需要減速の「半導体装置」、メーカー首脳たちが語る展望
半導体製造装置大手の利益の伸びが鈍化している。国内大手8社の2022年4―9月期の連結営業利益は合計で前年同期比33%増の約5900億円だった。5半期連続でプラス成長を維持したが、伸び率は21年10―22年3月期より50ポイント縮小し、減速感が鮮明だ。景気減速による顧客の半導体メーカーの投資抑制が響くほか、米国の対中規制なども逆風となる。中長期では引き続き成長が見込めるが、23年に需要の谷が深まる可能性がある。(山田邦和)
8社合計の連結営業利益は米中貿易摩擦が顕在化した19年4―9月期に前年同期比40%まで落ち込んだが、その後は徐々に回復。半導体の用途が大きく広がり、半導体メーカーが設備投資を拡大。製造装置の需要も急増し、21年4―9月期の利益の伸びは前年同期比2倍超に達した。
足元の変調の背景について東京エレクトロンの河合利樹社長兼最高経営責任者(CEO)は「メモリー分野の顧客の投資延期と米国による中国への規制強化の影響」と説明。23年3月期の営業利益予想を前回から1700億円減の5460億円に下方修正した。過去最高益を見込んでいた従来予想から一転減益となる。
インフレや中国の景気減速などでスマートフォンやパソコンの需要が低迷。データセンター用のサーバーも減速の感がある。東京エレクトロンは下期のメモリー向け新規装置の売上高が4―9月期比で4割、ロジックやファウンドリー(製造受託)向けが同1割強それぞれ減るとみる。
検査装置を手がけるアドバンテストの吉田芳明社長兼CEOは「スマホやパソコンなど民生品に半導体を供給している顧客から(発注)キャンセルや納期遅延の要求が発生している」と明かす。
半導体の先端技術をめぐり、中国への輸出規制強化を米国が打ち出したこともマイナス材料だ。中国が特定の先端半導体の調達や製造をできないようにする措置で、製造装置や設計ソフト、人材についても事前許可を義務付ける。アプライドマテリアルズは8―10月期の業績を下方修正し、ラムリサーチが一部の中国メーカーへのサポートを一時停止するなど影響が広がる。
東京エレクトロンは「売上高の下方修正額(2500億円)の半分程度が対中規制の影響」(河合社長)だ。米国製装置を購入できずに中国半導体メーカーの生産が滞ると、東京エレクトロンが手がける装置への発注も見直されるリスクを織り込んだ。
アドバンテストは「主力製品を日本や欧州で開発しており米国の技術は限られているため現在の規制内容では大きな影響はない」(吉田社長)が「新たな規制へのアンテナを高くする」(同)と注視。ディスコの関家一馬社長兼CEOは「最先端の前工程装置を購入できないことで中国半導体メーカーの生産が滞り、後工程の装置の導入も見直すリスクはある。一方、後工程装置の規制がないうちに前倒しで購入しておこうという心理が働く可能性もある」とする。
需要減速や世界景気の不透明感を受け、来期業績にも慎重な見方が広がる。アドバンテストは7月発表の中期経営計画の中で、24年3月期の売上高見通しについて前期比マイナス15%―プラス10%の範囲内としたが「現在の状況を踏まえると、プラス面の方が縮んできている印象がある」(吉田社長)。東京エレクトロンの河合社長は「データ通信量の増加を背景にメモリー向け投資は23年後半から徐々に回復に向かう」としながらも「当社の売り上げが回復するタイミングは明言を控える」と話す。
メモリー向けの比率が相対的に低く、堅調なパワー半導体の恩恵を受けやすいディスコの関家社長兼CEOは成長基調を維持できるとしつつ「顧客が増産投資だけでなく、新製品開発など『戦略投資』まで凍結し始めるかどうかが一つのカギ」と話す。
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