重要だ。

この質を決めるのは量子物理学の知見だ。基礎科学が実用機の性能に直結する。理研の五神真理事長は「日本にとって中を自由に触れる国産機は必須。初号機で研究開発の環境が整う」と説明する。

ソフトの面ではNTTが現行計算機よりも量子コンピューターが高速に解けるアルゴリズムを考案した。これは1994年に提案された素因数分解アルゴリズム以来の約30年ぶりの進歩になる。量子コンピューターで解ける問題が広がり、世界中に研究が拡大した。23年はハードとソフトの両面で研究が加速する年になる。

ケミカルリサイクル 実証設備相次ぎ建設

住友化学のアクリル樹脂ケミカルリサイクルの実証設備

プラスチックのリサイクル拡大に向けて、廃プラを新品同等の品質に再生できるケミカルリサイクル技術への期待が高まっている。

現在のリサイクルは廃プラを洗浄、破砕して溶かし、プラ加工に使う材料(ペレット)に戻す「マテリアルリサイクル」が主流だが、これは弱点がある。リサイクル原料とするには多様な種類のプラを厳密に分別する必要があり手間がかかる。また、リサイクルを繰り返すとプラの品質が落ち、再生プラの用途が限られてしまう。

プラは小さな「モノマー」が鎖状に連なった「ポリマー」構造をとる。ケミカルリサイクルは同構造内の結合を化学反応で切り、モノマーやモノマー原料の油に戻す。ここから従来プラと同じ方法でポリマーを作るため、新品と同等品質となり、用途を広げられるというわけだ。

ケミカルリサイクルの実証設備の建設が相次いでおり、住友化学はアクリル樹脂用の実証設備を完成させ、今春にサンプル供給を始める。三菱ケミカルグループはアクリル樹脂用の実証設備に続き、多様なプラを油に戻す実証設備は23年度に稼働する予定だ。ただ、再生プラは従来のプラに比べコストが高く、受け入れる社会や文化の醸成も求められる。

バイオファウンドリ バイオものづくり基盤整備

大阪大学がバイオものづくりで使うバイオリアクター

バイオ分野では「バイオファウンドリ」に関する取り組みが活発化しそうだ。

このバイオファウンドリは、遺伝子などを人工的に設計・構築する合成生物学と、人工知能(AI)などの情報科学を融合した技術群を指す。ゲノム編集やDNA合成技術を使い、遺伝子などを設計・構築。その遺伝子の性能を評価し、結果をAIが学習する「DBTL(設計・構築・評価・学習)サイクル」を繰り返す。目的の化合物を生成する「スマートセル」などでの応用が期待され、バイオ由来の製品を高効率に生産できる可能性を秘める。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)はバイオ技術で物質生産を行う「バイオものづくり」を標榜し、その実現のためにバイオファウンドリ基盤を整備する。設計の効率化に加え、生産プロセスの開発も重要テーマとなる。大阪大学はバイオものづくり分野の人材育成プログラム(NEDO特別講座)を4月に開講する予定。

世界的には米国のギンコバイオワークスが代表的な企業だ。日本では神戸大学発スタートアップのバッカス・バイオイノベーション(神戸市中央区)や、グリーン・アース・インスティテュートが事業化を目指す。


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日刊工業新聞 2023年01月09日

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